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大久保 舞さん

無名のフリーライターをやっていますが、小説家になるために本格的に活動してみることにしました。 ショートショートは読むのも書くのも大好きです。 普段はカクヨムメインで活動中。 https://kakuyomu.jp/users/mai_ookubo アイコンは大好きな漫画家の巳年キリンさんに描いて頂きました。

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インチキの結末

17/12/01 コンテスト(テーマ):第148回 時空モノガタリ文学賞 【 ホラー 】 コメント:0件 大久保 舞 閲覧数:146

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「うぉ〜、お前か、競馬に行くから金を出せ!出せないんだったらぶっ飛ばすぞ!!」

俺は霊媒師だかイタコだか、いわゆるそんな仕事をやっている。

簡単に言えば、故人を自分に乗り移らせて、生きている人間に対して霊界との仲介役をやるという仕事だ。



だが、俺が普通の霊媒師やイタコと違うところは、完全にヤラセで、しかも故人をめちゃくちゃ酷い人間のように表現するということだった。

どうせ故人を本当に呼び出せてはいないのだから、お涙頂戴のやり方など俺には合わない。

というか、元々演劇のヒール役の道で食べていこうとしていた俺にとっては、したくてもこういう演技ぐらいしか出来ないのだった。



こんなやり方でウケるとはもちろん思っていなくて、仕事をはじめたのも、恋人を失って落ち込んでいる友人を励ますために『生前の彼氏を最低の人間として登場させる』という、いわばショック療法のようなことをやったのがきっかけだった。

これは友人には大ウケで、試しに大切な人を失った他の人たちを励ますことに使ってみても、大好評。

好評が好評を呼び、いつの間にか、俺は”嘘をつかない霊媒師・イタコ”としてテレビに出演するぐらい有名になっていた。



俺の客は、霊媒師やらイタコやらに行って「亡くなった旦那を呼び出してもらったら、あまりにも良いことしか言われなくて、逆に信じられなかった」というおばさん層が多かった。

中には「故人はこんな人じゃなかった!」と怒り出す人もいたが、ほとんどの人は「うちの人、こんなところもあったわ〜」などと、喜んでくれた。



さて、今日のお客は、と見てみると、絶世の美女がそこにいた。

まだ若いし、どことなく陰があるものの、とても俺好みの良い女だ。



「亡くなった父を呼び出してもらいたくて・・・」

おっ、しかも父親思いか。泣かせるねぇ。



「分かりました。それではただ今から、あなたのお父さんを霊界から呼び出します」

美女は、ごくり、と唾を飲んだ。



「こら、てめぇまだ何も家事やってねぇのかよ!俺が起きたら完璧にこなしておけって言って置いただろうが!ババァも出て行きやがったし、ろくなことがねぇな」

演技にも気合が入る。母親はいない設定に勝手にしてしまったが、構わないだろう。



幸い、美女の方も、うんうん、と納得しているようだった。

おそらく、生前の父親はこんな面があったのだろう。



「お前が働かねぇでどうするんだよ。さっさと酒、買って来やがれ!!」

ガシャーン、と、目の前の机を俺は蹴り倒した。

これぐらいやらなければ、インチキの名が廃るってものよ。



「うん、うん、うん・・・お父さん、大好き」

美女がそう言って俺に抱きついてきたので、ラッキー!と思った瞬間、腹部に鋭い痛みを感じた。

え?と思って腹を見てみると、軽くだがナイフが刺さっている、というか、美女が俺のことを刺しているではないか。



「お父さん、生きている時はそんなところを私には一度も見せてくれなかったよね。お母さん、お母さんって言ってばかりで、私のことをちっとも見てくれなかった」

「私はお父さんのそんな面を見ても、お母さんみたいにお父さんのことを嫌いになったりしなかったよ?お父さんが酒乱でギャンブル依存症のどうしようもない男性でも、一人の人間としてお父さんを愛していた」

「だから、お父さんがあの日寝室に来た時も・・・」



そう言いながら、美女?娘?は俺?僕?のことを刺し続けている。なぜだ痛い助けて誰か。

俺?僕?は、抵抗しようとしても、金縛りにあったかのように動くことが出来なかった。



「違うんだ、やめろ、これは誤解だっ」

そう叫んだのは、果たして俺自身だったのだろうか。

彼女の父親だったのだろうか。



俺と僕は、笑顔の娘の胸の中で息絶えた。


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