石蕗亮さん

占師。および魔術師。 WEB幽にて怪談投稿してました。 弟子育成の経験や実体験を基にした不思議な話を中心に書いていきたいです。 沢山の方に読んで頂き、反論含めコメント頂けると幸いです。

性別 男性
将来の夢 作家、起業
座右の銘 人は言葉に置き換えれるものしか理解できない。置き換えた言葉でしか理解できない。

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禁忌

17/12/04 コンテスト(テーマ):第148回 時空モノガタリ文学賞 【 ホラー 】 コメント:5件 石蕗亮 閲覧数:644

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 初冬の冴え冴えとした夜空に鮮やかな満月が浮かんでいた。
その中を私は独り足早に家路を急いでいた。
街灯は少ない。
道の両端は既に稲刈りも済んだ田んぼが続いている。
路面は所々凍結もあるので自転車は止めた。
最寄りの駅から自宅までは1km強。
自宅周辺まで民家や人気は無い。
その道中を私は白い息を吐きながら足早に急いでいた。

 後ろから来る「何か」を振り切るように

駅を出て時、私が最後だったのを覚えている。
私の前を歩く人は居なかったので、同じ方向の人は居なかった。
そんな私の後ろを誰かがついて来ている。
気付いた最初のきっかけは足音だった。
タシタシとスニーカーっぽい足裏のゴムとアスファルトの擦れる音が背後から聞こえた。
何気なしに振り返ってみたが誰も居なかった。
気のせいかと前を振り向いた直後に仰天しそうになった。
目前の道に落ちる背後の街灯による私の影に重なるように「もう一人の影」が動いていたのだ。
もう一人の影との重なりを避けるように数歩ダッシュしもう一度後ろを振り返ったが
やはり誰も居なかった。
この時私の脳裏に母の忠告が蘇った。

 曰く「この町では満月の夜に3度後ろを振り返ってはいけない」

過去に振り返った者がどんな末路を辿ったかは誰も知らない。
何故ならば振り返ったであろう者は皆「行方不明」になっているのだ。
この小さな町では行方不明が発生すると昔から「振り返ったのであろう」と噂された。
時代が時代なら神隠しと言われたであろうこの現象は、科学が発達した現代では行方不明と言葉を変えながらも未だに生きていた。
私は踵を返すと家路を急いだ。
早歩きになる私についてくるように足音が背後から聞こえる。
タシタシと聞こえていた足音だったが気が付くとコツコツと革靴の音に変わっていた。
今度は本当に誰かが後ろを歩いているのでは?
確認したいという欲求や、本当に誰かがいるのであれば助けを求めたいという欲求が私を振り向かせようと心を揺さぶった。
しかしそれらがまたしても現実ではなかった場合を考えると振り返るのが怖かった。
いっそのこと全力で走ろうかとも思ったが、背後の存在が実在のものであり、かつ悪質な犯罪者であったならば逃げ切れる距離になるまで体力を温存しなければならないと思った。
そんな思いを抱きながら足早に歩き続けた。
コツコツコツと足音はずぅっと私の後ろをついてくる。
足音の大きさから距離を想像しながら近付かれない様に背後に意識を置きながら歩いた。

 コツコツコツ、プギュプギュプギュ

足音が急に革靴から子供のサンダルの音に変わった。
!!
恐怖に息が止まりそうになった。
帰路はまだ半分にも至っていない。
背後の気配に後頭部から背中にかけて鳥肌が立っているのがわかる。
足にうまく力が入らない。
まるで田植え期の田んぼや沼に足を取られているかのように重い。
走り出したがったがすでにそれも叶わなかった。
それでも背後に異様な気配を背負ったまま、その場に座り込むことは更なる恐怖でしかなかった。
重い足を引き釣るように一歩一歩全力で歩いた。
背後から相変わらず足音はついてくる。
やがて自宅の明かりが見えた。
僅かばかりの安心からか心なしか足に力が戻った。
足に力を入れて駆け出そうとした。
とほぼ同時に
ヒタヒタヒタヒタ!
素足で歩いているような足音が背後から、しかも足早に近づいてきた。
「ひぃっ」
思わず声を上げて走り出した。
鞄が投げ出してしまいたいくらい邪魔だったが、足以外は強張って、いや、足ですら既に走るという命令以外受け付けなくなっていてそのまま走り続けた。
風を切る音しか聞こえなくなっていた。
後ろの足音を確かめる余裕はなかった。
自分がどんな走り方をしているのかわからなかった。
呼吸が苦しかったが整えている余裕はなかった。
徐々に家の明かりが大きく見え近付いてくる。
あと少し!
冬の冷たい空気が喉に痛くて苦しい。
でもそんなことより何より今は背後から迫り来る恐怖から解放されたかった。
あと少し!本当にあと少し!
残りあとわずか!
あと数歩で門扉まで辿り着く。
直後
カシャン、カラカラカラ
ポケットから携帯電話が落ちた音がした。
一瞬拾おうかと躊躇したが振り返ってはいけないと諦めた。
「電話落としたわよ」
母の声がした。
「お母さん!」
助かったと安堵感から思わず声を上げた。
刹那、後悔した。
母の声を聞いたのは数か月振りだった。
何故ならば母も行方不明になっていた。
その母の声は今まで必死に逃げてきた背後からだった。
振り返ったそこに母の姿は無く
辺りを見回すと今まで見えていた家や近所の街並みの明かりも消えていた。
ただただ蒼天に月が冴え冴えと輝いていた。
しかし、背後に這い寄る気配と恐怖は残ったままだった。


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このストーリーに関するコメント

17/12/07 木野 道々草

石蕗亮さま、初めまして。拝読しました。下にスクロールするにつれ、「主人公は振り向いてしまうのかな大丈夫かな(怖いことが起こるはずなので振り向かないでほしい)」とドキドキしながら、読んでいました。
投稿された2017年12月4日も、満月の日だったのは偶然でしょうか。足音につけられるのは実際にありそうなので、怖かったです。

17/12/16 石蕗亮

木野道々草様
はじめまして。コメントありがとうございます。
満月を見ながら書きました。リアルタイムでした。
3度目を振り返ってはいけない、は地元の実話です。実話では恐怖が実体化する、というものでさした。
よろしければまたよろしくお願い致します。

17/12/21 霜月秋介

石蕗亮さま、拝読しました。
恐ろしいお話でした。しかも実際に石蕗さまの地元で言い伝えられていると聞き、さらに恐怖が増しました。
緊迫感がリアルに伝わってきて、しばらく自分も後ろを振り向けませんでした(笑)すばらしい表現力です。

17/12/26 石蕗亮

霜月さま
コメントありがとうございます。
地元での話でもあり、私の実体験でもあります。
私は母に助けられましたが。
楽しんで、怖がってもらえて何よりです。笑

18/01/07 光石七

拝読しました。
半端ない緊迫感、高まる恐怖。
とても怖かったです。しかも……実話? 夜一人で出歩けなくなっちゃうじゃないですか……!
今夜は電気つけて愛猫を抱いて眠ることにします(苦笑)

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