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文月めぐさん

第144回時空モノガタリ文学賞【事件】にて、入賞をいただきました!拙い文章ではありますがよろしくお願いします。コメントもできるだけ書いていこうと思います。Twitter→@FuDuKi_MeGu

性別 女性
将来の夢 作家
座右の銘 失敗したところでやめてしまうから失敗になる。成功するところまで続ければ、それは成功になる。

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こがねいろ――弁当が示す一筋の光

17/11/21 コンテスト(テーマ):第149回 時空モノガタリ文学賞 【 弁当 】 コメント:2件 文月めぐ 閲覧数:599

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 営業先の企業から一歩外に出ると、俺はたまっていた息をはああ、と盛大に吐き出した。アスファルトからの熱気と、蝉の声が身体にまとわりつく。白いカッターシャツに太陽の光が反射して、まぶしい。外の暑さを感じた瞬間、肩に提げた鞄がぐっと重くなった。

 片岡、と名乗った、先ほどの青年の顔を思い出す。どことなくぱっとしない、地味な顔つきと、感情表現に乏しい表情。俺の電卓にはじき出された「11000」という数字を見て、「一万円以下ならいいんですけどね」と言った無関心そうな声。「入社一年目で、一人暮らしなんで、保険にあんまりお金かけたくないんで」と言いながら、コンビニ弁当をゆっくりと咀嚼している。
 同じ入社一年目で、同じ一人暮らしだから、その気持ちは俺にも分かる。だから「高いコンビニ弁当食ってないで、少しでも自炊すれば、金はいくらでもためれるんだよ!」という暴言をぐっとこらえて、「そうですか」と今日も引き下がってしまった。

 自転車のペダルを踏みこむと、かごに乗っている鞄とノートパソコンが重すぎるせいで一瞬ふらつく。不安定な自転車に乗っていると、俺の心の中も不安でいっぱいになる。ああ、今日も課長に怒られるんだろうな――。

 「小林くん、あなた一体、お昼の一時間何をしていたの?」
 案の定、昼の活動報告を終えると、大塚課長はスカートから出たその足を、小刻みにゆすり始めた。入社して数か月の俺にももうわかる。課長の怒りが沸点に達した証拠だ。十二時から一時の一般企業の昼休憩に自分の担当企業に赴き、生命保険の契約をもらってくるのが俺の仕事だ。しかし、俺はいつもノルマを達成できずにいた。
 「片岡様には、若いうちにしっかりとした保険に入ってもらうよう、説明するんじゃなかったの? 一万円程度ならいいって言われていたのに、今日のプランがだめってどういうこと?」
 課長のお小言に「はい」とうなずき続けること三十分。席に戻ったときにはすでに十四時を過ぎていた。
 「小林、十五時からミーティングだからな」
 隣の席に座る上司、栗原さんにぽんぽんと励ますように肩を叩かれ、またまた「はい」とうなずくしかない俺。パソコンと手帳を広げ、今日の活動内容と明日以降の予定を埋めていく。その合間に弁当箱を開け、腹を満たすことも忘れてはならない。
 「今日の小林の弁当は筑前煮かあ」
 栗原さんがキーボードをたたきながら、ちらりとこちらに目をやったのが分かった。
 「日持ちするんで大量に作っとくんですよ」
 一言だけ残して、弁当を平らげてしまおうとすると、栗原さんが笑みを浮かべながら、「縁起がいいなあ」と言った。
「どういうことですか?」
 俺はふと手を止めて、首を傾げた。すると栗原さんはちょうど俺の箸がつまんでいた、レンコンを指さした。
 「レンコンは穴が空いてるだろ。つまり、未来が見通せるようにって意味があるんだ」
 先見性があるってことだ、と話をまとめると、栗原さんはまたキーボードをたたき始めた。
 俺は摘み上げたレンコンを見つめる。片目をつむり、穴の中を覗き込むと、向こう側にちょうど弁当に入れた卵焼きが見えて、黄金色に輝いていた。


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このストーリーに関するコメント

17/12/13 志水孝敏

地道な生活を送る青年と、保険、地味だけれども栄養のあるお弁当が合わさって、
希望の感じられる作品になっていてよかったです。

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