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むねすけさん

ブログで創作をやっていましたが、誰にも相手にしてもらえないため、こちらに辿り着きました。 面白い物語、少しほっとしてもらえるようなお話を書きたいと思っています。

性別 男性
将来の夢 作家になりたいですが、 それが無理でも、何かの原案家とか、 自分の考えた物語が世に出ること。
座右の銘 我思う、故に我在り。

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シック・アズ・ア・ドッグ

17/12/04 コンテスト(テーマ):第148回 時空モノガタリ文学賞 【 ホラー 】 コメント:0件 むねすけ 閲覧数:360

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 入院、となって却って安心してしまったのか、見舞客と話し込んで楽しい。
 毎日増えてゆく花束、果物カゴ、果ては社員の皆さん入魂の千羽鶴。職場に三十年弱居座った古だぬきに残された枯れ葉が見事に化けたものだ。
「病院食はどうですか?」
「うーん。まぁまぁね。胃の病気だから贅沢は言えないわよ。そうねぇ、ミルミルがこんなに美味しいって思わなかった。もー、みるみるうちに減ってく減ってく。パッケージがスケルトンならよかったのにさ、ははは」
「元気ですねー」
「元気よ、元気じゃないと怖いのよ病院って」
「真理ですねー」
「大病するとわかることもあるよ。ラジオ聴くのにも体力がいるって知ってた?」
「知らなかったです」
「いるのよー」
 クルクルとやっては帰っていく見舞客をどれだけ談笑で引っ張れるかが楽しくなってきた入院七日目に、こんなこともあったりしてと就寝前に夢想していたことが現実になる。
「この度は……」
 と、花束持って現れた四十がらみの男。フォーマル過ぎないジャケットのインナーにボーダーのカットソー姿。ボーダーが目にハレーションを起こさない程度に感覚が行儀よく、できるなこやつ、という印象。の、男なのだが。
(誰だっけ? この人)
 見覚えがないのだ。こんなこともあったりしてねー、と、むふふふ夢想していた昨晩までの私に言いたい。現実になるとちょっと困るぜ。
「あの、どうもありがとうございます」
「大変でしたね。手術成功だそうで、職場復帰をお待ちしています」
(仕事の関係の人か、でも社員の顔なら私古だぬき全員お腹にインプットのぽんぽこりんだぞ)
「いい先生でもー、くじ運使いきっちゃいましたよ。今年の初詣はきっと大凶引きますね」
 会話を引き伸ばしているうちに素性が知れないかと、話しかけてみる。あなた誰? と、言えない代わりの初詣。神様ごめん。
「はは、人生はあざなえる縄ですか。でも、大凶ってあるんですかね」
「ないんですかねー」
「どうでしょう」
 男は丸椅子に腰掛けてくれた。社交辞令で去って行かないところをみると、取引先の人かな。それかただの話好き? そっちの方がウェルカムです、憧れはダブルインカムでした。ぽんぽこりんりん。狐と狸。
「今日はこの後注射があるんですよ」
 男は股間に手を組んでいる。左手の親指が上にきているのはなんだったっけ?
「あぁ、あれは大人になってもやっぱり嫌なものですね」
「ねー、痛いのは一瞬なんですけどね。二度めも三度めもずっと痛いのがねー、痛いのは最初だけにして欲しいですよ」
「ははは。注射にはひとつ思い出がありますよ」
「あら嬉しい。思い出話聞くの好きなんですよ。教えて教えて」
「中学生の頃、休みがちで、予防注射の予備日まで休んでしまいまして」
「あら、いじめられてたの? 不登校?」
 すーぐにお節介かわいそうばばーになるのよねー。かわいそうって撫でたい掌の矛先がないものでね。
「いえいえ、ただのサボリです」
「あー、不良の方ですかー、尾崎豊だな、かっこいー」
「はは、確かに憧れたことはありましたね。でも盗んだバイクで走りはしなかったな」
「ごめんなさいね。話の腰折っちゃって、続けてください」
「市内の小学校の予防注射に中学生の僕がお邪魔したんです。校長の車で送ってもらいました。授業も持たないのにいい車だなって当時の僕は思いました。で、ですね。小学生の中に中学生の僕ですから、まさか中学生が注射なんか怖がらないだろうって、その学校の先生がね、怖がってる僕の顔を覗き込んで言ったんです『まさか、まさか』って」
「あらー。中学生だって注射は嫌よね。でもごめんなさい、その先生おばさんでしょう?」
「はい」
「気持ちわかるー。きっと私も言ったわー。そこに先生としていたらね。かわいかったんですよ、きっと」
「そうかな」
「そうですよ」
 会話が弾んで和やかな時間。嬉しかった。誰だか全然思い出せないけど、凄く感じのいい人ね。
「私も今日の注射前、大袈裟に怖がってみようかしら?」
「いいかもしれませんね」
「ね」
 ところで、あなたはどこの誰? お会いしたことあるのよね? 私はそろそろ白状しようか迷っていた。あなたは誰ですかと、ダイレクトに訊ねてみればいい。もう注射もホントは怖くない大人なんだから。
「では、失礼いたします」
「あ、どうもありがとうございました」
「滝上さんがよろしくと、言っておりました」
 あ、あぁ、取引先の重役の、苗字が適度に珍しい人で良かったー。鈴木や田中じゃ参っちゃってたな。そうか、じゃぁ、じっくり思い出そう。代表で来たんだね。ん? でも、上司にさん付け? と、私が細かいことを気にしていると、
「名刺置いていきますね」
 あ、答えが出たか。
 その名刺には、
「お見舞い代行業」と、書かれていた。


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