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蒼樹里緒さん

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性別 女性
将来の夢
座右の銘 備えあれば患いなし

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お弁当と一緒に、あたためますか?

17/11/20 コンテスト(テーマ):第149回 時空モノガタリ文学賞 【 弁当 】 コメント:0件 蒼樹里緒 閲覧数:103

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 トマトソースがたっぷりかかったハンバーグに、直火焼チキン。隅っこに添えられたコールスローサラダと、大盛りのごはん。ふたを開ければ、いい匂いが周りの芝生のそれとまざり合って、ますます食欲が湧く。
「やっぱり、お弁当を買うなら安売りスーパーに限るよねー」
 レジャーシートに座ってマイ箸を握ると、わたしは満面の笑みになった。
 同じ高校に通う男子が、隣であきれたように言う。
「おまえ、いつもそんなに肉ばっか食ってんのかよ」
「ちゃんとサラダも買ったし、魚も食べてるよ。そっちだって、のり弁じゃん」
「海苔を馬鹿にすんな。たんぱく質、食物繊維、ビタミン、カルシウム、EPA、タウリン、ベーターカロテン、アミノ酸とかが含まれて栄養満点――」
「いただきまーす」
「聴けよ」
 アスレチックの多い地元の自然公園には、今日も家族連れがたくさん来ていてにぎやかだ。わたしたちの近くで、ご両親と小さい男の子が、同じようにレジャーシートに座ってランチをしている。その子が、お弁当箱のふたを開けてはしゃいだ。
「やったぁ、オリジンレッドだ!」
 わたしもついにんまりしてしまう。自分がスーツアクターとして出演している、子ども向け特撮番組。そのキャラが、男の子のお弁当のごはんに描かれているんだろう。
「にやけながら食うな、気色悪い」
「だって、うれしいんだもん。わたしも、小さいころはお母さんに作ってもらったなぁ、ハイパー戦隊シリーズのキャラ弁」
「作る親も器用だよな。手間がかかるだろうに」
「うん。わたしがへこんだときも、『これを食べて、強くてかっこいいレッドに変身してね』って言ってくれたよ」
 かじったトマトハンバーグのおいしさが、口の中いっぱいに広がっていく。
「撮影で食べる中華系のロケ弁もおいしいよ。ごはんと四種類のおかずが入ってるんだけどね、おかずが週替わりで、すごく凝ってるの」
「へぇ」
「この前は、エビチリと、カシューナッツと鳥肉の炒め物と、キクラゲとタマゴに麻婆ナスだったよ。ふわふわのタマゴの中に、コリコリしたキクラゲがまざってて食感もバツグン! 麻婆ナスもナスが大きいし、エビチリのエビもぷりっとしてて――」
「食レポかよ」
 苦笑いして、彼は白身魚のフライをかじる。
「俺もイベントとかバラエティ収録でなら食ってるな、業者の弁当」
「あー、声優さんは顔出しの仕事も増えてるんだっけ」
「まあな。ぶっちゃけ、イベントの弁当は毎回しょぼい上に冷めてることが多いから、俺は嫌いだ」
「えっ」
「どうせ予算の都合だろ」
 声優さんは個人で歌手活動もするような歌の上手い人もいて、アイドルみたいに華やかなイメージがあるから、なんか意外だ。
「やっぱり、家族とか身近な人に作ってもらうお弁当が一番かもね」
「何だよ、急に」
「お弁当屋さんのも、もちろんおいしいけど。大切な人のために作られたお弁当は、冷めてもおいしいって思えるから」
「……ま、それは言えるな」
 ほかほかあたたかいのは、お弁当の中身だけじゃない。
 キャラ弁をぱくぱく食べる男の子の笑顔をちらっと見て、わたしもまた笑った。
「また食べたくなってきたなぁ、キャラ弁」
「そういうおまえは、自力で弁当作ったことあるのかよ」
「うっ。これからできるようになるよっ」
 からかってくる彼に、ついむきになって答えてしまう。
 スーツアクターになってヒーローを演じるための努力ばかりしてきたし、料理は家庭科の授業でしかまともにやったことがない。家のキッチンに立って最初から最後までちゃんと取り組んでみたい――っていう小さい野望だけは持っている。
「……いつかは、きみのお弁当も作ってみたいし」
「ん?」
「なんでもないっ」
 ぽそっとこぼした希望は、本人には聞かれなくて済んだ。セーフ。
 それなのに、無性に照れくさくなってきて、話を振った。
「そうだ。一般の人でも買える、有名なロケ弁がいくつかあるんだよ。さっき言ったお弁当もそうなんだけど」
「マジか」
「特に、芸能人にも大好評の『のり二段幕の内弁当』は絶品なんだって」
「よし、今度買いに行くか」
 真顔で即答する彼が、らしくて笑う。そんなにのりが好きだったなんて、ついこのあいだまでは知らなかった。
「うん。またいっしょに、ね」
 オシャレなカフェとかファーストフードとかよりも、わたしたちにはきっとこういうのが合っている。
 彼に作るお弁当は、どんな中身にしようかな。のり以外で。
 冷めていてもどこかほっとするようなお弁当が、いつか作れたらいいな。

「全然関係ないけど、『イベント弁当』って語呂よくない?」
「あのしょぼい弁当が余計にまずくなりそうだからやめろ」


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