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ちりぬるをさん

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あの日に戻れたら

17/12/05 コンテスト(テーマ):第150回 時空モノガタリ文学賞 【 悲劇 】 コメント:0件 ちりぬるを 閲覧数:145

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 笑えない、最悪な連絡を私は決勝戦の舞台袖で聞かされた。

 私となーこは出会ってすぐに意気投合し、その日のうちに漫才コンビを結成した。芸人にしておくにはもったいないくらいの容姿なのに天然ボケで人見知り、一人ではなにも出来ないなーこは、なにをするにも私の後をついて来た。
 なーこがボケて私がツッコむというスタイルで五年やってきた。私が書くネタには絶対の自信があったがなかなか芽は出ず、漫才のコンテストに出ても早々に敗退する日々が続いていた。
 転機となったのは今年の始め、芸人仲間の新年会でボケとツッコミを入れ替えて漫才をする余興で大ウケしたことだった。見た目やキャラとのギャップが面白いことに気付き、それまでのネタを全て捨てて新ネタ作りと練習に励んだ。


「もう少し練習しておこうよ」
 深夜の公園で白い息を吐きながらなーこが言う。明日は私達の運命を変えるかもしれない漫才コンテストの決勝戦だった。いくら練習しても足りないと思えるほどに不安があるのだろう。私は公園に設置された時計を見る。そろそろ終電の時間が近付いていた。
「もう少し練習して私の家に泊まっていきなよ」
「明日衣装取りに帰るの面倒臭いし、それにもう帰って、寝て、体調整える方が大事だよ」
 シーソーの上に置いたリュックを背負う私をまだ不安そうな眼差しで見つめる。
「大丈夫。私達ならやれる。一緒に売れよ」
 頭上で拳を合わせた私達はそれぞれの帰路についた。私は一度だけ振り返り、「遅刻するなよ!」と手を振った。

 笑えない、最悪な連絡を私は決勝戦の舞台袖で聞かされた。その後のことはあまりよく覚えていない。真っ白な頭のまま病院へ行き、事故の詳しい状況を聞かされ、なーこの両親が到着するまで私は彼女の傍らにいた。最後まで白い布を取って彼女の顔を見ることは出来なかった。
 帰りの電車の中で私達の後輩がコンテストで優勝したことを知った。そのネット記事の下には「女性コンビを襲った悲劇」という見出しがあったが私はそのリンクを開けなかった。
 
 昨日は緊張であまり寝ていないにもかかわらず、私は真っ暗な部屋でいつまでも真っ暗な天井を眺めていた。事故の起きた時間、場所、状況から察するに寝坊したなーこが急いでいて信号無視をしたのは明らかだった。昨日私が彼女の家に泊まっていれば、身体中を蝕むようなそんな不毛な後悔から逃げるように私はぎゅっと瞼を閉じた。


「もう少し練習しておこうよ」
 白い息を吐きながら言うなーこの姿を見て私は目を大きく見開いた。公園の時計は終電近くの時間を指している。
「どうしたの? 顔色悪いよ」
 内側から突き破ってきそうな心臓の鼓動を右手でぎゅっと押さえながら「大丈夫」となんとか声を振り絞る。そういうことか。私は星の見えない夜空に向かって「神様ありがとうございます」と呟いた。
「今日なーこの家に泊まってもいい?」
「もちろん」と、なーこは笑顔で頷いた。

 目を開けていられないくらいのスポットライトと鼓膜が破れるくらいの拍手のど真ん中で私となーこは抱き合って涙を流していた。手渡されたトロフィーの輝きは私達の人生を変えてくれるに違いないと確信した。その確信通り、私達のスケジュールは半年以上先までいっぱいになった。テレビに出続け、時にはドラマや音楽番組にも呼ばれるようになった。そして一年が経つ頃には、なーこをテレビで観ない日はなかった。

 どうしてこうなったのだろう? なーこが一人で出演するCMを観ながら私は自宅でコンビニ弁当を食べていた。コンビ格差が出来るとすれば、しゃべれて空気を読めてネタも書ける私の方が仕事が増えるものだと思っていた。結局顔とキャラか。私はテレビを消し、ベッドに体を投げ出す。
 私はあの日早まったのかもしれない。真っ白な天井を見上げながら溜め息をついた。神様が与えてくれた僥倖と何も考えずに歴史を変えてしまったが、あのままだったらどうなっていただろう? 決勝直前に相方が死ぬなんてドラマチックな悲劇のヒロインじゃないか。活躍する相方に嫉妬しながらしょぼくれた生活を送るくらいなら、あの悲劇の方がマシなんじゃないか……。
 そこまで考えて私は首を振った。なにを考えてるんだ私は。自分の馬鹿な考えに辟易しながら私は右腕で顔を覆いぎゅっと目を閉じた。


「もう少し練習しておこうよ」
 白い息を吐きながらなーこが言った。公園の時計は終電近くの時間を指していた。


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