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竹田にぶさん

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大統領の食事

17/11/20 コンテスト(テーマ):第147回 時空モノガタリ文学賞 【 迷い 】 コメント:0件 竹田にぶ 閲覧数:159

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 大統領が常日頃から周囲に言っていることがある。
「忙しいときほど、食事と睡眠をおろそかにしてはならない」
 大統領の家に代々伝わる家訓である。体調管理の秘訣でもあり、空腹や睡眠不足だと作業効率が悪くなるという戒めでもある。大統領はその家訓を大事に守ってきた。実際、大統領が使っている寝具は、一流の職人によるオーダーメイドである。そして大統領は睡眠以上に、食事にこだわりを持っている。大統領は食欲が旺盛ながらも、胃が小さい。量が食べれないからこそ、質が大事。毎日、一流料理人の料理を口にできなくても、食事の内容については綿密に計画を立てる。それが苦にならないどころか、大統領にとって至福の時間である。
 大統領就任後、今まで以上に睡眠と食事を意識するようになった。大統領の判断が国家の明暗を分ける。万全の体調維持も重要な責務だと大統領は考える。しかし、そんな大統領個人の信念を打ち砕く不測の事態が、大統領の超大国では度々起きる。自然災害しかり、他国への軍事介入しかり。そのたびに、大統領は睡眠時間が削られ、ファーストフードで空腹を満たすが、そんな日があるからこそ、平時は大いに眠り、大いに食べてきた。

 今回、超大国に持ち上がった事態は、歴史の転換点になりうる事態だ。遥か遠方にある、最友好国を自称していた島国が、超大国に向けて長距離核弾頭ミサイルを準備しているという。寝耳に水の出来事だった。そもそも、島国に核兵器は存在しないというのが超大国の認識だった。しかし、衛星写真や偵察機による観測から、長距離核弾頭ミサイルが発射準備中であるのは、間違いがないという。さらに、発射装置の位置や向き等を総合すると、超大国が目標になっている可能性が濃厚だという。
 一体、どんな理由で、友好国が核ミサイルを向けるというのだ?本気か、脅しか、間違いか?
 洪水のように情報が対策本部に押し寄せ、憶測が憶測を呼んで、本部は完全に混乱していた。情報精度の低さが混乱に拍車をかけた。その情報の質の低下は、超大国自身が招いた側面もある。友好国である島国が超大国に敵対することはないだろうと、諜報活動を縮小し、予算を他に回し続けたのだ。
 本来であれば、大統領が島国の長に直接確認すれば事足りる。こういう時のために、ホットラインがある。しかし、こういう時に限って、ホットラインは繋がらない。
 核ミサイルの発射準備、繋がらないホットライン。島国に何かが起きていることは間違いない。
 事態が発覚して三日。超大国は混乱しながらも、考えつく限りの対策を行ってきた。関係者はその対策をマスコミに知られないように秘密裡に、それでいて迅速に行動に移す必要があった。誰もが神経をすり減らし、疲弊していた。大統領も例外ではなかった。眠りに就いてもすぐに起こされ、日に三度配られるファーストフードは食欲を著しく減退させた。限界が近い、そう感じていたのは大統領だけではなかった。

 その日の夜、重要な情報が本部にもたらされた。ミサイルへの燃料注入を偵察していた部隊からの報告で、ミサイル発射は明日午前十時頃が見込まれるという。今から約十二時間後だ。
 大統領はその報を受け、思い切った決断をした。明朝午前七時、発射予定の三時間前まで、各員に交代で休息を取るよう通達を出した。大統領の決断に、関係者は誰も反対をしなかった。それどころか、あちこちから拍手喝采が巻き起こった。すでに可能な手はすべて打った。あとは、明日の大統領の最終判断を待つだけだった。
 大統領は専用の休憩室に入り、シャワーを浴びて、ベッドに横になった。意識しなくても明日のことが頭をよぎった。
 ミサイルの発射後に迎撃すべきか、あるいは島国に先制攻撃をしかけるべきか。いずれにしても、明日は大事な日だ。新たな歴史が動き出すことだろう。

 翌朝六時、大統領の休憩室のドアがノックされた。大統領の首席秘書がワゴンを横に立っていた。いよいよきたかと大統領は思った。秘書は大統領の顔を見るや、体調を気遣った。
「昨晩は、十分お休みになれませんでしたか?」
「いろいろ迷うところあってな」
 大統領の眼は真っ赤に充血していた。眠るに眠れなかったのだろう、それも当然だと秘書は思った。大統領は歴史的な決断を下すのだ。
「君はもう下がって結構」
と大統領は言って、自分でワゴンを部屋に入れた。そして、軽い笑みを浮かべた。

 五時までずっと考えたのだよ。人生、いや人類最後かもしれない朝食の内容を。では、いただくとするか。

(了)


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