ちりぬるをさん

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egg

17/11/21 コンテスト(テーマ):第149回 時空モノガタリ文学賞 【 弁当 】 コメント:2件 ちりぬるを 閲覧数:125

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 きっと一生乗ることはないだろうと思っていた高級車は、きっと一生入ることはないだろうと思っていた高級料亭の前で停まった。黒いスーツ姿の男性に案内された先のお座敷で大園君は姿勢を正して座っていた。
「お久しぶりです」
 十年振りに再会した大園君には当時の面影はまるでなくて、私はまだ騙されているんじゃないかという疑念を拭ていなかった。ぎこちなく会釈をして促されるままに彼の正面に座ると「そんなに緊張しないで下さいよ」と言って笑った。

 高校時代の大園君のことを実はあまり覚えていない。良くも悪くも目立たない生徒で、友達もいなかったと思う。かといっていじめられたり、無視されてるようなこともなく、とにかく特筆すべきことのないクラスメイトだった。
 そんな大園君と高二の冬に隣の席になった。といってもどこか近寄り難い雰囲気の大園君としゃべることは全くなかった。
 大園君と隣の席になって半月が経った頃、いつも一緒に弁当を食べる友人が全員風邪で学校に来なかった日があった。仕方なく自分の席で寂しく弁当箱を開ける私の隣で、大園君は当然のように一人で黙々と弁当を食べていた。机に突っ伏すようにして、弁当箱の蓋で中身を隠している。なぜ隠しているだろう、と私は初めて大園君に興味を持った。なんとか盗み見ることができないものかと角度を変えてみたが少しの隙も見せない。
「ねえ、なんで隠してるの?」
 近寄り難さは好奇心に敗れ去り、気付けば私は彼の肩を叩いていた。驚いたように顔を上げた彼は少し考える素振りを見せた後、渋々と弁当の中身を見せてくれた。なんの飾り気のない弁当箱の中には食べかけのふりかけご飯が半分残っていた。
「おかずがないから」
 ぶっきらぼうに大園君が言って再び蓋で隠そうとする。私はちょっと待って、と大急ぎで弁当箱の包みを解くと卵焼きを二つ大園君の弁当箱の空いている所に入れた。怪訝な表情で私を見る。
「うちの卵焼きは隠し味でめんつゆが入ってるんだよ。美味しいから食べてみて」
 大園君はゆっくりと卵焼きを口に運び、まだ咀嚼の終わっていないうちにご飯を放り込んだ。
「うん、美味いよ」
 あまり感情のこもっていない口調でそう言うと、やはりまた弁当箱を蓋で隠し前のめりになって食べ始めた。それが大園君との高校時代の思い出の全部だ。翌日友人達も学校へ復帰し、大園君のことを気にする機会もないまま学年が上がり、彼とは別のクラスになった。

 私が緊張している間にテーブルの上は色彩豊かな料理で埋め尽くされた。どうぞ、と私に言いながら大園君もシャツの袖を軽く捲り箸を持ち上げる。
「ここのだし巻き玉子の味が昔食べた土生さんの卵焼きに似てたんです。だから土生さんにも食べてもらいたくて」
 大園君は若くして成功した起業家として最近テレビにも出ている。家が貧しくて、高校卒業後バイトしながらコツコツ貯めた貯金でパソコンを買い、独学でアプリ開発を学び会社を立ち上げるまでに至った逸話は有名だ。
「だからってちょっと強引すぎるんじゃない?」
「思いついたらすぐ行動するのがモットーなので」
 昼食を食べてると、突然知らない番号から電話かかかって来た。一度は無視したのだがすぐにまたかかってきたので恐る恐る出てみると大園君だった。今夜の予定を聞かれ、特に用事はないと答えると、では迎えに行きますので一緒に食事をしましょうと言って電話を切られた。夕方家の前に高級車が停まり、現在に至る。
 私は彼の勧めるだし巻き玉子に箸を伸ばした。きめの細かい玉子の上に醤油のかかった大根おろしが乗っている。口に入れるとふんわりとした甘さの後に出汁の味が広がる。しかし、
「嘘だよね? うちの卵焼きなんかと全然違うじゃない」
 大園君が気まずそうに箸を置く。
「うちの実家貧乏だったんですよ。だから母がずっと働いてて。そんな母に弁当作ってとか言えなくて、毎日ふりかけご飯持って行ってたんですよ」
 知ってる。私はうん、と頷いた。
「だから土生さんに卵焼きもらった時、めちゃくちゃ嬉しかったんです。美味かったし」
「本当に? そんな感じには見えなかったけど」
「恥ずかしかったんです。先週高校の同窓会に初めて行って、その時に土生さんの連絡先知ってる人がいて。なにか恩返しができたらなって思ったんです」
「それならそうと最初から言ってくれればよかったのに」
「だから、恥ずかしかったんですって」
 よく見ると大園君の耳が真っ赤になっていた。

 家に帰ると灯りがついていて、先に帰っていた旦那が「おかえり」と迎えてくれた。
「今日ね、すっごい御馳走食べたんだよ。これおみやげ」
 だし巻き玉子を旦那の口に突っ込む。
「うーん。うちの卵焼きに似てない?」
 もぐもぐ言う旦那の味覚は大丈夫だろうか? 呆れながら笑ってしまった。


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このストーリーに関するコメント

17/11/22 有屋春

ほんわかしてて楽しく読めました!ただ賞に入れたい作品か?と考えると物足りない感を感じました。
あと、「弁当箱の蓋で中身を隠している。なぜ隠しているだろう、と私は初めて大園君に興味を」の隠しているだろうは打ち間違いかな?

17/11/23 ちりぬるを

有屋春さん>完全にミスですね、ご指摘ありがとうございますm(_ _)m

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