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秋 ひのこさん

歯について考える時、右と左がよくわからなくなります。右奥だっけ、左奥だっけ。虫歯が絶対にあると思われるあの場所を伝えるべく「ええと、右です。そして上な気がします」と言ったら先生が「うん、上は上でも左ですよね」とか言う瞬間が恥ずかしいので、虫歯は放置しているような人間です。こんにちは。 

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ありふれたホラ女の言い分

17/11/21 コンテスト(テーマ):第148回 時空モノガタリ文学賞 【 ホラー 】 コメント:0件 秋 ひのこ 閲覧数:275

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「お約束だけど、観た後思わず自分の腕くっついてるか確かめちゃったよー」
「やるよねー」
 「鑑賞会」の後、場所を移動したカフェでヒカリをはじめとする5人の女性が盛り上がっている。全員、20代後半。ネットを通じて知り合ったホラー愛好家、改め「ホラ女(じょ)」たち。
「あー、でも本当にこのメンバーと出会えてよかった」
 ヒカリが桃のカクテルを手にしみじみ言った。
「ホラ活様さまだよー。B級ホラーの人体破壊を語れる場所って他にない」
 うんうん、と他の4人がうなずいた。
 ホラー活動、略して「ホラ活」。今日は30人ほどが集まり、恐怖映画の鑑賞会と交流会。解散後、仲の良いグループで二次会、という流れだ。
「仕事で血は見慣れてるけど、それだけでも結構ドン引きされるし」
 看護師のマイが苦笑すると、婚活中でもある教師のサエが苦々しく爪楊枝でチーズをかじる。
「かといってわざとお化け屋敷怖がったら、あざとい、とか言われちゃって」
 誰かが発言すると、誰もが「わかるー」と眉を八の字に下げる。どこにでもいる普通の女たち。ただ、拷問や惨殺や化け物や絶望を、人より少し好むだけ。

 ヒカリにはユウという彼氏がいる。半同棲状態で、ホラ活のことは話してあるが、ユウが部屋にいると落ち着いてネットも見れない。
「うえ、何その映画。タイトルからして俺、無理」
 ブログに今日のレポを書いていると、風呂あがりのユウが隣から覗き込んできた。
 ヒカリは肩越しに睨み、無言で下書き保存して画面を閉じる。この部屋で一緒にいると、こういう厭味が多い。せっかく余韻に浸りながら気分よく過ごしているのに、いちいち水を差す。
 ひとの部屋でパンツ一丁でごろりと横になり、スマホを見始めた彼氏を見て、ヒカリは「私、ユウのゲームに対して何も言わないよね」とぽつりとこぼした。
「ひとの好きなものを平気で否定するって、どうなの。思っても言わなくていいことってあるじゃん」
 ユウはゲームから目を離さず、あっけらかんと答えた。
「いや、否定じゃなく俺個人の意見だし。否定っていうのは、人間がバラバラになるようなもんを観て喜ぶって頭おかしいでしょ、ヒトとして間違ってるでしょっていう。これが否定」
 言われなくともわかっている。一般的にみてヒカリの嗜好は「特殊」だ。ヒカリたちホラー愛好家の反論は、「ホラーはあくまでフィクション。それを100%理解した上で娯楽として享受している」。
 でもどれだけ空想の産物だと叫んだところで、残虐なものを好む、ということに対して、どうしても肩身が狭い。だから友だちには大っぴらに話せないし、ましてや作品を語るなんてありえない。「ホラ活」「ホラ友」は渡りに船なのだ。
「ホラ女の私が無理だったら、別れてもいいよ」
 投げやりに、極論を放る。わりと、本気だった。
「ホラ女とか言うなよ。なんでもかんでもナントカ女だの女子だの、日本人はほんとまとめたがるよな」
「だって居場所ができたんだもん!」
 ヒカリが突然立ち上がり、ぎょっとしたユウはようやくスマホから目を離す。
「好きなものを好きって堂々と言える仲間ができて、ホラ活とかホラ女とかカテゴライズされたら、なんか安心するんだもん。好きでいていいんだって思える」
 ヒカリは苦しそうに震える声を絞り出す。
「でもホラーがすべてじゃないから、仕事もするし、彼氏もいるし、普通の友だちもいる。ホラーが生活のすべてじゃなくていいの」
 拳をぎゅっと握り締め、マイやサエのことを思う。私たちはなにも、四六時中残虐なことを夢見てるわけじゃない。日常でちょっと好奇心を満たしてストレス発散できれば、それでいいのだ。
「趣味を理解してくれとは言わない。でも、いちいち否定されたり皮肉とか厭味を聞かされると後ろめたく思ってしまう。それは辛いから――」
「ストップ」
 ユウが右の掌をずいと押し出す。
「わかった。これからはもっと尊重する。というか触れない。ノータッチだ、いいな」
 ヒカリは拍子抜けし、ゆっくりとうなずく。
「ついでにこれを機に言うが……、俺は、ホラーが駄目なんだ」
「へ?」
「めっちゃ嫌いなんだ。怖いから」
「……そうだったの?」
 ヒカリはまじまじとユウを見返す。単に興味がないだけだと思っていた。「ホント無理」を繰り返す身長180で元柔道部の彼氏に、ヒカリは思わず笑ってしまう。

 ヒカリの「自宅ホラ活」中は、互いに干渉しない、ということでふたりは合意した。他の部分で楽しくやっていけたら、まずはそれでいい。
 いそいそとパソコンに向き直るヒカリに、ユウが声をかけた。
「何観てもいいけど今後は音、出ないよう頼むな。お前、ちょくちょくスピーカーをオンにするだろ」
 音も怖かったのか……、クスクス笑いながらヒカリは「了解」とヘッドフォンをつけた。


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