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吉岡 幸一さん

性別 男性
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顔の皮を売る店

17/11/29 コンテスト(テーマ):第148回 時空モノガタリ文学賞 【 ホラー 】 コメント:1件 吉岡 幸一 閲覧数:622

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 四回ノックして錆びた鉄のドアを開けると、破れて色のくすんだ暗幕がある。重くじっとりと濡れた暗幕を開くと八坪程の狭い空間があり、壁一面が棚になっていて天井から床までびっしりと円筒上の硝子のケースが並べられている。
 硝子のケースの中には透明な薬品につけられた人の顔の皮が入れられている。よく見ると赤ん坊から死に際の老人まで、ありとあらゆる年齢層の顔の皮がある。男も女も、美人も不美人も、白人も黒人も黄色人種も、傷のある皮も傷のない皮も、さまざまな顔の皮がここには揃っている。
 棚の前に洗濯板のようなザラザラの机があり、蝶ネクタイをしめた無愛想な口髭の男が立っている。年齢は不詳、若くも見えるし年寄りにも見える。
 顔の皮を売る店、非合法なうえ、捕まると無期懲役または死刑になるほどの重罪なのだが、需要があるところ供給はあるもので、この手の店がなくなることはなかった。
 初老の男が店に入ってきたとき、まだ一歳くらいの赤ん坊を抱えた女が先にいた。厚化粧で派手な身なりをした女はレンガ三個分の札束を口髭の男に渡すと、机の上の硝子ケースの中身をまじまじと眺めた後、いきなり抱いていた赤ん坊の顔の皮を剥ぎ取った。そしてケースの蓋を取り、つけられていた顔の皮をつまむと剥いだ赤ん坊の顔に貼付けた。赤ん坊は泣き出すこともなく笑うこともなく無反応なままだった。
「やっぱりこっちの顔の方が可愛いわ」
 女は満足そうに言うと剥がした前の顔の皮を丸めて口髭の男に投げた。
「よかったらこちらの皮を引き取らせてもらえませんか」
「いいわよ、そんな顔なんてもういらないからあげるわよ」
 女は吐き捨てるようにそう言うと赤ん坊の頬に何度もキスしながら店を出て行った。
 口髭の男はもらった赤ん坊の顔の皺を丁寧に伸ばすと、抜き取られたばかりの空いた硝子のケースに入れた。液体の中ではぎ取られた赤ん坊の顔は静かに揺れていた。
「ところでお客さんはどんなお顔をお探しですか」
 慣れない場所で戸惑っていた初老の男は一礼するとメモ紙をひろげた。
「えっと、二十代後半の色黒でスポーツマンのような顔はありませんか。できたらさっぱりした感じの顔がいいんですけど」
 無言で背を向けると口髭の男はすぐに棚から硝子ケースを取り出して机に置いた。
「色黒ではありませんが、二十九歳の男性の顔ならあります」
「実はワシが二十代の顔が欲しいと思ったのはですね・・・・・・」
「説明無用です」
 初老の男が理由を説明しようとした途端、口髭の男は手を口に当てて黙らせようとした。
「お客様、ここでは購入者の都合は聞かないようにしています。いろいろなご都合の方がおられますので」
 凍り付くような冷めた目で口髭の男は言うと、硝子ケースを前に押して蓋を開けた。
 初老の男は今年で六十歳になる。想いを寄せる女性の年齢は二十三歳、これまで集めた情報によると、女性は二十代後半の色黒でスポーツマンが好みということをつかんだ。想いを遂げ、交際に繋げるためにも初老の男は若い男の顔が欲しかった。けして殺人を犯した犯罪者が顔を変えて警察から逃れるためではなかった。そのことを口髭の男に伝えて少しでも安く買いたかったのだがそれは叶わなかった。
「お買い上げになられますか」
 口髭の男は有無を言わさなかった。初老の男は圧されるままに頷いていた。
「おいくらですか」
「札束でブロック四個です」
「もう少し安くなりませんか。さっきの女の人だってブロック三個分だったじゃないですか。せめてブロック二個分にはなりませんか」
「駄目です。あちらはあちら、こちらはこちらです」
「それだけ払ったら家だって買えるじゃないですか。たかが顔の皮一枚で暴利じゃないか」
「どうぞお帰りください。出口はあちらになります」
 柔らかな口調で口髭の男は言うと、机の前に出て初老の男の肩を押した。初老の男はよろけるふりをして振り返りざまに男の顎を殴った。男が床に仰向けに倒れた隙に硝子ケースを掴むと、暗幕を開けてドアに向かって走った。だがドアノブを引いてもドアは開かない。蹴ろうが殴ろうがドアは壊れもしない。
「無駄ですよ。ドアはロックされています。出るときは私の胸のボタンを押さないと開かない仕組みになっているんです」
 起き上がってきた口髭の男は冷静に言うと、左手で初老の男の胸を掴み、右手で一気に顔の皮を剥がした。ベリッという音と共に初老の男は顔を失った。すぐにドアは開けられ、騒ぐ間もなく外に蹴り出されてしまった。
「顔がない、顔がなくなった」
 大声で叫び、ドアを叩いても中からは返事はない。諦めず、何度も叫び続け、狂ったようにドアを叩き続けていると、ドアが開き粉々に破かれた初老の顔が外に投げられた。
 ドアの隙間から顔を出した口髭の男は丁寧に頭をさげると、再びドアを閉めた。


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このストーリーに関するコメント

18/01/06 光石七

拝読しました。
『剥ぐ』に繋がるお話ですね。
非情なラストもさることながら、個人的には赤ん坊の顔を取り換える母親が怖かったです。
面白かったです!

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