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白瀬 弌さん

ただの引きこもりです。 駄文しか書けませんが創作が好きなので登録しました。 よろしくお願いします。

性別 女性
将来の夢 悔いなく死ぬこと。
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やさしい味

17/11/26 コンテスト(テーマ):第149回 時空モノガタリ文学賞 【 弁当 】 コメント:0件 白瀬 弌 閲覧数:156

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優しい母の味。
ふるさとの味、慣れ親しんだ味。

当たり前のように毎日食べていると、その有難味を、ふと、忘れてしまいそうになる。



「今日のお弁当は、自信作よ。」

僕が家を出る前に、母さんは弁当を包んだ巾着を渡してくれる。
それを受け取りながら、どうせいつもと同じだろうに、なんて心の中で呟いた。
口に出すと、僕の母はおしゃべりなので、学校に遅刻しかねない。

「はいはい。んじゃ、いってきます。」

慣れた動きで弁当を鞄にしまうと、挨拶をして家を出た。
うーん、と伸びを一回して眠気を飛ばす。通学路を歩いて、駅まで向かう。
駅は家から徒歩五分ほどなので遠くない。つまり、自転車は使わなくても良いのだ。
右に曲がって、真っ直ぐ進んで、また右に曲がって…と、考えなくても体は動く。
駅につくと、電車を待つ。いつもと同じ時間の電車に乗って、空いている席がないか見渡した。
朝の通勤通学ラッシュで埋まってしまったらしく、残念ながら席は空いていないみたいだ。
ふと、荷物を席に置いているマナーのない人を見かけ、内心ムカッとしてしまう。
だが、触らぬ神に祟りなし。何も言えないのは、僕が日本人らしい奥ゆかしい学生だからである。

学校の最寄り駅になると、ワッと制服姿の若者が次々と出てくる。
皆、僕と同じ制服を着ているので、同じ学校ということだ。

歩いてすぐ、学校に着くと、教室に向かう。
既に来ていた友人が、此方に気付いて声をかけてきた。

「おっす、おはようさん。」
「ああ、おはよう。」

簡潔な挨拶だが、それで十分。
僕は自分の席につくと、鞄を机の横にかけて、ひと息つく。
次々とクラスメイトがぞろぞろと揃ってくるのが、なんとなく分かる。

そうしていつものように授業を終えて、昼休みになると、一気に賑やかになる。
数少ない友人は、「購買のパンを買ってくる」と言い、チャイムと同時に出て行った。
あまり他人に縛られることを好まない僕は、どちらかというと孤立している方なのだろう。
だが、それを寂しいと思ったことはない。適度に会話する相手はいるのだから。
必然的に一人で食べることの多い弁当をあけて、中を見る。

「あ、昨日より卵焼きが一個多いな…。」

まさか、それで自信作だと言っていたのだろうか。
最初に卵焼きを一口食べて、ご飯をかきこむように食べる。
卵の味に醤油と少しの砂糖が、僕にとっての慣れ親しんだ卵焼きの味だ。今日も、寸分の狂いもない。
腹が空いていたのも相混ざり、ぺろりと綺麗に弁当を食べ終えてしまった。
市販のものを再利用して、家で作ったお茶が入っているペットボトルの蓋をあけて、ぐいっと呷る。
ぷはぁ、と小気味のいい息を吐いて満足すると、いそいそと弁当を片付けた。

そういえば、もうすぐ母さんは誕生日だ。
いつも僕や父の弁当を作るために朝早く起きている母のために、何か買って帰ろうか。
喜んでくれている母の顔がふと浮かび、つい口元がにやけてしまった。
母は昔から、「子供がくれるものならなんでも嬉しい」と言って、僕が幼い頃に書いた絵も大事にしている。
言ったら負けだと思って言わないが、かなり恥ずかしいので、そろそろ玄関に飾るのはやめて欲しい。
そして父も、そんな思春期特有の自分の考えを見透かしたように、母の真似をして飾るのだ。夫婦揃って勘弁して欲しい。
僕が幼い頃に書いた、父と母の似顔絵が玄関にあるのは、どこかむず痒くて、なんとも筆舌尽くしがたい。

なんてことを考えているうちに、始業のチャイムが鳴る。
いつものように席に慌ててつく生徒たちを見ていると、すぐ先生がやってくる。
いけないとは分かっているが、昼休みのあとの授業ほど眠いものはない。
眠気に耐え切れず、少し居眠りをしてしまった。バレていなかったのが、幸いか。

授業も終わり、放課後になる。ざわざわと会話が賑わう教室を背にして、学校を出た。
たまにはコンビニスイーツでも、買って帰ろうか。
両親も僕も、甘いものが大好きだ。期間限定のものを三つ買って、夜に家族で食べよう。


それで、少しだけ日頃の恩返しが出来ていたらいいな、なんて考えながら。
僕は、いつもよりちょっぴり機嫌よく、家に帰った。


「ただいま。」





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