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むねすけさん

ブログで創作をやっていましたが、誰にも相手にしてもらえないため、こちらに辿り着きました。 面白い物語、少しほっとしてもらえるようなお話を書きたいと思っています。

性別 男性
将来の夢 作家になりたいですが、 それが無理でも、何かの原案家とか、 自分の考えた物語が世に出ること。
座右の銘 我思う、故に我在り。

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庭に腕みたいな植物が生えたんです

17/12/04 コンテスト(テーマ):第148回 時空モノガタリ文学賞 【 ホラー 】 コメント:0件 むねすけ 閲覧数:188

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 明け方前に目が覚めた。何かいいことがありそうな朝の五時半。たくさん時間が使えるぞ、私は痺れていた左手を揉み解しながら、清々しい冬の早朝に体の輪郭を感じるため布団を出る。
「たくさんの時間? 早く起きても起きなくても仕事のないあんたには同じことじゃないの」
 トイレで用を足して、俯いたまま水の流れが止まるのを待った。流し方が下手だと流れっぱなしになることがあるから、そうなると姉さんがうるさいものね。
「奥まで取っ手を押しきればいいだけなのに、そんな簡単なこともあんたは覚えなかったのね。その時間が勿体ないと思わないの?」
 洗面所で手と顔を洗う。窓から見えた向かいの二階はまだ暗いままでホッとする。あのおじさんは窓から平気で切った爪を落とす人だ。どうぞずっと寝ててください。
「あんたじゃないんだから、おじさんには仕事がある。毎日決まった時間にエンジンの音がしてるでしょう。人はみんなそうして生きているの。あんたみたいに役割を果たさない人間に、おじさんの何がわかるの?」
 こたつを先に点けておいたから、はぁぬくぬくぅ。冷蔵庫にまだ牛乳があった。お鍋に注いでコンロにかける。お砂糖はたっぷり。インスタントコーヒーを少々、冬のごちそう。
「自分で買った牛乳ならもっと美味しいぞ、妹。ねえ、あんたって自分でお金稼いだことないって異常だと思わないの?」
 冬は寒い。けど、リンゴが美味しい。皮のポリフェノールを捨てる人の気が知れない。私は芯だけ除いていただきます。
「それはいいことね、敏感なあんたが鈍感さを得るステップとしてのリンゴの皮。次の鈍感は自意識過剰を捨てることよ」
 牛乳が沸くまでの時間に、新聞を取りに出る。つっかけはなんでかちょっとあったかい。玄関の鍵もかかっていない。
「珍しいこともあるものね。誰よりも臆病に泥棒強盗を恐れてるあんたが、昨夜は確認し損ねたの? 私は酔って帰ったらしょうがないのよ」
 ふう。冬の冷気にまつげがうるさい。と、電線から誰かの涙が滴っている。さっと行ってさっと新聞取ってくらぁ。あ?
私は庭に、腕をみつける。
「人の手だ」
 どうしよう。私は新聞を諦めて玄関の中で逡巡する。垣根の内っ側だから覗き込まなきゃ外の人に気付かれることはないだろうけど。やだ、このためだったのかしら、今日の早起き。三文損した気分だわ。
「あんたは逃げるのよ。ゴキブリが出たって逃げてくる。学校でいじめられたら逃げてくる。私と父さんがなんとかするまで、あんたは何もしないんだ。逃げっぱなし。変わらないのは、変わるために努力しないせいだ。あんたは、怠け者なんだよ」
 姉さんが起きてきたらなんとかするわよね。あ、違う、待って。昨日の夜、姉さんは帰って来たかしら? 仕事大変なのね。私は昨夜何時に寝たんだっけ。
「全国から情報が寄せられています」
 あら、ラジオ。
「ユリ手もどきと呼ばれる人間の右腕に酷似した植物が日本各地の庭に多発生する事案が……」
 あら。私は百人力で玄関を出る。ユリ手もどきと聞けば、なるほどユリの風情ね。ちょっと色は悪いけれど。植物と聞いて私、近づいて香りを……、嗅ぐのはよす。なんでかわからないけれどよす。さ、牛乳焦げ付いてしまうわ。ラジオで対処法を言うかもしれないし。
「ラジオはどこにあるっていうの? 誰が電源をいれたの? どこの放送局? 喋り手は誰? メールを読まれたリスナーには何がもらえるのかしら?」
 人の右腕みたいに見えるだけの植物なんだし、こうしてラジオで周知のことになっているなら過度な心配は無用だけど、でもねぇ、やっぱり見栄えがよくないわよ。ラジオ聞かない人に誤解されても困るしね。そうよ、配達の人やお米屋さん。門の内に入ってくる人はあるんだから。
「尚、ユリ手もどきの対処ですが、燃やす、掘り返して土ごと遺棄する、でっかい鳥に任せる、などはどれも全くもって効果が確認されておりません」
 あれれ、迷惑な子。じゃぁ、どうするっていうの。
「毎日深夜零時から零時二分までの間に、ジャンケンをしてください。五連勝することができれば、消滅するでしょう」
 あらら。ジャンケンで五連勝? 簡単じゃないわね。でも、簡単じゃないことを達成すると人は強くなるし、これで毎日にハリも出るか。
 私はぬくぬく、こたつの中で薄いカフェオレを飲み干すと、ウトウトと眠ってしまった。

 姉さんは連絡もしないで、二日連続で帰って来なかったね。でもいいの、私の今日はジャンケンの一回目。姉さんなんか知らないわ。さぁ、零時になりました。「ジャあンケえン、ポン」あ、グーとパー。勝った勝った。
「あんたの頭はくるくるパーよ。何年うちの外に出ていないの? 私、このうち売りたいのよ。父さんが残してくれたこの家。ねぇ、妹。おい、妹」 


 


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