望月ひなたさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘

投稿済みの作品

0

17/12/01 コンテスト(テーマ):第149回 時空モノガタリ文学賞 【 弁当 】 コメント:0件 望月ひなた 閲覧数:281

この作品を評価する

母は毎朝、由美よりも早起きをしてその日の弁当を作ってくれる。高校の受験に失敗し、私立に入学した由美は、毎日6時には家を出発しなければならない。母だって、その1時間後には仕事に出なければならないのだ。それなのに、毎朝笑顔で弁当を持たせて見送ってくれる。
「別に、私が作って行くからいいんだよ?」
由美はそんな母に向かって声をかけたことがある。
しかし彼女は笑って首を振った。
「いいの、私が作りたいから。」

そんな学生時代から時は経ち、由美は結婚し家を出ていった。母はその時もまた、笑顔で見送ってくれた。

初めはちょくちょく実感に帰っていた由美も、気がついたらあまり立ち寄らなくなっていった。
「最近いけなくてごめんね。」
と電話越しで謝ったとき、母は残念そうに、同時に嬉しそうに大丈夫だから、と言った。

しばらくして、由美にも子供が産まれた。母は自分のことのように喜んだ。由美も笑った。

いつしか子供が大きくなって、由美も母のように毎日弁当を作って持たせた。
行きは重かった弁当箱が軽くなって、子供が元気に帰って来るのを待つのが由美の楽しみになった。
いつまででも作り続けたいと、そう思った。

そんなある日、実家から電話がかかってきた。
電話の先にいたのは父だった。
「母さんが倒れたから、早く来い。」

白い、白い病室のベッドには母が横たわっていた。
ああ、来たの、と由美の頬を撫でる母の手は乾燥して骨ばっていた。しかし、温かさも柔らかさもずっと昔のままだった。
「大丈夫なの?」
由美は聞いた。少し、瞳に涙が浮かんだ。
「心配しないで。」
笑う母の頬は痩せこけていた。

母は思いのほか直ぐに退院した。
けれども由美は、それからしばしば母に会いに行った。

ある日、家族全員で花見に行った。
花粉症の敵だとこぼす母に、由美はそっと言った。
「ありがとう」
小さな囁きは、直ぐに風に掻き消された。
さあっと空に桜が舞う。
「...何か言った?」
母は由美に尋ねた。
その顔は、笑っていた。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン