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どようびさん

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隣人はきっと

17/11/17 コンテスト(テーマ):第147回 時空モノガタリ文学賞 【 迷い 】 コメント:0件 どようび 閲覧数:119

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 どれだけ豪華な包み紙で欺こうが、引っ越し先がこの寂れたアパートである時点で、出自を顔に書いているようなものだった。
 四枚千円のタオルを引っ提げ、埃の目立つ廊下を行き来する。
 二日前に引っ越してきた僕は、隣の部屋への挨拶のため、荷解きを一時中断して廊下へ出た。本当のところは、無限に増殖しているような錯覚に悩まされる段ボール群に飽き飽きしだした気晴らしでもあった。
 この二日間、僕は隣の人を見掛けることはなかった。その代わりに階段を挟んで二つ隣の部屋の男子大学生とは二回ほど顔を合わせたが、粗品を持って行くか迷い、結局変に間が開いてしまいやめた。
 アパートは二階建ての古い小さなもので、各階に部屋が四つずつある。僕は階段を上って二階の一番奥の部屋で、つまり隣の部屋が一つしかなかった。それは同時にご近所付き合いと銘打って関係を持てる相手が一つに限られていることも意味していた。
 自分の性格を吟味するに、幾ら同じアパートと言えど、なにかしらの名目が無ければ深い関係を持つことは難しいと思われる。そして、ここで、一つの迷いが生まれた。
 もし、もし仮に隣の部屋の人が美人だとして…仮にだ、人付き合いとは第一印象が大事になってくるわけだが、僕はフランクな感じでいくべきなのか真面目な雰囲気でいくべきなのか、それをこの二日間迷い続け、今もこうして決断できず部屋の前をフラフラとしている。
 …非常に馬鹿馬鹿しいことと取られるかもしれないが、大学生の僕にとっては非常に重要なことで、恋愛とは現時点での人生の三分の一を占めるほどのものなのだ。ちなみに、残りは金と勉強。
 大学の同じ学科で上手く相手を見つけられなくとも、バイト先やサークル、一人暮らしの場合、同じアパート等に出会いを頼るのも至極まっとうな流れだと僕は考える。
 言い訳はさておき、再度本題を思い出す。例えば相手が清楚な、年上のお姉さんだった場合、チャラい感じでいくのは敬遠されてしまうだろう。真面目でいくほうが印象は良い。しかし、逆に相手が僕と同世代くらいの軽めの女の人だった場合、根暗というのはまず引かれる。最悪陰口も叩かれる。それだとこちらも軽い感じでいって、必要があれば髪も染めよう。金髪は大学生の代名詞だ。
 春風に背を押され、そそのかされる気分になる。
 扉の前に立ち止まり、春の高ぶった空気をめいいっぱい肺に取り込む。相手も分からないまま考えていても仕方がないだろう。セキュリティーの行き届いた現代、相手も確認せずいきなり出てくることは無い。つまり、見た目を手がかりに清楚か尻軽かを判別するのは困難。インターホン越しの越えに耳を澄まそう。耳に小指を突っ込み軽く掃除を施す。
「さっきから何してんだ、あんた」
 突如玄関扉との距離が近くなり、電気が走ったように全身が震える。
 中から人が出てきて、つい及び腰になる。
「あ、あの、隣に越してきたもので、えと、あ、こ、これ」
 震動が舌先まで及び、手の中でタオルがシャッフルされる。
 少し冷静を取り戻したところで前に向きなおり、本題を思い出す。
 双眸を凝らし、眼前の物体を何であるか捉える。
 目に写るのは紛れもないおっさんだった。
「ああ、そうか。最近そういやなんか騒がしかったな。俺は基本的にずっとパソコンしてるだけだからあんま関係ねぇけど」
「は、はあ」
「あんた、大学生か。よろしくな。最近の若い奴でも挨拶する奴はちゃんとするもんなんだな。感心、感心、ん、じゃ、俺はこれで。早く戻らねえとゲームの続きがな」
「え、はは」
 慌ただしくドアが閉まり、その振動の余韻と共に淡い期待が音を立てて崩れる。
 まあ、こんなもんですよねー。
「はあ…」
 でも、
「でも、まあ、褒められたから悪い気はしないかな」
 素直にそう思った。


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