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伊川 佑介さん

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或るイタコの狂い死に

17/12/04 コンテスト(テーマ):第148回 時空モノガタリ文学賞 【 ホラー 】 コメント:0件 伊川 佑介 閲覧数:300

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 封筒を開けるとピン札の束が2つ入っていた。風俗嬢か何かだろうか。随分と金回りがいいものだ。俺は涼しげな微笑を浮かべて「きっとQ太郎ちゃんも浮かばれますよ」と適当なことを言った。

 風俗街の裏通りにある雑居ビルの一室で『イタコ占い 痛子の館』をオープンしたのは三ヶ月ほど前のことだ。いいかげんなネーミングから分かるように、思いつきで始めた商売である。ドンキで数珠や白装束、長髪のウィッグ、メイク道具を買って女装した俺は、イタコと言うよりBABYMETALの後ろにいそうな風体だった。だから半ばギャグで自分に「痛子」と命名し、一風変わったイタコ風の占いでもやろうと思ったのである。

「ここ、イタコさんがいるって聞いたんですけど」
 転機は一月くらい前、全身ピンクスーツの若い女が来てからだ。「Qちゃんとお話ししたいんです」と深刻そうに語った女は、Q太郎という愛猫を失ったらしかった。
「じゃあ今からQ太郎ちゃんを呼びますね」
両手を上げて頭を振ったりして、霊が降りてくるような演技をする。俺はイタコの修行を丸でしていない。イタコが動物を呼び寄せられるか、呼び寄せるならどうやるかも知らない。だからその場のノリで、半ばヤケクソで猫になりきった。
「久しぶりだにゃ。Q太郎だにゃ」
言いながら、さすがに猫だから語尾がにゃ、なのは安易だったかと顔を歪める。
「Qちゃんなの? ママだよ。会いたかった……」
半分ギャグで言ったのに、女は信じ切って涙を流し喜んだ。適当に話を合わせる。
「ママ、泣かないで欲しいにゃ。Q太郎はママと過ごせて幸せだったにゃ」
「ごめんねぇ……。ママ、Qちゃんが病気だって気づいてあげられなくて。ごめんねぇ……」

 その後もこの女は何度も偽Q太郎と話しに来て、その度に大金を払った。そして試しに「成仏にお布施が必要」と言ってみると信じ込み、件のピン札二束、200万円を支払ったのである。こんなに簡単に人を騙せるのかと驚きだった。考えてみれば最初からイタコを信じていた女だ。理屈を超えた所に生きているのである。

 女の話がどこかで伝わったのか、店には占いよりもイタコ本来の力を求めて客が訪れるようになった。主に風俗嬢風の若い女性客だ。変わった女が多いのか、それとも精神を病んでいるのか。最初からイタコを信じ切っているようで、俺の嘘も面白いように信じていく。嘘を重ねるほど貯金残高がみるみる増えていった。

「こいつと話したいねんけど」
 そんな折、明らかにカタギじゃなさそうな人相の悪い男が店に来て、1枚の写真を見せてきた。ホステスだろうか、着飾った若い女の比較的新しい写真だった。長いウィッグの髪を前に垂らし、ビクッと体を強張らせて霊が降りてきた演技をする。
「京子か? お前どこに行ったんや」
男から先に話しかけてきた。死んだのに「どこに行った」とはどういう意味だろう。返事に詰まる。
「どこ行ったんや。早よ言え」
何となく気の強そうな女の外見に合わせ、タメ口で返事をしてみる。
「どこだっていいじゃない。あなたの知らない所よ」
「なんやお前。インチキか」
いきなり男に胸ぐらを掴まれた。何かが実際の女とは違ったのだろうか。釈明する間もなく、男はそのまま怒りながら店を出て行った。

 それからすぐ店を畳むことにしたのは、殺人事件が発覚したからである。バラバラ殺人のようで、右足だけが公園の草むらで見つかった。DNAで判明した身元が、あの写真の女だった。残りの体は未だに見つかっていない。あの人相の悪い男は刑事だろうか。そうは見えなかった。ならばあいつが女を殺したのだろうか。

「あなた、霊が幾つも憑いてる」
 繁華街を歩いていると、路上占いの老婆が話しかけてきた。一人で家にいるとあの男が口封じに来そうな気がして、出来るだけ人が多い所に来たのだ。
「浄財なさい。汚い金。清めなさい」
老婆が必死に訴えかけてくる。俺から金の匂いを嗅ぎ取ったのだろうか。自分でも不思議なほどイラついて、老婆の机を蹴り飛ばした。勢いで老婆が地面に倒れこむ。
「あなた今日中に死ぬ。浄財、浄霊し……ああぁっ」
老婆の顔面を蹴り上げて黙らせた。せっかく手にした金だ。誰にも渡すつもりは無い。気晴らしにソープランドにでも行こうと裏通りを歩いていく。道の途中で、ふと気づいた。やけに静かで、人通りがない。猫が一匹、ビルの隙間から顔を出した。生気がなく、気味の悪い猫だ。ミャオウと猫が鳴いて、妙な違和感と共に全身に悪寒が走った。トッ、トッ、トッ、と後ろから何かの音がする。遠くから女が近づいてくる。死んだはずの、あの写真の女だった。女は片足で、左足でケンケンしながら、こちらに向かってきている。思わずギュッと目を瞑り、これが夢であるよう祈った。トッ、トッ、トッ、と足音が徐々に大きくなってくる。


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