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そらの珊瑚さん

🌼初めての詩集【うず】を上梓しました。  (土曜美術出版販売・現代詩の新鋭シリーズ30) 🌼小説や詩、短歌などを創作しております。 🌼作品を置いています。よろしかったらお立ち寄りくださいませ。 「珊瑚の櫂」http://sanngo.exblog.jp/14233561/ 🌼ツイッター@sangosorano 時々つぶやきます。 🌼詩の季刊誌(年4回発行)「きらる」(太陽書房)に参加しています。私を含めて10人の詩人によるアンソロジー集です。アマゾンでお買い上げいただけます。      ✿御礼✿「馬」のオーナーコンテストにご参加いただきました皆様、ありがとうございました。

性別 女性
将来の夢 星座になること
座右の銘 珊瑚の夢は夜ひらく

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鍋鍋底抜け 底が抜けたらかえりましょ

17/12/04 コンテスト(テーマ):第148回 時空モノガタリ文学賞 【 ホラー 】 コメント:0件 そらの珊瑚 閲覧数:246

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ハナは貧乏な家の子ども。レイコは村一番の金持ちの家の子ども。幼馴染の二人は、姉妹のように育ち、互いに十歳になった今でも友達だった。
「ハナちゃん、久しぶりだね」
「なかなか遊べなくてごめんね。家の手伝いが忙しくて」
「大変だね」
「だけど今日はあたしの誕生日だからレイコちゃんと遊んできていいよって母ちゃんが言ってくれたの」
 レイコは自分の首元に下げていた金のネックレスをさりげなくセーターの中に隠した。それはレイコの誕生日に両親からプレゼントされたもの。それにひきかえハナは誕生日のプレゼントが自由になる時間だなんて、可哀想だとレイコは思った。憐みと微かな優越感が胸によぎる。それをさとられたくなくて、ネックレスを隠したのだった。
「ねえレイコちゃん、あの遊び覚えてる? なーべ、なーべ、そーこぬけ、そーこがぬけたら、かえりましょ」
「もちろん。懐かしいね」
 二人は幼い頃の様に向かい合って手をつなぐ。他愛のないわらべ歌に合わせた遊びだった。
 ハナはすべすべのレイコの手に比べて、がさつき荒れている自分の手を恥ずかしく思った。と同時にレイコの事がひどく羨ましい。さっきレイコがネックレスをセーターの中に隠した事もちゃんと見ていた。前にそれを「誕生日のプレゼントなの」と自慢する様に見せてくれた事も覚えていた。レイコが妬ましい。それが黒い感情だと本能的に知っていたハナは無邪気を装い、明るく笑って「なーべ、なーべ」と大きな声で歌い出す。レイコも笑顔を返し、二人はつないだ手をゆらゆらと揺らした。二人が作った手の輪を鍋に見立て「かえりましょ」のところで、手をつないだまま、ぐるんと体ごと回して外を向く。また同じ事を繰り返して、ぐるん、と元に戻るというしごく単純な遊びだった。
「おじょうちゃんたち、それ、月夜の晩にこの神社の境内でやってみたら、面白い事が起きるよ」
 いつのまに来たのだろうか、白いひげのおじいさんが二人のそばに立っていた。
「面白いって?」ハナが訊く。
「魂を入れかえるんじゃよ」
「そんなの、嘘よ」
「嘘だと思えば嘘じゃ。しかし祈れば本当になる」
 何それ、変なの。レイコは「キクちゃん、行こう」と彼女の手を引っ張り、おじいさんを残してその場を去った。
――唄の続きも聞かないで、行ってしまったわ。まあ、いいか。
 おじいさんは社の中へ去っていった。

「ねえ、レイコちゃん、今晩やってみない? もし月が出たら、ここに来て」とキクが言った。
「でも……」
 たましいをいれかえる。それが本当なら私がキクちゃんになるって事? キクちゃんになるなんて、正直いって嫌だった。
「お願い! 私、一度でいいからレイコちゃんになってみたいって昔から思っていたの。レイコちゃんの事が羨ましかったから。一日でいい。明日の晩には又ここに来て、入れかわるって約束するわ」
 泣きながら懇願する友達を前にして、レイコは仕方なくうなずいた。

 その晩、月が出ていた。なーべ、なーべ、そーこぬけ……。ぐるん。少女らの祈りが月に届いたのか、レイコはキクに、キクはレイコに入れかわり、それぞれ違う家へと帰って行った。
 薄いせんべい布団、ふかし芋だけの朝食。学校へは行けず、小さい弟を背負い畑に出て草むしりをした。体はキクでも中身はレイコ。慣れない仕事に、へとへとだった。夜になり神社に行ったが、あいにく月は雲に隠れて出てこない。キクは来なかった。その晩は月が出ていなかったので、来なかったのだろうとレイコは思った。けれど次の晩、月は出ていたのにキクは来なかった。キクちゃん、まさかこのまま一生来ないつもり? ううん、そんな事ない。きっと何か来られない事情が出来たんだわ。友達だもの。キクちゃん、ごめんね。疑ったりして。明日はきっと来て頂戴。
 レイコはキクの家へ、とぼとぼと帰っていった。

 けれど次の晩もキクは来なかった。月は出ているのに……。もうこうなったら一人でもやるわ。キクちゃん、裏切ったのね。友達だと思って信用してきたけど、それももうおしまいよ。
――レイコちゃん、かえらないで。
 どこかでキクの声が聞こえたような気がしたが、レイコは頭を振った。もう、あんたなんか友達じゃない。
 レイコは一人で輪を作り「なーべ、なーべ、そーこぬけ」と唄い出した。
――だめよ、レイコちゃん。
 ふん、もうキクちゃんでいるなんか嫌。レイコはおじいさんの言葉を思い出した。祈れば本当になる。渾身の力で腕を後ろに回した。
 ぐるん!

 社の中でおじいさんがつぶやいていた。「続きはこうじゃ。死んでしまえば、かえらない」

 二日前心臓発作で亡くなったと思われた少女は、火葬場の扉を閉められたところで息を吹き返した。その一瞬、二人の魂は入れかわった。
 レイコは願い通り自分に戻って焼かれた。

 


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