1. トップページ
  2. 少年は、自分の青に気づけない。

浅月庵さん

笑えるでも泣けるでも考えさせられるでも何でもいいから、面白い小説を書きたい。

性別 男性
将来の夢  
座右の銘  

投稿済みの作品

1

少年は、自分の青に気づけない。

17/12/01 コンテスト(テーマ):第149回 時空モノガタリ文学賞 【 弁当 】 コメント:0件 浅月庵 閲覧数:463

この作品を評価する

 学校の購買で売っているパンを、一度も食べたことがない。
 高一の冬頃になって、一度もだ。

 ーー昼休み。
 友達の茅瀬と机を向かい合わせている最中、俺は願望を口にした。
「俺も購買のパン食ってみたいなぁ」
「食べればいいじゃん」
「だって親がさ、毎朝弁当と水筒用意してるんだぜ。そんでこれ見てよ」
 俺は財布の中身がひもじい様子を見せた。
「お前の家貧乏だもんな。しかもうちの高校、なんでかバイト禁止だし」
「わりときみ、デリケートな部分に土足で入り込んできますね」
 俺は何気なく教室内を見渡すと、一つの席に目が止まった。机の上には、購買で人気度が高いパンが三個ほど乗っている。
「おい、あんま氷山の方見るなって。ボコられるぞ」
 あんなところに美味しそうなパンが三つ。俺の目の前には食べ飽きた弁当が一つ。羨ましい。

 すると、突然そのパンが宙に浮かぶ。
 そして、一瞬にして大きな影が俺の席を覆い尽くしたのだ。

「これ食いたいのか?」
 大男の手には先ほどのパンが三つ抱えられていて、その持ち主が身長180cm越えの人相ヤクザな氷山なので、俺はビビってしまう。
「えっ」
「これが食いたいんだろ?」
 俺は氷山の問いかけに、看守に囚人番号を呼ばれたかのごとく立ち上がると「食べたいです!」と元気良く叫んだ。
「やるよ」
 まさか本当にくれるとは思っていなかったので、正直困惑してしまう。
「いいの。マジ?」
「あぁ。代わりにその弁当寄越せよ」
「これで良いの?」
「文句あるかよ」
「いえ、どーぞどーぞ! こんなもので良ければ」

 そんなやりとりの末に手に入れたパンは、なににも代えがたい至福の美食であり、氷山はきちんとお弁当箱を返してくれたので、なにも問題はなかった。最高の昼食ライフが俺の元へ訪れたと思った。
 
 ただ、そのお弁当とパンのトレード生活は二週間ほど続き、俺はそろそろお米が恋しくなる。あの貧乏弁当の味がやっぱり忘れられなくて、でもそのことを氷山に伝えることができない。うちの弁当が美味しいのかどうかわかんない、無愛想な顔で弁当を食う氷山が怖いのだ。

「あんた最近、本当に自分でお弁当食べてる?」でも、ある日唐突に、母親にトレードの件がバレる。最初はしらばっくれていたけど、証拠を叩きつけられて白状する。「あんた嫌いなはずのニンジンもきっちり食べてるし、食べ終わった後水洗いしてるからおかしいなと思って」
 母、侮りがたし。
 そして氷山との一連のやりとりを母親に告げると、その子を家に呼んできなさい、一緒にご飯食べようとか言い出す。
 なにこのおばさん、トチ狂ったこと言ってんだと思う。

 恐る恐る氷山にもう弁当は渡せないことと、うちにご飯を食べに来ないか誘うと「本当に行ってもいいのか?」なんて言い出す。母親も氷山もどうしちゃったんだろ、本当に。

 だけど、俺が勝手に氷山に対して抱いていたイメージは全部覆されて、彼はうちに来ると脱いだ靴をきちんと揃えるし、お邪魔しますってちゃんと言うし、洋菓子店のタルトをお土産に用意してきて、心底ギョッとする。

 ......うちはシングルマザーなので母と俺しか家族はいない。それに氷山を加えて三人、鍋を囲むこととなった。
「口に合わんかったら、食べなくていいよ」
 俺が氷山を気遣うと、母親がピシャリと言う。
「駄目。全部食べなさい」
 俺がふて腐れると、氷山が笑う。初めて見たかも、こいつの笑顔。

 野菜ばかりが入った貧相な鍋。それでも氷山は美味そうに食う。美味しいですと時々言葉にして、母親も笑顔で頷いている。
 そしておもむろに氷山が謝罪を始めた。

「貴之くんのお弁当、僕が無理言って食べさせてもらってたんです。ごめんなさい」
 すると俺の母親は、一切怒るなんてこともせず言った。
「ご両親はお弁当、作ってくれないの?」
「親は共働きで、忙しそうなので頼んだこともないです」
 そのおかげで毎日、パンを買えるだけのお金を貰っていたなら、それはそれは裕福な家庭なのだろうと感じた。
「一度、お母さんに頼んでみたら?」
「ちょっと母さん。なに言って……」
 なにを頓珍漢なこと言ってるんだと思って間に入ったけど、母親は俺の顔の前に手をかざした。
「結果はどうあれ、自分の思ってることはちゃんと、親に言わなきゃ」
「......」
「ね?」
 母親の言葉に氷山は、黙って頷いた。
 俺はその時、二人のやりとりの意味が、イマイチわかっていなかったんだ。

 ーーそれから数日経って氷山が、お弁当と思われるものを持って、俺と茅瀬に近づいてきた。
「一緒にいいか?」
 俺と茅瀬は顔を見合わせて、もちろんと頷いた。

 彼の眩しいまでの笑顔を見て、そこでようやく氷山が“求めていたもの”に気づいて、俺も笑った。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン