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田中色さん

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性別 女性
将来の夢 作家
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そこに彼女はいた

17/11/24 コンテスト(テーマ):第148回 時空モノガタリ文学賞 【 ホラー 】 コメント:0件 田中色 閲覧数:311

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11月17日、午前4時45分。
昨日起床時から今日のこの時刻まで寝ていない。昨日の夜薬飲むの忘れた。まァいいやもう。帰ったら朝に薬を飲もう。
「……の前に一服〜」
コンビニによって熱い微糖缶コーヒーとアメスピブラックを買う。
「あ、あのすみません。念の為保険証とかで年齢確認させてもらってもいいでしょうか?」
レジの新人であろう女性店員がおどおどした口調でそう言った。
「え、まじか。いや、保険証はあるし年齢見せることに抵抗はないんだけれど……嬉しいな、はいこれ」
思わずべらべら喋りながら財布から取り出した保険証を彼女に見せた。彼女がそれを手に取り計算する。すると分かりやすいくらい驚いた顔をした。
「え、あの、32歳ですか?」
「あはは……まァ童顔っつー自覚はあるから大丈夫だよ」
「申し訳ございません」
「いやいや、寧ろちゃんと年齢確認してて偉いよ頑張ってね」
「ありがとうございます!」
最後に満面の笑みで丁寧に彼女はお辞儀をした。
なんていい子なんだろう。私も見習わなくては。というか世の人間皆彼女の爪の垢を煎じて飲めばいいんだ。
そんな無意味な考えをしながら煙草に火をつけて、コンビニの端にある灰皿ポストに立った。
「……外で吸うには寒いなァ」

「煙草臭い。外で吸いなよ」
一つ年上の彼氏に今更ながらそう言われて私は驚いた。
「なんで今?」
「……仕事がストレスなのはわかるけど、吸い過ぎだと思う。それに部屋が臭いし黄ばんできてる。外で吸うようになったら数も減るだろうし部屋も臭くない」
「まじかァ……外寒いじゃん」
「健康のためだよ。赤ちゃん作るんでしょ」
「……そうねぇ」

そんなことがあったから、私は最近家から一番近いコンビニで煙草を吸うために通っている。
そしてよく会うのが、研修中の店員あやめちゃんだった。前に年齢確認をしてくれた子だ。
「いらっしゃいま……あ!斎藤さん」
ちなみに私は斎藤みちるという名だ。
「こんばんわー今日も遅くまで偉いねぇ、このまま早朝までロング?」
「はい!」
「若いねぇ。眠くならないの?」
「たまに眠いですけど、ほとんど業務が掃除なんで大丈夫です」
ニコッと効果音が鳴りそうなくらい愛嬌のある笑い方だった。
そしてその日以降、彼女と会うことはなくなった。

「こんなこときいたらまずいんでしょうけど、あの、あやめちゃんって仕事辞めちゃいましたか?」
私は名札に店長と書かれた男性の店員に対してそうきいた。
答えはきっとやめてしまったんだろうと決めつけていたので、次の言葉が私はうまく飲み込めなかった。
「…………死んじゃったんです。自殺だそうです。本当は喋っちゃいけないんですが、お客さんとあやめちゃんは異様に仲良かったので、ご報告いたしました」
「……はい?」
思わず頭がキレそうになった。
……シんじゃった。しんだ。死ぬってなんだ。
生きてるってなんだ?
「……申し訳ないです。もっと僕が彼女を見守っていれば……」
「……あ、あの、本当に?」
「はい」
「……あ、なんもいらないです」
それだけ言って私は踵を返した。
本当に? 本当なのか? 一か月くらいまであんなに笑顔だったのに。
「生きるって何だと思いますか?」
はい? あれ、声が出ない。
頭の処理が追い付かないまま脳内で若い女性の声が聞こえた。
「私はもうずっと死にたかったんです。理由は生きていたくないからです。いじめもなかったし、お母さんは冷たかったけど父さんは優しかった。私よりも先に死んでしまってますけどね」
……あやめちゃん?
心の中でそう呟くと返事が聞こえた。
「そうですよ斎藤さん。死んでからいろんな人が、いろんな反応してました。母さんは始終無表情。友達は皆泣いたふりしてました。一番悲しんでくれたのは斎藤さん、あなたです。ありがとうございます」
……なんで死んじゃったの? まだ若いのに。
「死に対して若さは関係ないですよ。いい大人が勝手に価値を付けてしまっているだけなんです。斎藤さんと話せてよかった。いきますね」
……まって!
「まってってば!」
気が付いたら路地裏のど真ん中にいた。ここまで歩いた記憶がない。
……怖い。
不意に三匹の黒猫が私の足にまとわりついてにゃーにゃーと背後に向かって激しく泣き始めた。
……後ろに誰かいる?
振り向いてはいけないような気はするが、構わず振り向いた。
そこにいたのは…………。


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