つつい つつさん

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17/12/01 コンテスト(テーマ):第148回 時空モノガタリ文学賞 【 ホラー 】 コメント:0件 つつい つつ 閲覧数:160

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 物心付いた頃から妻はいつも僕の隣にいた。僕たちは同じマンションの同じ階に住んでいて、生まれた日も同じ、星座も血液型も一緒で、ずっと兄妹か双子のように育てられた。
 そして幼稚園、小学校、中学校、高校、大学まで僕たちは同じ学校に通った。思春期になり、中学生になると当然のように妻と付き合い、そして二十五歳の時、当たり前のように結婚した。
 はっきり言って僕たち二人より愛し合っている人なんていないとわかっていたし、みんなにもそれがわかってほしかったけど、まわりは「いつも仲いいね」「そんなにずっと一緒にいて飽きない?」なんて凡庸な表現でしか僕たちを讃えてくれなかった。
 僕にはそれが不満で、友達にも親にも仕事で知り合った人やたまたま同じ催しに参加した人にまで僕たちの仲の良さをアピールし続けたけど、その反応は僕の期待したものとは程遠かった。だから僕は、僕たちの愛は他の人たちと次元が違い過ぎて伝わらないんだと諦めて二人だけの時間をもっと大切にすることにした。
 午前十時、少し遅めの朝食にした。僕は装飾品や宝石のデザイナーだったので割と自由に時間を組み立てられた。昨日は深夜までデザインを詰めていたので、少し頭が重かった。
 トーストにスクランブルエッグにサラダのシンプルな朝食を口に運んだけど、美味しいとも感じず、ただ義務か習慣のように咀嚼しているだけだった。僕がこんな調子だと妻も同じように調子が悪いみたいで、頭をそっと撫でてみても、「クッウゥゥー」と、籠もった声を漏らすだけだった。
「気分転換に今日は仕事はやめて美術館にでも行こうか」と妻にささやくと、妻も同じ気分なのか、僕の発声に合わせて手のあたりをもぞもぞと動かしていた。
 ここ三ヶ月くらいかかっていた大きなイベントの仕事が一段落し、二、三日はゆっくり出来ることになった。温泉か景色のいいところにでも旅行しようかとも考えたけれど、家でくつろぐことにした。
 夕方までリビングで音楽を聴いたり、映画を楽しんだりした僕たちはゆっくりお風呂に入ることにした。お風呂には特にこだわりがあり、マンションに元々備えてあった浴槽を改装して、特注で造り直していた。
 特注の浴槽は横は細長く二メートル近くあり、身長180cmの僕が足を延ばして寝ころんでも余裕があった。逆に高さは50cm位で、かろうじて体にお湯が浸かる程度だった。だけど、僕たちにとってこの形状がお風呂でゆっくり出来るベストなものだった。
 癒し効果のある入浴剤を入れてゆっくり浸かっていると、体も温まり、肌も潤いツヤツヤしてくる。シワシワで干からびた妻の肌も長い時間お湯に浸かると、少し肌色味を帯びて昔みたいに健康的な艶やかな肌を思い出させた。
「キッキュゥゥ、キッキッキュユュウゥゥゥ」
 お湯にのぼせて心なしか顔が赤くなっているような妻が恥ずかしそうに鳴く。僕は妻の肌を優しく撫でると、「キッキュウゥゥゥ」とさらに恥ずかしがる。
 数年前に僕は妻とこんなに愛し合っているのに別々の体で生活しているのが耐えられなくなり、丁寧に妻を数ヶ月かけて天日干しにしてミイラにした。ミイラになった妻は元の十分の一程の大きさになり、その妻を僕は自分のお腹に移植した。それ以来僕たちは同じ体で生活している。
 同じ体になって僕たちの生活は一変した。とにかく無駄がなかった。不思議と同じ体になると同じ時間に寝て、同じ時間に起きた。感情も常に一緒で僕の感情に妻が引っ張られることもあれば、妻の感情に僕も影響された。
 趣味、嗜好も同じ体で生活すればするほど一致していき、今は相談しなくても僕がしたいこと、僕が食べたいもの、妻がしたくこと、妻が食べたいものもほとんど意識することなく一致していた。僕たちはすでに体どころか魂までもつながっていた。
 ただ一つ面倒なのはあまり外に出られなくなったことだ。他の人には僕たちの愛は理解されないだろうから妻の姿を見せることは出来ないし、服を着込むと妻が息苦しくなり、それは僕にも伝わり僕も気分が悪くなる。幸い、今の仕事は大部分を自宅ですることが出来たので、それは助かっていた。
 風呂上がりはワインを楽しむことにしていたので、リビングにワインと今日のためにネットで注文していた高級なチーズと生ハムを並べた。ソファに深く腰掛け、生ハムを堪能した後、ワインを口に流し込む。ここ数ヶ月の忙しかった日々が報われるような贅沢な時間だった。
「グギィアァ、グギィアゥゥ」
 妻が嬉しそうに鳴いている。元々ワインは僕は苦手で妻が好んだものだった。それが、一緒に暮らすうちにだんだん体に馴染んできて、今は僕も大好きになった。
 もう一口ワインを飲み、妻の頭を撫でる。
「ああ、こんなささやかな日々が永遠に続けばいいのに」と、ワイングラスに映る妻を眺めながら僕はつぶやいた。


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