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アシタバさん

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アイロボのメッセージ

17/11/26 コンテスト(テーマ):第149回 時空モノガタリ文学賞 【 弁当 】 コメント:0件 アシタバ 閲覧数:537

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 交通事故に巻き込まれ唐突に母がこの世を去った。サラリーマンの父と高校に通う娘の私はお葬式が済んでも母のいない生活を受け入れられずにいた。悲しみに暮れ、家のなかは火が消えたように静まり返り、気がつけばどちらからともなく涙を零す日々が続いていた。
 そこへアイロボがやってきたのだ。
「ただいま」
 玄関で死んだはずの母が微笑んでいる。その事実に私と父は驚愕したが、すぐ父が思い出した。そうだ、『アイロボ保険』に入っていたのだと。アイロボは『愛を繋ぐロボット』の略で一種の生命保険である。被保険者が事故や病気で死亡した場合、家族のもとへ保険者と瓜二つのロボットが送られてくるのだ。そのロボットは見た目だけではなく保険会社が被保険者の記憶を定期的に特殊な機器で保存しているので、中身も本人そのままになる。そのロボットが残された家族の生活を以前と変わらぬようサポートしていくという仕組みだった。昔、友達に父親がアイロボになった子がいたが、「すごいよ。まるでパパが生き返っちゃったみたい。パパが死んじゃう前と何にも変わらないの」と話していたのを思い出した。
「おかえりなさい」
 私と父は縋るようにアイロボを受け入れた。

 アイロボとの生活は私と父を絶望の淵から救ってくれた。毎朝、母の声で起こされて、母の温かい朝食を食べる。「ハイこれ」とお弁当を手渡されて見送られながら家を出る。家に帰れば「おかえりなさい」と出迎えられて、家族三人で賑やかに食卓を囲んだ。食卓に並んだ料理はよく知る母の味と寸分違わず、もう二度と手に入らないと思っていた以前の生活が送れるようになり、私と父は随分と明るさを取り戻した。母の死はきっと夢だったんだ。そう考えるようになっていた。私と父はアイロボを本当の母のように思い、アイロボもまた本当の母のように振る舞っていた。
 しかし、ある時、小さな違和感を覚える。それは毎日渡されるお弁当の味だった。卵焼きを口に入れた途端、アレ? と心のなかで呟いた。
(少ししょっぱい?)
 それは母がつくるお弁当ではなかった。ごはんが固めに炊かれ、ミニハンバーグや野菜炒めの味つけも、微妙に違っているのだ。
(なんで? 今までお母さんの味だったのに)
 そう考えた途端、胸にジワリと嫌な想いが込み上げてきた。母はもういない、あいつはロボットなのだと。その瞬間、たまらなくなり気がつけば学校を早退して家のベッドで寝込んでいた。心配した父が帰ってくるとすぐに疑問をぶつけてみた。
「今日のお弁当変じゃなかった?」
 その問いかけに父は答えてくれない。
「やっぱりあれはお母さんじゃないんだね」
 すると父の表情が険しくなる。
「寂しい気持ちはわかるが今はあれが母さんなんだ。そんなこと言わず今まで通り生活をするんだよ。いいね」
 険しい表情とは裏腹に母の死から必死に目を背ける弱々しい父を前にして、私はそれ以上何も言えなかった。

 父のいない日。アイロボにお弁当の話をする決意をした。
「あら、どうしたの?」と母と同じ笑い方で微笑んでいる。
「なんでお弁当の味を変えたの?」
 その瞬間、アイロボの表情が消えた。やはり目の前にいるのは母ではなく機械なのだと思い知り背筋がゾクリとした。しかし、アイロボは「実はね」と優しい表情を浮かべて話し始めた。
「私達は元々、遺族に『新しい生活』を始めて貰うために造られたの。大切な人を失った悲しみから抜け出せない遺族に心を整理する時間を持って欲しかったわ。でも、実際にはずっとアイロボと生活を送る人ばかりで、本来短期間で役目を終えるはずのアイロボが延々と現実から目を背ける為のシステムにすり替わったのよ。会社はアイロボの契約が増えればそれでいいと開き直ったけど、私としてはやっぱり、故人との思い出を胸に遺族が先へ進むことを願っているわ」
 でもね、あまり勝手な真似はできないのよ、なにせロボットですもの。そう笑うアイロボの笑い方は母のとは違い、これがこのアイロボ本来の性格なのだと悟った。
「だから、お弁当にメッセージを込めてみたのよ」
 その言葉の直後に父が帰宅する気配がしてアイロボはいつもの母の表情に戻った。
「本当のお母さんもそれを望んでいるはずよ」私に最後、そう囁いて。

 今日も学校の昼休みにお弁当箱を開く。見た目ではわからないが味付けは母と違うはずだ。父も今頃、このお弁当を食べている。
(新しい生活か……)
 その一歩を私と父は無事に歩むことが出来るだろうか。母がいなくなった現実ともう一度向き合うことは悲痛に満ちている。このままでもいい、という想いは捨てきれない。
(お母さんのお弁当が食べたいな)
 弁当箱から卵焼きをつまんで頬張るとやっぱり味が違った。母はもういないのだ、と口に広がる微かな塩っけが心を戒める。
 そんな気がした。


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