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入江弥彦さん

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スクールカースト

17/11/20 コンテスト(テーマ):第147回 時空モノガタリ文学賞 【 迷い 】 コメント:0件 入江弥彦 閲覧数:822

時空モノガタリからの選評

「僕ら下位の人間が自分の立ち位置に納得するために作ったものなのかもしれない」という一文が印象に残りました。こうした動物的、本能的な序列は昔から学校内にありましたね。しかし大人になってから振り返ると、このような序列意識というものは、一種の幻想のようなものだったのではないかという気もしています。というのは、個人的に学校を卒業後、いわゆる「上位」の人と自然に仲良くなった経験があり、そうした体験から感じることは、「上位」の子供であっても、当然人間的な弱点も苦しみも持ち合わせていて、「下位」の人間が永遠に人生の中でそうしたポジションにいるわけでは決してないのではないかということです。しかしだからといって、現実に今、苦しみの渦中にある子供を無視するというのはやはり大人の驕りなのかもしれません。主人公の「僕」が、いじめによって苦しみながらも、そこで終わることなく、安藤との関わりを通し「スクールカースト」というものをとらえなおし、客観的に見つめ直していく姿勢に魅力を感じました。

時空モノガタリK

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 ここで飛び出して行けば、標的は間違いなく僕に変わるだろう。
 かといって、この光景を無視してどこかに逃げてしまえば、罪悪感で眠れなくなる。
 怖い。怖すぎる。できるわけがない。
 スクールカーストという言葉はもしかすると、僕ら下位の人間が自分の立ち位置に納得するために作ったものなのかもしれない。



 僕の朝は、清掃から始まる。
 靴の中のゴミを分別して捨て、机の落書きを雑巾で消す。公共物だという認識があるのかないのか、ありがたいことに油性マジックでは書かれていない。
 机を拭いている時に飛んでくるティッシュをゴミ箱に捨てるのも僕の役目だった。もしかするとみんなは、人間の姿がゴミ箱に見える呪いにかかってしまっているのかもしれない。
 それはひどく、可哀想なことに思えた。
 可哀想といえば、体育の時間の僕はゴミ箱の呪いを受けたみんなよりも可哀想だ。ゴミや汚れは掃除をすればいいが、物そのものがなくなってしまうとどうしようもない。先生はうっすらと何かに気が付きつつあるのか、制服で受けさせてくれることもあった。
「飯田、ジャージいつもないよな」
 そんな僕を見かねてジャージを貸してくれるもの好きな男がいる。
「安藤くん……」
「くん付けとかいいって、ジャージ、予備のあるから貸すよ」
「ん、あ、りがとう。安藤」
 安藤翔太だ。
 勉強がそこそこできて、サッカー部の次期部長と噂されるほど運動も得意だ。爽やか系のルックスなのに気取らないところが同性からも嫌われない原因だろう。僕とは正反対。まさにスクールカースト上位と言った感じだ。きっと本人はこの言葉も知らない。
 こうして普通に話しかけてくるところを見ると、僕がみんなから受けている仕打ちにも気が付いていないのだろう。
 安藤のジャージを着た僕はまるでさらし者になったような気分だった。上位の皮を被っても中身は最下層。家に帰って念入りに洗濯した安藤のジャージの出番が、その後あったのかは知らない。
 僕に興味のない彼のことだから、捨てるということはまずないだろう。人気者の安藤がしたことに口を挟むクラスメイトもいないはずだ。みんなが彼のすることを肯定しているようにも思える。
「調子乗ってるよな」
 だから、教室の隅で話されていたそのやり取りがまさか安藤のことだとは思わなかったのだ。



 日課である放課後のゴミ掃除を終えて、裏門から帰ろうとしている時だった。
 ドラマなんかで聞いたことのある鈍い音が耳に入る。まるで人を殴ったような、そんな音だ。
 でもまさか、学校でそんな暴力事件が起こるわけがない。そうだ、肩パンではなかろうか。僕のような底辺には関係のない話だが、男子高校生は肩パンで友情を確かめるという。きっとそうに決まっている。
 そう決めつけて茂みの中からそっと覗いてみると、僕の予想は悪いほうに外れた。
「何で一年のお前がレギュラーなんだよ」
「お前のせいで俺らまで目ぇ付けられんだろ」
 立っている二人の男が加害者だろう。足元にうずくまっている男に一方的に言葉を投げつけている。
 嫌な場面に出くわした。僕には人望だけでなく運までないというのか。
「ってえ……」
 去ろうとした僕の耳に聞きなれた声が届く。
「お前らなんなんだよ」
 間違いない。腹をおさえて顔をあげたのは安藤だった。
 スクールカースト上位で、勉強もスポーツもできる人気者の安藤。何かの間違いだと瞬きを繰り返しても、彼の顔の造形が変わることはなかった。
「もうちょっと大人しくできねえのかよ」
「調子に乗りやがって」
 どちらかが首謀者というわけではないようだ。
 冷静に状況を判断してはいるが、今すぐにでも逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。面倒ごとにはかかわりたくない。できることなら見なかったことにしたい。
「それは、同じじゃないか」
 ぽつり、そんな音が似合う呟きが漏れた。
 慌てて口元をおさえて彼らのほうを見る。それから、大きく息を吸う。
「せ、先生こっちですっ!」
 お腹から出したつもりなのに、最後のほうは声がかすれた。
 僕の声に驚いた二人は顔を見合わせると、あたりを確認することなく大きな舌打ちをして校舎のほうに帰っていく。
「だ、大丈夫……?」
 不思議そうにしている安藤に近付いて声をかけると、彼はパッと顔をほころばせた。
「飯田が呼んでくれたのか……先生は?」
「あれは嘘だよ、だから早く帰ろう」
「ベタだなあ」
 でも、と安藤は続ける。
「助けられたな、ありがとう」
 ありがとう、その言葉が胸の中でほくほくと大きくなる。
「飯田ってあんな大きい声出るんだな、初めて知ったよ」
「あれは……スクールカースト下位なりの頑張りってやつだよ」
 僕がそういうと安藤は、なんだそれと言って笑った。


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