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待井小雨さん

待井久仁子というペンネームで「小説&まんが投稿屋」というサイトで、童話やホラーやよくわからない物語を投稿しています。 ご興味を持っていただけたら、よろしくお願い致します。

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シュロの髪の毛

17/12/03 コンテスト(テーマ):第148回 時空モノガタリ文学賞 【 ホラー 】 コメント:4件 待井小雨 閲覧数:477

時空モノガタリからの選評

不穏な予感と恐怖が沁みだしてくるような、説明できない怖さがありますね。夜の雨のまとわりつくような湿気た空気の中、シュロの繊維のごわついた手触りと、髪の毛のイメージ、そこから覗く人の目、夜中に聞こえる何者かの足音など触覚、視覚、聴覚といった五感を刺激する表現を通し、ジワジワ体内に浸透してくるようでした。「シュロ」の木というのがまた良いですね。これは日本の家にマッチしているようでそうでないような、微妙な違和感を醸し出している気がします。これを通して祖父母の家の謎めいた雰囲気と古さが目に浮かぶようでした。ラストは実際に祖父が殺人を犯したのかもしれないし、あるいはサキの妄想が生んだ幻想なのかもしれないと個人的に想像しました。コメントにもあるように、いくつか可能性があるように読めましたが、少女の心理的な恐怖が、その”わからなさ”の中でこそ、生きてくるのかもしれないとも思います。大人の事情をはっきりとは知りえない年頃の子供の視点であるからこそ生まれる恐れと膨らむイメージであるような気がします。

時空モノガタリK

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 シュロの木をあまり見つめてはいけないと言われていた。あの幹に絡みついているのは、あれは人の髪の毛だから。

 祖父母の家は古びた家屋で、庭にはシュロの木が生えていた。その幹にまとわりつくようなその繊維は、幼い目には人の毛のように見えもした。ごそりとした手触りのそれに指を埋めれば、そこから人の目が覗くような気さえしていた。
 子供の頃、両親に何か用事があって家を空ける日があった。その日は祖父母の家に泊まることになったのだが、あの話が俄かに心をざわつかせ、私はシュロの木が見える廊下を歩くのを嫌がった。
 ――サキちゃん、何で止まるの。
 ――だって。
 あの話をしたのは祖母だというのに、まるでそんなこと忘れているようで私の背を押した。
 ――今日は雨だから、雨戸を閉めるのを手伝ってほしいの。
 ――誰の髪の毛なの。
 祖母の腰にしがみ付きながら唐突にそんな質問をする。祖母はそこでようやく私にした話を思い出したようで、怖がらなくていいんだよ、と優しく言った。
 ――あんまり見ないようにしなければ大丈夫。こっちがじっと見ていると、向こうもこちらをじっと見るから。
 こちらに気付いてしまうから、と祖母は言ってきしむ雨戸を閉めた。
 夕方に降り始めた雨は地面を濡らし、独特の湿った匂いを運んでくる。私を早く寝かせるためにだろう、夕食も早い時間に出してくれた。
 ごはんを食べていると、祖父がおもむろに立ち上がって玄関に向かう。
 ――ちょっと、出てくる。
 祖父はお酒を飲むばかりで夕食には手を付けなかった。いつも優しい祖父だけれど、もしかして夕食が早いのが気にいらなかったのだろうか。不安になったけれど、祖母はいつもの表情ではい、と返事をするだけだった。
 ――ただの散歩よ。サキちゃんは気にしなくていいの。
 
 ぴしぴしと鳴る窓を気にしながらお風呂で髪を洗う。自分の髪に指を埋めながら、シュロにまとわりつく繊維のことを考えていた。ごわごわと絡む茶色の繊維のあの幹を探れば何が出てくるだろう。人の瞳か、赤く開いた口なのか。
 ――今日はおばあちゃんと一緒に寝ようねぇ。
 祖父母の部屋に敷いた布団で浴衣姿の祖母が微笑む。
 ――まだおじいちゃんが帰ってきてないよ。
 布団に包み込まれながら問いかける。
 ――おじいちゃんの散歩は長いの。サキちゃんは何にも気にしなくていい。
 ああ、でもおじいちゃん、今夜は雨なのに……と私は天井の木目を見ながら思う。黒い傘を差して出て行った祖父の足元はサンダルだった。あれでは雨の中を長くは歩けないだろうに。
 祖父母の部屋が庭に面しているということを、なるべく考えないようにしていた。眠気に逆らわないよう微睡を待つ。祖母に背を優しく叩かれながら、いつしか眠りに落ちていた。

 ……ざ、ざりっ、という音に目を覚ます。
 雨は降り続いていて、細かな雨粒の音が染み渡るように響いていた。きりさめ、と口の中で呟く。風に舞って衣服について、じわじわと染み込んでくる雨。
 ちらりと傍らの布団を見るが祖父の姿はない。反対側の布団には肩まで布団をかけた祖母の背中。それに安堵の息を吐いて布団をかぶり直す。私の身じろぎの音が聞こえたのか、祖母が寝返りをうった。顔がこちらを向いたので、私は甘えるように手を伸ばす。
 と、その手ががっと掴まれた。
 ――起きたの。
 ぎょろりとした双眸に覗き込まれ、口を塞がれる。
 さぁぁ、という雨の音。……それに混じってざり、ざり、と音がする。
 庭をうろつきシュロの木をぐるぐる回る、そんな姿が頭に浮かぶ。――それは誰? シュロの木を巡るのは誰?
 ……黒い傘と一緒に鉈を持って行ったのが見えていた。祖母は何も言わずに見送った。
 古い雨戸には隙間があって、そこから庭がちらりと見える。それを……。
 ――見ては駄目。
 叩く勢いで目を塞がれる。見たら目が合う。気付かれてしまう。瞳を凝らせば向こうもこちらに目を凝らす。
 外から忍び込む雨の匂いと土の匂い。……金臭い。
 ……鉄の匂い。

 朝になって目を覚ますと、明るい光が部屋の中に差していた。
 祖父は隣で眠っていた。庭に目をやれば、祖母がシュロの幹をごしごしとこすっている。
 ――起きたの、サキちゃん。
 うん、と答えて身支度をする。
 ――昨夜は風も強かったみたい。庭にごみが。
 祖母はごみ袋に湿ったものを詰めていた。
 あぁ……と私はシュロの幹を横目でそっと見る。そこにこびりつくようにして引っかかっているものに祖母は気付かず、片付け忘れている。
 見つめなければ気付かれない。絡みつくそれがただの繊維でも、誰の髪でも、眼球が引っ付いていたとしても、口を閉ざしていればいい。
 ――朝ご飯にしようかねぇ。
 祖母が拭って差し出した手を、私は握り返して頷いた。


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このストーリーに関するコメント

17/12/05 霜月秋介

待井小雨さま、拝読しました。
おじいさんの無事を祈りながら読み進めてました。夜中に庭でなにが起きていたのか気になります。最終的にはおじいさんは眠っているようですが、おじいさんの眼球は無事なのか、気になるところです。

17/12/06 待井小雨

霜月秋介 様

お読みいただきありがとうございます。
実は、私の方の思惑としては「殺人の凶行を繰り広げているのは祖父」のつもりで書き上げました。
ですが、霜月さんの感想を読んで「なるほど、そんな風にも読める!」と「読み手側からの物語の見え方」に目から鱗が出る思いになりました。
凶行に及んでいるのは祖父かもしれないし、それとも祖母が何か企んでいるのかもしれない。はたまた本当に得体の知れない「何か」がシュロの木をうろついているのかもしれない。
どうぞ読んで感じたままにお受け取りください(^^)
ありがとうございました!

18/01/02 光石七

入賞おめでとうございます!
拝読しました。
シュロの木と髪の毛を結び付ける冒頭から不気味さがあり、ゾクッとしつつ引き込まれました。
雨の中出かけた祖父は本当にただの散歩だったのか、夜中に庭で何が起きていたのか。
はっきりわからないところが恐怖をあおりますね。
素晴らしいホラーでした!

18/01/09 待井小雨

光石七 様

お読みいただきありがとうございます。
シュロの木はいつかどこかで使おうと思っていて、今回のホラーで使うことができ、また上手く絡めることができたかなと満足しております。
五感を刺激することと真相をはっきりさせないようにすることに注意して書きました。恐怖をあおられたとの言葉、ありがとうございます!

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