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要崎紫月さん

『精神攻撃系お耽美ホラー』と銘打ち、短編を書いています

性別 女性
将来の夢
座右の銘 一生懸命

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爆破室

17/11/23 コンテスト(テーマ):第148回 時空モノガタリ文学賞 【 ホラー 】 コメント:0件 要崎紫月 閲覧数:91

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昨晩から降り続いた雨は夕方に止み、車がようやくすれ違うことの出来る林道に霧が出ていた。けども通い慣れた道、いつもと変わらないスピードでバイクを走らせる。
この道で一番急なカーブ。結露したカーブミラーは何も映せない。
その下にぼんやりと白い物が見えた。目を凝らすと誰か居る。ワンピースを着た女だ。その姿をはっきりと捉えた瞬間、全身に激痛が走り、視界が暗転した。

「ようやくお目覚めかしら?」
 目を覚ますと、一人の女が視界に入ってきた。
 無音。いや、微かに聞こえる。唸り声。獣が敵を目の前にした時の低い声が。
 真っ白い壁の小さな部屋。その内側に作られた透明な箱の様な中に僕はいた。
 足元から冷えが上ってくる。見ると、白いタイルが敷き詰められていた。左に向かって僅かに傾斜している様で、目で追っていくと排水溝が見えた。嫌な予感しかしなかった。この何も無い状況から、水を撒く状況に変わる可能性がある。
そして、掛けた椅子に手足を括り付けられている上、全て金属製で床に固定されていた。動こうとするとベルトがギチギチと軋んだ。消毒液の匂いが鼻を突き、身体がみるみる冷えていく。
 一命を取り留めた僕は、リハビリを何とかこなし退院に漕ぎ着けた。様子を見にやって来た看護師に「ここは何処だ?」と尋ねると、聞き慣れない名前を答えた。
 最後の朝食を済ませ、退院手続きといって病棟がある建物から別棟に案内された。面倒だと思いながら、病院職員の後ろを歩いているうちに眠気が襲ってきた。食事は腹一杯にはならなかったし、昨晩もよく眠れた筈だった。
 足元がフラつく。小部屋に入るよう促され、椅子に腰掛けると、僕はそのまま眠ってしまった。そうしたら、この有様だ。
 僕は女をよく見た。知らない顔だった。けども、全く知らないという感じがしなかった。
 記憶を巡っていると頭の違和感に気付いた。目を思い切り上に向けてみたり、頭を振ってみたりするけども、その正体を見る事は出来無かった。
「今、貴方の頭にはヘッドギアが被せてあるの」
 僕の心中を察したかの様に女は言った。
「それは逐一、貴方の思考を読み取り続けている。そして、一つのキーワードを待っている」
「キーワード?」
 その時だった。背後で何かが破裂した。水分がブチ撒けられる音と硬い物がぶつかる音。
 いや、もしかして潰されたのか?
「あーあ、当てちゃったみたいね」
 女の視線は僕の背後へと向けられた。僕はおそるおそる振り返る。
 透明な壁に赤黒い液体がベッタリと付着し、滴っていた。所々何かの破片が混ざっている。表面がつるりとしたピンク色の塊、黒いモサモサした塊。黄色味がかった液体に濡れた床にも無残に飛び散っている。じっと見るとそれは肉片と毛髪だった。
「答えを聞いてしまったら、お隣さんの二の舞よ。でも、十二時になったら開放してあげる。あと十分」
「僕が一体何をしたっていうんだ!」
 女は僕を一瞥すると右側のドアへ消えていった。
何も考えるな、そう思っても無理な話だ。
キーワード、一体何だ? 駄目だ、それを考えてどうする。
 いや、待てよ。
 特定の思考、おそらく脳波をキャッチして爆弾を起動させる事なんて可能なのだろうか。
体温、血圧、発汗、心拍数?
 自分の口角が吊り上がるのが分かった。
 そんなの、無理だ。
 このまま時間が過ぎるのを待てば良い。だったら、隣で起きた爆破は何だ? アレは本当に人間だったのか?
「仲間内であの道を今も使っているのは貴方だけだった」
 隣の部屋の窓からこちらを見ながらマイク越しに女は言った。
「覚えていない? 十五年前、集団暴走をした上、乗用車に転落事故を起こさせた事」
 僕ははっとした。
「あれは僕じゃない、僕はただ」
「あの車を運転していたのは、私の父よ」
 確かに僕はツーリングと称したあの行為に参加していた。けども、先輩達からはだいぶ引き離されていた。僕が現場に着いた時には車は崖下に落ちて、先輩達の姿も無かった。
「話なんてしていたら、時間だわ」
「はは、助かった……」
 思わず口を衝いた。いや助かってしかるべきなんだ、僕は関係無い。しかし、安堵する筈が身体の内側がザワついてきた。ガラスの向こう側の女は笑っていた。
「あら……ごめんなさい、見るべき時計を間違えていたみたい」
「騙したのかっ!」
 モニターに映し出された時計はほんの僅か、十二時に届いていなかった。
「父だって、助かりたかった」
 そう言った女の瞳はひどく冷たかった。
「やっぱりスイッチは、自分で押したいわ」
 結露したカーブミラー、ワンピースの女。コードの先の赤いスイッチ、女の歪んだ表情。最期の映像が焼き付いて僕は真っ暗になった。

「あはは、やっぱり綺麗! でも、もうあと二人」


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