1. トップページ
  2. 僕のお弁当箱

t-99さん

性別 男性
将来の夢
座右の銘

投稿済みの作品

0

僕のお弁当箱

17/11/24 コンテスト(テーマ):第149回 時空モノガタリ文学賞 【 弁当 】 コメント:0件 t-99 閲覧数:160

この作品を評価する

 僕の通っている小学校には給食がありません。だから生徒ひとりひとりがお弁当を持ってきてお昼休みに食べます。料理教室に通っているママの作るお弁当は、豪華でみんなが羨ましそうな顔をします。二段重ねのお弁当箱は愛情が詰め込まれていて、一段目はワカメ、梅じそ、白ごまとをほどよく混ぜ合わせた彩り豊かなご飯が敷き詰められ、二段目は香ばしい焼き魚、柔らかく蒸しあげたチキン、ケチャップたっぷりで僕の大好きなナポリタン、カリッとあがった海老フライは特製のタルタルソース付き、シャキシャキレタスにタコさんウインナーと玉子焼きが続き、豆腐ハンバーグとポテトサラダまで添えられていました。お互いの味が混ざることなく、崩れることもなく、順序よくお弁当箱に並べられていました。ときどき僕はお弁当をクラスメイトに配っていました。
 昼食は机を向かい合わせに食べます。席が隣の佳奈ちゃんを、僕はあまり好きではありませんでした。洋服は同じものばかり着ているし、クシが通っていない髪はボサボサで艶がなく「早く二学期になって席替えをしないかな」と密かに思っていました。
 佳奈ちゃんのお弁当はいつもおにぎりでした。ラップで包まれたおにぎりが2個だけ、ただそれだけでした。不思議に思って一度だけおかずを持ってこない理由を尋ねたことがありました。佳奈ちゃんは「おにぎりのなかに昆布や梅干が入っているのよ」と教えてくれました。
 尋ねたことさえ忘れかけていた6月に事件は起こりました。その日のお弁当はキャラ弁でした。テレビの人気キャラクターをかたどったもので、クラスメイトがたちまち集まってきました。「すごい、見せて、見せて」押し合ううちにその中のひとりが、僕のお弁当箱を取り上げました。するとその瞬間、両手から離れたお弁当箱が、勢いよく中身を撒き散らしたちまち床に滑り落ちていきました。キャラクターの唇だったケチャップは、そばにいたクラスメイトのシューズに赤い血のように飛び散っていました。「時間が止まった?」勘違いするほど誰ひとりことばを発する人がいませんでした。息をするのを忘れるくらい教室は静まり返っていました。
「もったいないな」
 佳奈ちゃんは床に転がっているおかずを集めていました。丁寧にひとつずつ拾い上げては、残念そうに顔をしかめました。その様子を見ていたクラスメイトは、お弁当箱を洗いにいく人、雑巾やホウキを手に床をみがく人、汚れてしまったシューズやイスをふく人、誰が命令するわけでなくめいめいで体を動かしていました。僕はそれを見ていました。なにもすることができずただ見ていました。
 気がつけば教室はきれいに片付けられていました。いつの間にか正面に座っていた佳奈ちゃんが、カバンから2個、えらく不格好なおにぎりを取り出していました。
「これあげる。おかか、それとも鮭か、食べてのお楽しみ」
 佳奈ちゃんがそのうち1個「やや形がきれいな方?」を差し出しました。
戸惑う僕に、クラスメイトが話かけてきました。
「さっきはごめんね。これミニハンバーグ、よかったら食べて」
 僕の空っぽだったお弁当箱にミニハンバーグがひとつ置かれていました。
「はい。唐揚げ」
「目玉焼きも食べて」
「いつももらってばかりだから、よかったら……」
「この肉団子うまいんだぜ」
 みるみるうちに僕のお弁当箱が、クラスメイトからもらったおかずでいっぱいになっていきました。28人全員の気持ちがぎゅっと詰まったお弁当箱はきらきら輝いていて、なんだか食べてしまうのがもったいないくらいでした。
「わたし鮭だったよ、早く食べてみて」
 おにぎりを食べるように佳奈ちゃんがけしかけます。
「少し、しょっぱいな」
 口に入れた途端、目からあふれだした不思議な感情が僕の視界と味覚を奪っていきました。思わず鼻をすすり込んだらかつお節としょうゆの甘い匂いがしました。
「そうかな」
 おにぎりに唇をつけたまま佳奈ちゃんが首をかしげていました。クラスメイトは思い思いにお弁当を食べ、止まっていた時間がゆっくり進み、空気が流れていくのを僕は感じていました。
今度、お弁当箱におにぎりを詰めよう。もちろん僕が握って、それを佳奈ちゃんにあげるんだ。おにぎりのおかずはなにがいいかな。佳奈ちゃんがおにぎりを食べている姿を見ているだけで、自然と笑みがこぼれてきました。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン