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ちほさん

心のあたたかくなるお話を じっくりと書いてみたいです。

性別 女性
将来の夢 童話作家になること。
座右の銘 たいせつなのは、どれだけたくさんのことを したかではなく、どれだけ心をこめたかです。(マザー・テレサ)

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約束は春の日のお弁当

17/11/30 コンテスト(テーマ):第149回 時空モノガタリ文学賞 【 弁当 】 コメント:0件 ちほ 閲覧数:263

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 いつもベッドの中でのんびり過ごしているカレル叔父さんが、布団の足元に正座しているウォルターに絵本の読み聞かせをしていた。手元の絵本では春の桜が満開なのに、ここリンブルグはまだ冬。ウォルターは、ベッドの上を這っていって、叔父さんの隣に並んで座った。
「叔父さん、絵本を読んでいるときは優しいのに、どうしていつもはイジワルなの?」
「そりゃあ、君が僕を、何処にいてもすぐに見つけられるように、だよ」
  変な人だったけど、カレル叔父さんは本当は優しい人だった。叔父さんは、お父さんの4つ年下の弟で、ウォルターがここに引っ越してきた4歳の頃はいなかった。奥さんと2人でリンブルグを離れ、街に住んでいたそうだ。戻ってきたのは、2週間前。カレル叔父さんは、暇さえあればウォルターをからかって遊ぶ日々を過ごしていた。
 ひよこ型の目覚まし時計が、お昼の12時を指した。
「お昼ごはんは、何かなぁ?」
 楽しそうなウォルターの隣で、カレル叔父さんは溜息を吐いた。
「どうしたの? あーっ、また食べないとか言うの?」
「まだ何も言って──!」
「じゃ、お弁当にしたら?」
 ウォルターの黒くて綺麗な目が、叔父さんをじっと見据えた。そして叔父さんが何か言う前に、絵本の中の、桜が満開なページを小さな指で指すと偉そうに言った。
「クリスタって街は桜の名所で、春にはお花見をするんだよ。それで、ぼく思いついたんだけど、ここはリンブルグで今は冬だしここはお家だけど、好きなおかずを詰め込んだお弁当をお父さんに作ってもらおうよ。ぼくも、一緒に食べたいの。どう?」
 カレル叔父さんの目が、楽しそうに輝いた。彼は、楽しそうなことが大好きだった。子どもみたいに、どんなことでも楽しめてしまう人だった。
 料理人のお父さんが用意してくれたお弁当は、色合いが美しく美味しいおかずばかりだった。叔父さんが、卵焼きをそっと口に運ぶ。
「美味しい……。どうしてお弁当にすると、いつもの2倍は美味しいんだろう?」
「お弁当だもん。こうしてベッドの上で食べると、いつもと違って……冒険してるみたいだからかなぁ? 楽しいと美味しくなるのかなぁ? ねぇねぇ、それともぼくと一緒だから美味しいの?」
 叔父さんは答えず、次にタコさんウィンナーを箸でつまむ。ポイッと口に入れた。醤油の味がよくしみている。ウォルターも、ウィンナーを食べようとした。そこで気がついて叫んだ。
「これ、『宇宙人さんウィンナー』だよ!」
「はぁ?」
「ほら、足が12本もあるよ! ん、美味しい!」
 にこにこ笑顔のウォルターを見て、カレル叔父さんは悔しそうに呟く。
「僕も、それが良かったのに……。ウチュウジンって、よくわかんないけど」
「じゃ、ぼくからお父さんに言っとくね。あっ、どうして叔父さんの卵、おっきいの?」
 叔父さんの弁当には鶏の卵が入っていたが、ウォルターの方はウズラの卵だった。叔父さんは、ニヤリと笑う。
「ちっちゃい子は、ちっちゃーい卵で十分なのさ」
「ずるいずるいずるいーーーっ! ぼくも、おっきいのがいい!」
 思わずベッドの上で立ち上がり、吠えるウォルター。
「いじわるだーっ! 叔父さん、いじわるーっ!」
 お弁当を食べ終わると、ウォルターは叔父さんに期待を込めて提案する。
「あのね、次の春にクリスタ行かない? 桜を見ながら、お弁当食べるの」
「次の春は、叔父さん用事があるから無理だよ」
「どこ行くの?」
「ちょっと遠くに御用があって留守にするんだ。その旅のついでに、大きな桜の木が1本だけ立っているところを探す。僕は、ごみごみしているところは好きじゃないから……周りは誰もいなくて、家も何もない大草原にぽつんと立っているのがいい。見つけたら、嫁さん呼んで──」
「じゃあ、奥さんといっしょに、ぼくも行っていい? あ、お父さんもいっしょに。領主のユキヤさんもね。それから──やっぱり、リンブルグの人みんなでお弁当食べたいよぉ?」
 カレル叔父さんは、いつもの叔父さんらしくなくニコニコしている。その顔を見ていると、ウォルターは心が何かに温かく満たされてふわふわしてきた。そうして、そのまま布団に顔をつけて眠ってしまった。

 一週間後、いなくなったカレル叔父さんの白いベッドにウォルターは仰向けに寝転んで天井を見つめていた。叔父さんは、何の用意もなく突然『ちょっと遠く』へと行ってしまった。
「そんなに急ぎの御用だったんなら、ぼくの宇宙人さんウィンナーあげれば良かったよ」
 ウォルターは、カレル叔父さんが大草原に立つ桜の木を探していることはわかっていた。
「いっしょにお弁当食べるんだもの。リンブルグのみんなと一緒に。叔父さん、約束したよね?」
 ベッド脇のチェストの上に目を向けると、遺影の中の叔父さんが笑っていた。


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