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小峰綾子さん

性別 女性
将来の夢
座右の銘 笑う門には福来る

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ノートを見てしまった

17/11/26 コンテスト(テーマ):第148回 時空モノガタリ文学賞 【 ホラー 】 コメント:0件 小峰綾子 閲覧数:340

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その人から告白されたのは5月の末。サッカー部のマネージャーから、放課後に3組の昇降口に行って、と言われた時に、ついに来たなとは思った。3年生になったころから、彼が私のことを好きらしいと噂が立っていたようなのだ。

言われた通り放課後昇降口に行くと、竜也君は緊張気味の表情で立っていて、メモ紙を渡してきた。

「好きです。付き合ってください。」

もちろん答えはOK。イケメンでスポーツ万能の彼。断る理由なんか見つからない。

「川村さん、今度うちで勉強教えてくれる?」
付き合い始めて2週間後、一緒に下校している時に言われた。さっそく次の日曜日、彼の家で一緒に勉強することになった。

竜也君は私のうちの近くまで迎えに来てくれた。おうちにご両親がいたらどうしよう、と思っていたが「今日は親も兄ちゃんもいないんだ」とのことだ。晴れた日のお昼時、彼の家まで一緒に歩く。何だか自分の身に起きている事とは思えない。恥ずかしいけど嬉しい。

20分ぐらいで彼の家に着いて部屋に案内される。思ったよりも片付いているが、頑張って片づけたのかもしれない。

「あ、やべ。うちお菓子とかジュースとか何にもねぇ」
「別にいいよ。気を使わないで」
「コンビニ行ってくるよ。食べたいものとか、ある?」
「何でもいいよ。」
「じゃ、待ってて」

颯爽と竜也君は出て行ってしまった。

水色の布団カバー、勉強机。彼が普段この部屋で過ごしているんだと思うと、新たな彼の一面を見た気がしてドキドキする。

目の前の勉強机と、その上に重なっているノートやプリントなどをぼんやり眺める。

この机の引き出しには他の誰も知らない彼が詰まっているのだ、と思うとちょっと覗いてみたくなった。彼が帰ってくるまでは15分ぐらいあるだろう。ちょっと見てすぐ元に戻せばいい。

一番下の引き出しをそっと開けるとファイルやノートなどがならんでいた。ノートの表紙には、男の子らしい勢いのある字で「数学」「国語」などと書かれている。その中で表紙に何も書かれていないノートが一冊あった。それをこっそり取り出して、パラパラめくってみる。左端に日付、その横に文章が書かれている。日記だろうか。

4月7日(金) 朝7:45家を出た。放課後、南と橋本と一緒に帰っていった
4月8日(土) 3時ぐらい、お母さんと、OKマートで買い物。アイス食べてた。
4月10日(月)朝7:30ぐらいに出てた。南と、交差点のところで待ち合わせして一緒に登校してた。手帳を見ることに成功する。5月8日が誕生日らしい。

思わずノートを落としそうになり、まっすぐ立っていたはずなのに視界がグラつく。これは彼の日記ではない。書かれているのは私のことだ。

どうして…なんで…

そういえば、付き合い始めたのは誕生日が過ぎた少し後ぐらいだったのに、突然「遅くなったけど、誕生日プレゼント」と言ってキーホルダーをくれたことがあった。
「どうして知ってるの?」と聞いたら「調べたら分かるよ、それぐらい」とちょっと照れながら言っていた。

その時は、こっそり友達に聞いたのかな、ぐらいに思っていた。それよりも私のことを知ろうとしてくれたのが嬉しい、という気持ちが先に立って、深く考えなかったのだ。
朝、家を出る時間にどこかで見ていたという言うこと?手帳は机に入っているかカバンに入れたまま、どちらかのはず。だとしたら、誰も教室にいない時に忍び込んで盗み見たのだろうか。

体育で活躍する竜也君、照れて前髪で顔を隠す竜也君、クラスの人気者の竜也君。そんな彼が、人を陰で観察したり手帳を盗み見たりする、想像ができない。

ひとまずノートは引き出しのもとに戻す。

そのあと5分ぐらいして竜也君はコーラやお菓子などが入ったコンビニ袋をもって戻ってきたのだが「具合悪くなった」と言って彼の家を後にした。

その後あの出来事を忘れて付き合おうと努力をしたが、無理だった。1か月後に「やっぱり好きじゃなくなった」と言って無理やり押し切って別れた。友達はみんな「何で別れたの?」と不思議がったが、適当なことを言ってごまかした。あんなこと、本当のことなんて言えるわけがない。

その後竜也君は1組の前田さんという子と付き合うことになった、と風の噂で聞いた。元吹奏楽部の、小柄なかわいい子だ。

夏休みに入り私は本格的に受験勉強を始め、その日も朝から図書館に向かっていた。図書館の敷地内に入ったところで、茂みの影に立っている人が視界に入る。

竜也君。

何をするわけではなく入り口を見つめて立っている。
図書館に入らないのだろうか。気づかれるのも嫌なので顔を伏せて足早に図書館に入った。

勉強室に入り席を探して歩いていると、知った顔があるのに気が付く。

1組の前田さんが、机に向かって参考書を広げていた。


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