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戸松有葉さん

ショートショート:小説投稿サイト「小説家になろう」で1001作以上、本サイト「時空モノガタリ」で入賞複数。 他、長編ライトノベルやエッセイなども。コメディ率高し。 Amazon Kindle(電子書籍)http://amzn.to/1Xau7kMで活動中。(←URLは、Kindleストアを著者名「戸松有葉」で検索した結果。)代表作は『ショートショート集厳選集』とラノベの『二次元最高美少女』。 ツイッターは@tomatuariha

性別
将来の夢 積極的安楽死法案を通すこと
座右の銘 常識を疑え

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男を落とすには胃袋を掴め

17/11/20 コンテスト(テーマ):第149回 時空モノガタリ文学賞 【 弁当 】 コメント:0件 戸松有葉 閲覧数:60

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「母上」
 高校生の娘は言った。
「……何? 生まれてこのかたそんな呼ばれ方したことも、そんな真剣な眼差しも初めてなんだけど、あんた自殺でもすんの?」
「決死の覚悟という意味では合ってる」
「なるほど、全然わからない。で、用は何?」
 娘は現在難題を抱えていた。その突破口が母にあると踏んだのだった。

 違和感を抱いたのは小学校の終わり頃。母は、どう見ても父とは釣り合わない。
 父は容姿や振る舞いがイケメン、学歴も収入もいい、性格的にも娘が知る限り温厚で気の利く人間だ。しかし母はすべてが正反対なのである。家柄も双方平凡。政略結婚どころか見合いですらない。
 どうやってこのカップルは誕生し、結婚まで至り、今も平穏に生活を続けていられるのか――。
 答えは中学の時に得られた。偶々お邪魔した友人宅で夕飯をご馳走になった際、気付く。
 うちは、ご飯が美味しい!
 母は料理が得意だったのだ。ずっと母の料理を食べていたから気付かなかったが、外食などの機会も増えるに連れ、確信に変わる。母の料理は特別に美味しい。
 そして聞いたことがある。男が最終的に行き着くのは、飯の美味い女のところだという話を。たとえ浮気したとしても、胃袋を掴んでさえいれば、必ず戻ってくると。
 母は、この料理という最強の武器によって、父を手中にしたのだ――。

 時は経ち、娘にもモノにしたい男が出来た。しかし娘のスペックは母の遺伝を余すところなく受け継いでおり、到底勝算のある恋ではない。
 だからこの結論に達したのだった。
「私も料理したいから教えて」
 母に伝えたのはその一言だけで、事情までは話していない。
「いいけど、あんた、中学上がった頃から手伝わなくなったじゃない」
「手伝いじゃなく、私がメインで作れるようになりたい。それに小学生の時って、揚げ物作らせてもらえなかったし」
「ふうん」
 母は娘の意図を知ってか知らずか、関心なさそうに応じていたが、教えること自体には了承していた。娘としてはそれで充分である。
 かくして、娘の、男の胃袋掴む修行が始まった――。



 意中の相手は、クラスメイトの男子だ。
 幸いなことに、昼ご飯は購買での惣菜パンをひとりで食べている。彼のクラス内友人らは別の場所で食べているらしい。
 とはいえ、娘と男子との関係は、「クラスメイトで知らない仲ではないから話す機会あれば話す」程度の距離でしかない。いきなり「お弁当作ってきたから食べて」などと言い出したら、ヤバイ奴認定される。
 焦ってはいけない。「食べ盛りの男子がそれで足りるのか」「ちょっと弁当作り過ぎたから食べてくれないか(さりげなく自分で作ったことを伝える)」を実行して、一品でいいから食べてもらうのだ。味には自信がある。
 食べてもらうことに成功すると、反応は鈍かったものの、嫌がる素振りも見せなかった。彼は元々大げさに褒めたりはしてこないクールな人間だから、これで問題ない。
 急がず、ゆっくりと、機会が増えていくよう図り、いつしか彼用にと余分に用意することが両者の暗黙の了解となっていった。計画通りである。
 未だ好意は伝えていないが、そんなことはよほどひっ迫した事情でも生じない限りする気はなかった。これでいいのだ。彼の胃袋は既に掴んだ、彼はもはや本能に近く娘を求めるようになっているはずである。わざわざフラれる危険など冒してはならない。
 しかし順調と思われたある日のこと、男子は不意に弁当を持参してきた。
 娘は意味がわからない。まさか知らないところで失敗していて、離れられるのでは――。
 そう不安を覚えていると、彼はなんということもなく言った。
「いつもお前にばっか作らせるの悪いから。普段は面倒で作らないんだけど」
「え、自分で作ったの」
「おう。ちょっと交換して食おうぜ」
 彼の優しさ、自分を気遣ってくれていること……恋する身ならそこに目が行きがちだが、事はそう単純ではない。
 娘は、恐る恐る男子のおかずを口に運んだ。
 箸を落とさなかったのが、せめてもの救い。あまりの衝撃に、パニックに陥りそうだった。
 美味い! 自分より美味い! 母より美味い! 胃袋を掴もうと頑張ってきたのに、自分のほうがたったの一度で掴まれてしまった。既に心臓を掴まれているというのに!
 圧倒的な実力差の前に、娘はそれから弁当を作る気力も失い、購買派になってしまった。
 時々彼が弁当を分けてくれることが何を意味するか、考えることもできずに。

(了)


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