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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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ホラーな女

17/11/22 コンテスト(テーマ):第148回 時空モノガタリ文学賞 【 ホラー 】 コメント:0件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:151

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 その話をもし山根ではなく他のだれかから聞いていたら、もちろん私ははなから信じなかったにちがいない。ふるくからの知り合いで、どんな理由があれ人を欺いたり、まちがったことを平気で伝えるような男でないことは、私が一番知っていた。その話をした場所がいつも二人でいく居酒屋で、すでに二人とも少し酔っていたことが若干、信憑性にかけるといえばかけるが、大の男が二人して素面でこんな話もできないだろう。
「その女性と口をきいた人間は、近いうちに命をおとすという話だ」
 彼のいうその女性というのは、鶯通りという山からつづく竹林にはさまれた一本道に、夕暮れ時になるとあらわれる一人の女性のことだった。これまでに2人の男性が、彼女と言葉をかわしたばかりに、亡くなっているとか。
 酒はのみだしたものの、どういうわけか話がしらけがちで、それならと私の怖いものずきの性格をしっている山根が機転をきかしてそちらに水を向けたのだった。彼のそんな気遣いがわかるだけに私も、大いに乗り気になったふうをよそおった。
 二人が死んだというのが本当であっても、その女性と話をしたのが直接の原因とは、さすがに私もうのみにはできなかった。それはおそらく山根もまた、おなじではなかったか。だからこそつぎに、こんなことをいった。
「興味があるなら、いちど、あってみないか」
「いつでもあえるのかい」
「夕方、鶯通りにいけば、あえるかもしれない」
「どんな女性だろう……」
「なかなかの美人らしい」
「ぜひ、あってみよう」
 なんでも彼女は、こちらから声をかけると、親しげに応じてくれるとか。冷ややかな無視や、そっぽをむいたり、ひどいのになると不審者でもみるような目つきでにらみつける女が多いいまの世の中に、そんな奇特な女性がいるとしって、どうしてあわずにいられるだろう。いったてまえ、山根も同行することになり、つぎの土曜の夕方駅でまちあわせて二人、そこからそう遠くもない鶯どおりにおもむくことにした。
 そして当日、私と山根は、青々とした竹林に覆われた鶯通りにやってきた。
 夕暮れ時にはまだすこしはやく、なだらかな坂道につもった落ち葉が木漏れ日に黄色く照りかがやいている。朝方ふった雨のなごりか、踏むと下から水がにじみでてきた。
 ひとりのほうがいいだろうと山根は、私をその場に残して坂をあがっていきやがてその姿は、竹林にさえぎられてみえなくなった。
 と、その彼の姿が視界から消えてまもなく、ひとりの女性が、こちらにむかっておりてきた。
 あまりにもはやい登場に、一瞬まさかとおもった私だが、こちらの視線をうけとめたその顔にうかぶ、柔和な笑みをみるなり、まちがいないと私はおもい直した。
「こんにちは」
 じぶんでもおどろくほどすんなり声がでた。
「こんにちは」
 それがまた素直な、ひとつの気取りもかんじさせない相手の調子に、私はおもわず彼女にあゆみよっていった。
「竹がみごとですね」
「ここの竹、近隣でも有名ですのよ」
「そうだろうな、静かでいいところだもの。ここはよく、とおられるのですか」
「いつもとおってます」
 初対面とはおもえない、うちとけた彼女の調子に、私はすっかり気をよくしてその目をのぞきこんだ。瞳が黒く、私をすいよせた。
「じつをいうと、あなたがくるのをまっていたのです」
「それは、どうして」
「怒らないできいてくれますか」
「怒るわけないでしょう」
 彼女は本当に、私の話をきいても怒らなかった。言葉をかわしたものは近日中に死ぬときかされたときには、逆に鈴の音のような声をあげて笑いだした。
「おもしろいことをおっしゃるお友達ですわね」
「こんどあったら、殴っておきますよ」
 彼女と私はまた笑った。そこで話はとぎれ、二人のあいだに沈黙がながれた。
「すみません。ひきとめてしまったようです。――あの、また会えるでしょうか」
 ここでならという意味だろうか、彼女はそっと足元に目をおとした。
 ゆっくりとした足取りで彼女は坂道を下りはじめた。道がまがってみえなくなる寸前、一度ふりかえって私をみた。二人のあいだに笑みがかわされ、そして彼女はあるきさっていった。
「おい、どうしたんだ」
 坂の上でまっていた山根が、息せききってあがってきた私をみて、おどろいたようにいった。おそらく私は、想像以上にハイになっていたらしい。
「すばらしい女性じゃないか」
「――なんのことをいってるんだ」
「きみもみただろ、彼女を」
「え」
 彼は坂の上にずっといたが、そんな女性は一度もみかけてないと断言した。
「そんなはずは……」
 私は頬にふれた、彼女の吐息の生暖かい感触をおもいだして、おもわず寒気に背筋をふるわした。
 私が体調をくずし、医者のすすめで入院を余儀なくされたのは、それからまもなくのことだった。


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