1. トップページ
  2. 進路希望票を前にして

小峰綾子さん

性別 女性
将来の夢
座右の銘 笑う門には福来る

投稿済みの作品

0

進路希望票を前にして

17/11/17 コンテスト(テーマ):第147回 時空モノガタリ文学賞 【 迷い 】 コメント:0件 小峰綾子 閲覧数:160

この作品を評価する

進路希望票を前にして私はまだ迷っている。

来週には提出しなければいけない。多分これが最後の希望票で、後はもう具体的に大学に願書を取り寄せたり申し込みをする段階に進むだけだ。最後に決めるのは、私。
母は応援してくれるかもしれない、または「やっぱり私を置いておくのね。」と罵るかもしれないし「お金がないのに、どうするの?!」と言って泣くかもしれない。結局その時の母の気分次第、調子次第なのだ。

母が不安定かもしれないと思い始めたのはここ1年ぐらい。でも、父が単身赴任となった2年前から始まっていたのだろう。同じ事をしても何も言わずニコニコしている日もあれば、突然ヒステリックに怒鳴ったり、という事が多くなった。県外の大学に通ってもいい、というのは以前から言われていたはずだ。なのに具体的に私が志望校を決める時期になって突然母は「一人暮らしは心配」「女の子だから危ない」と言い出した。
心配してくれるのは分かるのだが、「寂しいね」と言ったり「絶対やめなさい。私は許さないよ」と言ったりする。正直振り回されるのが面倒なので私は進路の相談を極力しないように努めた。

しかし高校3年生の2学期になるとそうも言っていられなくなる。

まあ迷っているのは母のせいだけでもない。友達も半分以上は地元に残るようだ。卒業しても会おうねと言ってはいるけど、やはり地元を出てしまったらあまり会えないだろう。知り合いが全くいないところで、大丈夫なのだろうか。一人暮らしは楽しそうだけど、やっぱり怖い。今までどんな時も親や弟が近くにいたので、毎日帰ったら一人で、寝るときも一人で、というのは想像がつかない。朝一人で起きられるのだろうか。

結局地元の大学に行くのが良いのだろうか。お金もかからないだろし、すぐに会ってくれる友達もいる。何より、母が安心するだろう。

次の土曜日、私は図書館で勉強すると言って早くに家を出た。実際に私が向かったのは父のところだ。電車で片道約3時間。2時間滞在したとしても夕方には帰れるだろう。
父は週末には基本うちに帰ってきていたが、この週末は日曜に用事があり、帰ってこないと言っていた。かえってその方が私には好都合だったかもしれない。母のいないところで父と話をしたかった。

父は駅まで迎えに来てくれていた。
駅前の喫茶店でランチのオムライスを食べながら、学校やこの間引退した部活の話などをした。父と二人きりでたくさん話をしたのはとても久しぶりだ。
食べ終わった後に父が「今日は、何か話があるんだろ?」と聞いてきたので本題に入った。
一通りきいてくれた父からは、意外な言葉が返ってきた

「親を捨てることも、時には必要だということを知っておいてほしいと思う」

父は、母から不安気なメールや電話が以前より多くなっているなとは感じていたが、父にはそういう不安定なところは見せないようにしているのか、気づかなかったと言っていた。たぶん母も週末しか帰って来ない父に気を使っていたのだろう。

「気が付けなくて申し訳なかった。でも、お前の人生だ、お前が決めていい。お母さんもいろいろ言うかもしれないが、今のところそれはお母さん自身の問題だ。お前や弘にはぶつけてはいけないことなんだと思う」
「でも、うちにはお金がたくさんあるわけじゃないから厳しいとも言ってたよ」
「それは多分、お前を家から出したくない一心で言ってたんだろう。大丈夫、それぐらいのお金はうちにあるから。もし厳しかったら奨学金借りるという手もあるから、そこは気にしないでいい」
「もし私が一人暮らししても、毎日お母さんから電話とかメールがあったら正直めんどくさいな、とも思っているよ」
「それはでも、お前が家に残ったとしても変わらないと思うよ。帰りが遅くなったらいろいろ言うだろうし、バイトに行くと言ったら心配するだろうし。結局、お母さんが不安だから子供を縛ろうとしてしまう。そんな状態なのかもしれないな」
正直父がそこまで考えてくれたことに驚いたが、父が冷静なことに安心した。

まず、次に家に帰ったときお母さんとちゃんと話し合ってみる、お母さんなりに一人で抱えていたのかもしれないし、場合によっては心療内科の受診も勧めてみる、進路のことはこれからはお父さんが間に入るから、お母さんに何か言われたらお父さんに言いなさい、ということになった。

そういうわけで大きな心配事が一つ解決に向かったのだが、私はまだ迷っている。

何をやりたいか、どこで暮らしたいか、今の偏差値でどこまで可能か、一人暮らしはできるのか。
不安なことは多いけど、でもやっぱり、知らない土地に行ってみたい、今まで知らなかったいろんな人や物に出会いたい。

多分私は、県外の大学を書くだろう。

背中を押してくれた父に、感謝する。



コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン