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つつい つつさん

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ひとやすみ

17/11/18 コンテスト(テーマ):第147回 時空モノガタリ文学賞 【 迷い 】 コメント:0件 つつい つつ 閲覧数:191

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 山間の集落に突如現れたオオタさんはハルちゃんの家で預かることになった。ハルちゃんの家にはおじいちゃんとおばあちゃんしかいなかったから、若い働き手として三十代のオオタさんは大いに期待された。
 オオタさんはこの集落に来る前のことはぼんやりとしか覚えていないらしく、集落の川沿いの道をただうろうろしているところを発見された。
 オオタさんは自分は営業マンで、車でいろいろなところを廻っては商品を売り歩いていたと言っていた。集落で見つかったその日もいつも通り営業の仕事で契約を取るためにひたすらいろいろな会社を訪問していたのは覚えているけど、気づいたら川沿いの道を歩いていたらしい。その証拠にオオタさんは発見された時、ちゃんとスーツを着てネクタイを締めていた。
 この集落ではスーツを着た人もネクタイを締めた人もいなかったから、ハルちゃんはオオタさんを見た時、集落の長のホタカさんより賢そうだと思った。だけど、なにか表情が暗くてしんどそうな顔をしていたからオオタさんがハルちゃんの家に住むことになったと聞いて少し不安になった。でも、オオタさんはハルちゃんに会った時、「ハルちゃんを見ていると、自分にも娘がいたような気がするよ」ってはにかんだから、ハルちゃんはいい人かもしれないと思って、なんだか安心した。
 オオタさんはこの集落で働き出して最初の二、三週間は全く役に立たなかった。この集落は米作りが主な仕事で、作った米を近隣の集落の野菜や鶏肉などと交換することで生活をしていた。
 だけど、ハルちゃんの家の田んぼは、最近おじいちゃんの足腰が弱ってきて収穫量がだんだん減ってきていた。すべての田んぼの世話をすることが出来なくなっていた。でも、ハルちゃんはまだ六歳で、たいした手伝いも出来ないし、お婿さんをもらうにはまだ幼すぎた。だから、そんな時に現れたオオタさんはハルちゃん家の救世主のように思えた。
 でも、営業マンだったオオタさんは農作業には慣れてないらしく、少し腰を曲げて作業しただけで、「アイタタタタ」なんて言って休んでいた。ちょっと動いただけでへばってしまうオオタさんをおじいちゃんやおばあちゃん、それに集落のみんなは呆れた目で見てたけど、ハルちゃんはそんなオオタさんが嫌いじゃなかった。照れたように頭をかきながら「アイタタタタ」なんて笑うオオタさんは、最初見た時の暗い顔よりよっぽどチャーミングで良かった。それに、半年も経つと、オオタさんはみるみるたくましくなり、てきぱきと働くようになった。
 お昼になるとハルちゃんはおじいちゃんとオオタさんのお弁当を田んぼまで持って行った。おにぎりと漬け物だけのシンプルなお弁当をいつもオオタさんは「美味しい、美味しい」と嬉しそうに食べていた。そして、夜はすぐに眠たくなるハルちゃんにとってお昼はオオタさんとお話しできる唯一の時間だった。
「営業マンってなにするの?」
「いろんなお店に行って、いろんな人に会って、自分の会社の商品をお勧めする仕事だよ」
「楽しかった?」
「最初は楽しかった気がするけど、だんだんつまらなくなったような気がするなぁ」
「なにを売ってたの?」とハルちゃんが聞くと、オオタさんはしばらく腕を組んでうんうんと悩み始めた。
「あれ、思い出せないや」
「誰かにお勧めするのに忘れちゃだめでしょ」と、ハルちゃんが笑うと、オオタさんも頭をぽりぽりかきながら「ほんとだね」と照れたように笑った。
 農作業などしたこともなかったオオタさんにとって、田んぼを耕し、お米の苗を植えてそれが実り、そして収穫までの一連の流れ全てが新鮮らしく、いちいち驚き喜んだ。 そんなオオタさんの隣でハルちゃんも楽しくて幸せな日々を過ごした。
 そして、いくつもの季節が流れた頃、突然オオタさんが「帰る」と言い出した。ハルちゃんは自分がなにかオオタさんの嫌がることでも言ったのかと思って泣きそうな顔で聞いた。
「どうして、帰るの? ここが嫌いになった?」
 オオタさんは静かに首を振り言った。
「娘の名前を思い出したんだ」
 集落を去る日、オオタさんは久しぶりにスーツに着替えた。だけど、浅黒く日焼けし、泥臭く笑うその表情では顔だけが妙に目立ってしまい、全く似合ってなかった。もう、いつもの野良着のほうがよっぽどオオタさんらしかった。
 ハルちゃんは思いっきり悲しい顔して泣きわめいてオオタさんに留まってほしかったけど、娘さんがいるんじゃ仕方ないと、必死に頑張って笑顔になった。自分の笑顔を忘れてほしくなくて一生懸命笑った。
 そんなハルちゃんを見てオオタさんは頭をぽりぽりかきながら困ったような今にも泣きそうな顔をしたままペコペコと何度も頭を下げ、そして集落を去っていった。


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