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大和柚希さん

発達障害者/統合失調症寛解中/小説家志望生twitter⇒https://twitter.com/_yukiyamato

性別 女性
将来の夢 世界的障害者文学賞を創設する/自らがその第一号受賞者に選出される
座右の銘 「この世と自分の何方が狂っている!」

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フロートエイジ

17/11/22 コンテスト(テーマ):第149回 時空モノガタリ文学賞 【 弁当 】 コメント:4件 大和柚希 閲覧数:318

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 これは何を提示していると言うのだろう。
 登校を拒否し続ける私の食卓には、母親が作った弁当が連日に置かれた。彼女は学校へ行かず、自室に籠もり続ける私に対して飽きも懲りもせず、朝が来る度にそれを作り続ける。
 率直な自分の感想を言うと、非常に気味が悪かった。何を考えて先方がそうしているのかが、全く分からない。学校へ行って欲しいのならば直接にそう告げれば良い事だし、無言の内なる愛情の表現として弁当を作っているとしたら、当方は強迫して押し付けられる感覚がして堪らない。その他にも様々な理由が弁当に纏わって思い浮かんだ。けれども、それらの全ては自分に関して好ましくない事柄でしか無かった。
 次第に、私は母親を意識して避けて行く。相も変わらずに彼女は何も言わないまま、日毎に弁当を産生しては規則へ従う様に悪くなった中身を廃棄する。用事があり、仕方が無く部屋から出た時に私が見たその姿は、何かの主従や秩序に囚われ、自由を奪われた奴隷そのものに見て取られた。自分はこう言った人間、いや、自我を持てない存在になりたくは無い。僅かばかりの母親に対する背徳めたい気持ちを持ちながらも、私はそう思った。



「亜弥子、これからどうするの」
 出席日数の不足により、留年の措置が執られる旨を学校から電話で告げられた日に、母親が私へ訊ねて来る。いつもは父親が居ないと、当方に何も言及しない彼女が能動して話すのは、途轍もなく珍しい事だった。私はその事実に些かながらも驚き、口籠もりながら曖昧に応じる。
「うん、まあ、学校は、辞めるかな」
「辞めてどうするの」
「学校に行ったところで、もう授業に付いて行けないし、同級生に合わせる顔も無いから」
「私は、辞めてそれからどうするのか、って訊いているのよ!」
 母親が食卓を拳で殴り、怒鳴った。それは初めての事だ。加えて他人の逆鱗へ久し振りに触れた私は、目を見開いたままで眼前の事実をどうにかして呑み込もうとする。
「辞めて、から、私は、家を出ようと思う」
「それからどうするの」
「働いて、自分の力で生きる」
 何も言わずに母親は後ろを向くと、台所の流しにあった私の白い弁当箱をそのままゴミ箱の中に捨てた。重い音が辺りに響く。それから察すると、弁当の中身は一杯に詰まっていたらしい。
 彼女は言い捨てた。
「好き勝手にすれば」
 それは私と母親のどちらが遣うべき言葉だったのか。困った時は夫に頼り、言いたい事も言えず、厄介があると直ぐに他者へ助けを求めたがる、哀れで非力な女。私は酒に酔って暴力を振るう父親が途轍も無く嫌いだけれども、それに寄り掛かって生きる母親は、父親よりも格段に憎かった。絶対にこうはなりたくない、と称するべき模範として、彼女は私の中で構築されていたのだ。

 暫くの時間が経過し、私は学校を中退して家を出た。
 母親は実存から虚像に変化する。



 それからの私は、知人や男の家を転々とした。結局は定職へ就けず、単発のアルバイトを繰り返しては、無能で頭と尻の軽い女だと色々な相手に見られる毎日。

 こうでは無かった。
 もっと別の、何か違うものがあった筈なのに。

 母親が捨てた、弁当箱の落下する音が意識に蘇った。自分は家に戻るつもりも無ければ、頼るべき存在も無く、行く当ても無い。これが過去に日常を拒み続けていた最中で思い描いていた「自由」と言うものならば、完全に私は現実を舐め切っていた事となる。独力で生きるに当たり、先ずは最も近くに居た「母親」と言う存在に、私は確固として向き合うべきだったのかも知れない。
 しかし、もう泣き言を垂れ流しても遅い。今や自分に何かを呈する人間は居ないし、私は自力で見ている世界を、少なくとも自身に関する事物をどうにかして動かせる必要に駆られているのだ。
 もしかすると母親が私に見せたかったのは、この実際だったのか。
 その行動が愛情だとは思わないし、本音を言うと分からない。子供を持つ気持ちが無い自分に、彼女が何を思いながら行動を起こしていたのかは、生涯に理解が出来ないものだろう。私は生やすべき根を持たない存在となり、欠損した形骸として日々や場所を浮遊して行くつもりなのだ。
 思い返せば、私は母親が作った弁当の蓋を開けた事が無い。その中身は確かに詰まっていた筈だった。けれども、実際には詳しい内容がどう言ったものだったのか、当然に今となっては見る事も出来ない。
 その時に初めて自分は、記憶にある彼女から渾身に殴られた気がした。
 過去に父親に振るわれた暴力と比べ物にならない威力で意識が遠ざかる感覚と、自身が腐敗して果ても無く落下する実像だけが、鮮明に脳裡へ焼き付く。
 私は甘えていた。
 そして今も、誰かに助けを求めたい。
 しかし、それは母親と記憶の残滓に拒み続けられる。


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このストーリーに関するコメント

17/11/22 瀧上ルーシー

拝読させて頂きました。
やわらかい文体が好きな人は苦手かもしれませんが、僕はこの作品の硬質な文体が格好いいと思います。詩的な文体とはまた違いますが、話のラストが「わかりえない」といった感じで、ある種の余韻を生み出していると感じました。どちらの方がいいというわけではないですが、ラストがもう少し前向きだったらまた違った余韻を生み出していたと思います。

17/11/22 大和柚希

瀧上さん、感想をありがとうございます。
確かに私の文体は硬いですね。それは自分の狙ったスタイルだったり、手探りで書いている内にこうなってしまったり、色々な要素が混ざり合っているのでは、と自身では思っています。
しかし、このコメントの文章は硬質では無かったですねw

ラストが前向きだと、自分の場合はどうなるかを考えるのは楽しそうに思います。
今度はそう言ったものを書いてみましょうか!

17/11/23 文月めぐ

『フロートエイジ』拝読いたしました。
拒み続けた「弁当」が私と母親の関係をうまく表現していますね。
硬い文章は自分では書けないので、尊敬します。

17/11/23 大和柚希

文月さん、ありがとうございます!
硬い文章との見方が固まりつつありますねw
お察しの通り、「私」と「母親」の関係を弁当に準えて書きました。

Floatage 浮力、Float + Age 浮いた世代
として題名を掛けています。
主人公は色々な意味で浮いている女子ですからね。

また、どうぞ宜しくお願いします!

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