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戸松有葉さん

ショートショート:小説投稿サイト「小説家になろう」で1001作以上、本サイト「時空モノガタリ」で入賞複数。 他、長編ライトノベルやエッセイなども。コメディ率高し。 Amazon Kindle(電子書籍)http://amzn.to/1Xau7kMで活動中。(←URLは、Kindleストアを著者名「戸松有葉」で検索した結果。)代表作は『ショートショート集厳選集』とラノベの『二次元最高美少女』。 ツイッターは@tomatuariha

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将来の夢 積極的安楽死法案を通すこと
座右の銘 常識を疑え

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おやつ代に上限はあるがお弁当代に上限はない

17/11/20 コンテスト(テーマ):第149回 時空モノガタリ文学賞 【 弁当 】 コメント:0件 戸松有葉 閲覧数:67

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 その小学四年生女児は、遠足が嫌だった。
 遠足が遠足たるゆえん、ちょっと遠出をすることは嫌ではない。また、教室の授業より運動が好き派でもあった。しかし遠足とは、それだけの行事ではない。
 目的地に着いた後、遠足という悪魔は、本領を発揮する――。

 引率教師のひとり、女児の担任は、声を張り上げる。
「それじゃ、今から自由行動にします。くれぐれも、公園の外には出ない、体調が悪くなったらすぐ先生に言う、わかりましたね」
 教師という職業は、仕事量と責任が過剰にあるだけで、少しもいいことなどない。遠足行事もそのひとつだ。何故勉学を教える教師なのに、遠足で大勢の児童を引率し、全児童の全責任を負わねばならないのか、合理的な理由が示されたことはない。
 それでもモチベーションを保ち、時に厳しく時に優しく子供らに接していないと、後で何を言われるかわからない。直接の上司はもちろん、先輩教師、保護者、マスコミ、教育委員会なる謎の組織、PTAなる謎の組織、更には近隣住人やインターネットユーザーという匿名の圧力まである。
 そうしたことなど、この時代では女児含め子供たちも情報得て承知しているため、哀れみの目を向けつつ、大人しく従っていた。
 さて、担任教師は「教師らしく」を演じてくれた。今度は児童が「子供らしく」振る舞う番だ。
 自由行動といっても、できることは限られている。公園は、遠出した甲斐もあり広いが、基本遊べるものはない。遊戯類は危険性から撤去されている。時間も、子供が夢中で遊べるほどにありはしない。
 必然、メインイベントである、「おやつやお弁当」となる。
 女児は、これが嫌だった。遠足で歩いている時からずっと、不安を抱えていた。悪い予感しかしない……。
 遠足のおやつには、二十世紀の昔から慣習・ルールがある。物価が上昇しても上限額が少ないのも変わらない点だ。「バナナはおやつに含まれますか?」も後五百年は使えそうなネタである。
 ただし別の事情から、おやつ事情は劇的に変化していた。今やおやつの上限額ルールなど形骸化著しい。
 それは、お弁当事情の変化に依るものだった。
 弁当を家から持って行き、炎天下の道を歩き、昼まで保たせるのは、案外難しい。百%など保障できない。つまりは食中毒の危険である。
 もし食中毒が起きた場合、責任は誰にあるのか。弁当を持たせた保護者か? 保護者は非を認めないし自身の子が被害に遭っているから感情的にもなる。そうなると、遠足は学校の行事だからと、学校や引率教師の責任になる――。
 この最悪のシナリオを避けるには、食中毒の可能性がある弁当を止める他なかった。
 子供たちは嬉しそうに、あるいは怯えながら、あるいは諦観しながら、持参した弁当箱を開ける。
 入っていたのは、現金だった。それで公園内にある店で昼ご飯を買うのだ。
 おやつ代には伝統があったため上限額ルールもあった。だが新しいお弁当方式にはルールがなく、上限額は存在しない。そうなると、多めにお金が入っていれば、それでおやつも余分に買えてしまうというわけだった。
 大抵の子は、弁当箱に千円札一枚である。昼食代としては高いのだが、ここは見栄の張りどころだ。
 しかし格差の大きい現代において、見栄を張りたくても無理な家もある。逆に、一万円札が何枚も入っている子もいた。そうした家の場合、見栄ではなく金銭感覚が違う。
 こうなってくると、遠足おやつお弁当のお約束だった「交換」が成り立たない。圧倒的格差の前では、施しか献上かといったものになってしまうからだ。
 果たして女児は幾ら入っていたのか。来る途中では、弁当箱から音はまるで聞こえず、お札を予想させていたのだが……。ハンカチに包まれた弁当箱を開けると、そこにはハンカチが入っていた。ハンカチにお金が包まれていたなら、音もしないだろう。慎重にハンカチの中身を確かめると……、五百円玉が一枚入っていた。
 ギリリッ! 歯ぎしりした音が外に漏れそうなほどだった。水蒸気が可視であれば、少女から立ち上っていることが周囲にもわかっただろう。
 これだから! こういうことがあるから! 遠足は嫌いなのだ!

 家に帰ると、女児は親に抗議した。あの弁当はなんだ、とヒステリックに。
「お弁当に五百円も使うようだから、家は何時までも貧乏なの!」
 千円札だったら親子の縁を切らんばかりの怒りだった。

(了)


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