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文香さん

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あの世とこの世とその境

17/11/27 コンテスト(テーマ):第148回 時空モノガタリ文学賞 【 ホラー 】 コメント:0件 文香 閲覧数:558

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とある人里離れた森の中に仲の良い夫婦が暮らしていた。
若い夫婦は貧しいながらも仲睦まじかったそうだ。
ところが突然、妻が亡くなった。
男は妻の白骨を丁寧に洗い土の中に埋め、その上に石を積み上げて立派な墓を作った。
「最期まで、ありがとう」
毎日毎日、新しい花を供えている。
妻をとても愛していた男は、妻のいないこの世界をひとりでどう生きていたっら良いのだろうか、と無気力に過ごしていた。
ある日、妻から昔聞いた話を思い出した。
とある場所の話だ。
その場所はあの世とこの世の境にあり、死んだ者があの世へ行く為に必ず通るのだという。
地獄でもなく天国でもなく、曖昧で不思議な場所。
何やら未練のある者たちがその場所に滞在して心晴れやかになったら、自ずからあの世へ行くらしい。
「私が先に死んだら、未練がましくそこで待っているかもしれません」
妻はそう言っていたことを思い出したのだ。
もしかしたら、と再び妻に会えることを願ってその場所を探し続けた。
薄暗い森の中、霧の絶えない山の中、暗い洞窟の中。
探せども、探せども、見つかることはない。
もう一度、会いたいだけだというのに。
いつしか、男はもう妻に会うこと以外は考えられなくなってしまった。
ある時、立ち寄った村で年老いた老婆が言った。
「そんなに必死にならずとも、この世で妻の分も幸せに生きれば良いではないか」
そんなこと許される訳がない。
許されてはならないのだと強く思う。
「では、何故、お前は生きている?生きることを許されているからではないのか?」
その言葉にはっとした。
そうだ、何故、私は生きているのだろうか。
何故、私は生きて妻を探しているのだろうか。
私には生きている価値を見いだせないというのに。
無意味な命なら早く捨ててしまえば良いものを。
男の顔はすっと付き物が落ちたかの様な顔になった。
男は老婆に礼を言った。
そして、すぐそばの森に入ると、首を吊って死んだ。
死んだ男はそのまま森の獣の餌となった。
だが、男は知らない。
男は森に住まう獣の血肉となり、尚も生き続ける。
男は気がつかなかった。
自らが殺した妻の肉を食べた男の体の中で、妻は生きていたということを。
あの世とこの世の境にあるという場所を探すまでもなく、男は妻とずっと一緒にいたのだから。
死ぬまでも、哀れな男は気がつかなかった。
死んだ後も、気がつくことはないことだろう。


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