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竹田にぶさん

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山の病院

17/12/04 コンテスト(テーマ):第148回 時空モノガタリ文学賞 【 ホラー 】 コメント:0件 竹田にぶ 閲覧数:130

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 山奥の森の中に小さな病院が立っている。昔は陸軍の関連病院だったという。そこでは、極秘裏に人体実験が行われていた、そんな噂がある。ミズナラやブナがうっそうと生い茂る薄暗い森に囲まれた立地が、そんな噂を呼んだのだろう。戦後は民間に払い下げられ、長い間、隔離病院として使われてきた。現在は、慢性疾患の患者のみを扱う病院になっている。近年の診療報酬改定により、長期療養の患者だけでは病院の経営が成り立たなくなった。患者を次々に入れ替え、病床を回転させなければ病院はつぶれてしまう。そのため、この病院では職員総出で、病床の回転を上げることに取り組んでいる。

 午後になって、一人の男が入院してきた。男はいくつもの病院を追い出されて、ここにやってきた。長期入院が必要な状態なので、どの病院からも厄介者扱いされた。
 男は四人部屋に配された。男が荷物の整理を終えたところで、患者の一人から声がかかった。検査も治療もなく、日がな一日をベッドの上で過ごす患者にとって、新しい入院患者は格好の暇つぶし材料だった。男の方も特にやることがなかったので、問わず語りに、身の上話を始めた。

 男の両親は都会暮らしをしていたが、男が生まれると父親の地元に戻ることを決心した。子供を育てるには田舎がいいと判断したからだ。父親の知人の勧めで、両親は精肉店を始めた。しかし、不慣れな商売はなかなか軌道に乗らなかった。母親が店番をし、父親が朝から晩まで配達と営業の外回りをすることで、どうにか店は続いた。父親は疲れきっていた。父親は得意先の旅館に配達に行く途中で、居眠り運転をし、電信柱に激突した。脊髄を損傷し、首から下が動かなくなった。入院先を転々とし、最後は山の病院で息を引き取った。
 残された母親は、一人で精肉店を続けた。今までと同じでは立ち行かなくなると考えた母親は、惣菜を主力に据えた。母親は料理上手で、惣菜を安く提供したので、行列のできる人気店になった。薄利多売ながらも店の収入は増え、知人は二号店を出さないかと母親に持ちかけた。父親の弟が二号店の準備を手伝うとのことで、母親は承諾したが、父親の弟は集めた開店資金を持って、女と駆け落ちした。これにより資金繰りが急に悪化して、精肉店は閉店に追い込まれた。母親はパートに出て家計を支えることになった。夜間のパートも掛け持ちした。
 男は高校生になった。母親はなんとしても息子を大学に行かせたかった。学歴がないことで、自分たちが苦労してきたからだ。しかし母親は無理がたたって、仕事中にくも膜下出血を発症した。意識のない状態がしばらく続いたが、最後は山の病院で息を引き取った。
 母親が入院して、男は近くに住んでいた父方の祖母と同居を始めた。祖母は年金暮らしだった。母親の入院費用を考えると、大学進学はおろか、日々の生活もままならなかった。男は高校を中退して働きに出た。三年が過ぎ、母親が亡くなったころから、祖母に痴呆の症状が現れた。男は祖母を介護施設に入れたが、そのうち施設では手に負えなくなり、病院に入院し、転々として、最後に山の病院で息を引き取った。
 祖母が死んで男には身寄りがなくなった。男を心配した世話好きの上司が、男に結婚話をもちかけた。男は結婚し、子供を授かった。それを機に独立を決め、母親の総菜のレシピをもとに、食堂を始めた。妻が料理上手だったことも幸いした。男の食堂は繁盛した。安さとうまさが売りだった。しかし薄利多売の商売だったので、夫婦は狭い厨房に朝から晩まで立ち続けた。物心ついた子供は寂しさをまぎらわすように、店の中でよく遊んでいた。そしてある日、油の鍋をひっくり返して大火傷を負った。一命は取り留めたが、一度も退院することなく、最後は山の病院で亡くなった。子供が亡くなると、男の妻は精神に異常をきたした。男は一人で店を続けたが、今まで夫婦でやってきた仕事を一人でこなすには負担が大きかった。無理がたたって、男は脳出血を引き起こした。半身不随となり、入院先を転々として、この山の病院にやってきた。

 男が語る人生に、病室の誰もが息を呑んだ。すすり泣くものもいた。
 翌朝、男は目を覚まし、枕元にあった書き置きを見つけた。男はそれを読んで顔を真っ赤にし、大きなうめき声を上げ、そのまま倒れて死亡した。脳出血の再発だった。
 書き置きには次のように書かれていた。

「くだらない話はやめにして、はよ、いけ」

 男が倒れると、同室の患者の一人は、書置きをポケットにしまい込んだ。そして、他の同室の患者と声を潜めて話を始めた。
「案外、簡単にいきよった」
「脳出血をやったことがあるやつは、血圧をぐっとあげれば簡単にころっといきよる。それは今まで散々試したきのぅ」 
 患者の中には病院の職員も混じっている、そんな噂もある。

(了)


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