1. トップページ
  2. 違う自分になるために

斉藤しおんさん

文字を書くことが好きです。 世間の大抵のことに不慣れ。

性別
将来の夢
座右の銘

投稿済みの作品

0

違う自分になるために

17/12/03 コンテスト(テーマ):第148回 時空モノガタリ文学賞 【 ホラー 】 コメント:0件 斉藤しおん 閲覧数:237

この作品を評価する

昔からお姉ちゃんが嫌いだった。
寡黙で、こちらを見る瞳がまっすぐで。
何を考えているか分からない。
頭が良くて。陰気で。
化粧っ気がないのに肌が白くて、お母さんに似た黒目がちな大きな瞳が羨ましかった。

「沙良ちゃんはもう少し頑張らないとね」

どれだけ頑張っても姉と比べられた。
姉のように習い事を頑張るように、姉のように勉強を頑張るように。
大きくなっても変わらなかった。
習い事でも一番で、勉強もできて、いつでも綺麗で。
姉と違う生き方がしたいと思うようになるのは必然だった。
「沙良ちゃんって本当に可愛いよね」
「そうかなぁ」
アッシュベージュのショートヘアに流行のナチュラルメイク。
甘ったるい声にほんのりと香るコロン。

未だに真っ黒な髪を腰まで伸ばしただけの化粧っ気のない姉とは対照的な姿。

他人に褒められるととても安心する。
髪を染めて、化粧に興味を持って、体型を気にして、流行の服を着て。
ようやく違う自分になれる。
大人になってからというもの昔を知っている人間やたらと会いたくなる。
小学生の頃からの幼馴染の加奈は社会人になってからようやく化粧をするようになった。
「加奈も可愛くなったと思うけど」
「私は……化粧頑張らないと全然だから」
薄化粧でよく言う。
そんなことを思いながら加奈の前でアイスティーをすする。
地元の喫茶店は昔から変わらず古臭くて、のどかで。ケーキと紅茶がおいしい。
ぼんやりと窓を見つめていた沙良も、じっと見つめる加奈の視線に気付いて動きを止める。
「けど……やっぱり姉妹だよね」
「え」
「目元とかホントよく似てる」
無邪気な加奈はあたたかな紅茶を一口飲んで懐かしそうに目を細める。
「お姉さんも元気だったら沙良ちゃんみたいに綺麗になっただろうね」
呟くような声に思わずティーカップを離してしまった。
ばりんと割れる音に驚くことすら忘れる。
「ご、ごめん急にっ」
「ううん、いいの……驚いただけ」
本当に、驚いただけ。
この子は何を言っているのだろう。
姉ならいつだって私の隣にいるのに。
「十年前って言ってもやっぱり……つらいよね、急にごめん。悪気はなかったの」
片付けてもらうね、とおしぼりをもらいにカウンターへ走る加奈の背中を横目に沙良は呟く。
「辛くないわけないじゃん」
あの人は死んでも隣にいるのだから。
寡黙にこちらを見つめて。何を考えているか分からない表情で。
透き通るような肌と長く美しい黒髪を持つ若い姿のままで。
十年間も沙良のコンプレックスをくすぐり続けている。

隣に並んで比べられるのはもういやだ。

鏡の前に立つたびに容姿の変化に執着する。
隣に立つ姉に似ないように。
姉とは違う存在になれるように。
祈るように化粧をする。
化粧をしても似ているなんて。そんなことあってはいけないのに。
「……私、この顔が大嫌い」
加奈の言葉のせいだろうか。
紅茶に映る自分の顔が隣にいる姉と重なって見える。
怖気が走った沙良は衝動的に砕け散ったティーカップに手を伸ばした。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン