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kinaさん

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ババ抜き

17/11/16 コンテスト(テーマ):第148回 時空モノガタリ文学賞 【 ホラー 】 コメント:0件 kina 閲覧数:427

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「みちるは、真央に似ている」と、薫が言った。
「え? どこが?」と、私は尋ねる。薫が友人らの顔を確認する。裕子も由香も、静かにうなずいている。
一方真央は、意志の強そうな眉をピクリとも動かさず、ノートにペンを走らせていた。
 中学生になって知り合った真央は、私と違っていつも堂々とした子だ。私も真央もイラストを描くことが趣味で、そんなところは似ている。
 真央は自分のイラストを私や裕子たちにも、コピーをして配っていた。積極的な彼女を半ば尊敬しながらも、イラストの中でいつも同じほうを向いて笑っている女の子が多いことは気になっていた。
一方で、私はあまり誰かに自分の描いた絵を見せることがない。以前裕子に見せたら「なにか苦しいことがあった? 大丈夫? 」と心配させてしまったのだ。
 私は手元に、自分の描いたものをとっておくことができない。気に入らないところが多すぎて、許せなくなって破いて捨ててしまう。机の上は黒鉛で黒い汚れが目立つのに、壁には絵の具の染みが目立つのに、完成された作品が部屋にはほとんどないのだった。
 その代わり、私の部屋には真央のくれるイラストのコピーが増えていった。

 学校から帰宅して、コンパスを探そうと机をあさっていたら、不意にぎゅうぎゅうに詰まった机の引き出しから、彼女の描いた女の子が飛び出してくると、ひらりとフローリングに落ちて私と目が合った。彼女は笑っていたけれど、それがとても不気味に思えて、衝動的に自分の絵が見たいと思った。真央のイラストの下で、私の絵は明らかに筆圧の違う存在感で、トランプのジョーカーのように笑っていた。

 真央が由香の誕生日をうちで祝おうと、私を誘った。まだそこには誰も来ておらず、持ってきた一枚の絵を彼女に渡した。
「これ、描いたんだ。真央にも」
真央はそれを受け取ったまま黙って五秒くらい見つめたあと、「ありがとう」と私に返した。
「私のあげるよ」と立ち上がり、部屋から一枚の絵のコピーを私に寄越した。その女の子が、やっぱり同じほうを向いて笑っているのを見つめていると、私は涙がこぼれてきた。なぜか、私の作品が破られてしまったような、激しい音が耳の奥に響いてくる。
 あまりにも突然のことに彼女は驚いていた。
「ミルクレープ、先に食べる?」と慌てて繰り返すばかりで、私の胸はおさまりつかない。私はゆっくりと、何度も、真央は悪くないと繰り返しながら、呼吸を整えていた。実際、そうなのだ。
 裕子と由香は結局その日は現れず、ミルクレープは真央だけが食べていた。

 裕子たちと離れてしまうようになって真央と私の時間が増えると、私は自分が絵を描くことが、まったくなくなっていた。とても悲しくて不毛なことのように思えたからだ。
 そのかわり、私は真央のイラストをとても上手に褒めることができるようになった。
安定感のあるブレない絵柄、気持ちを明るくしてくれるような眩しい笑顔、みていて元気になる、真央には才能がある――すると、真央の夢や妄想の一端を、私は教えてもらうことができた。
「イラストレーターになって、ポストカードや関連グッズを販売したいから、みちるちゃんも手伝ってね」
私はそれを黙ってきいている。けれど、そんな時に真央が見せてくれる彼女のイラストの女の子は、どこか私を疑うような厳しい目で見つめているようだった。

 真央がイラストを描かなくなったのは高校二年生になってからだ。今度はハンドメイドアクセサリー制作を始めた。
私の協力は、それをどのように魅力的に表現すればいいのか考えることで、最初のうちは、類似性を安易に口走ってしまい、とても怒られた。ハンドメイドは、オンリーワンなのである。
 真央にとってアクセサリーは商品だった。
「これは大切な相手にしかあげないんだ」と、新作のイヤリングを見せてくれた。
「誰にあげるの?」
「二組の吉野さん」
私ではない。すると不思議なことに、とてもするすると、真央の作品の良いところが私から溢れてきた。あんなに神経質に悩んでいたはずなのに、褒めたい部分しか見えなくなった。
 「繊細な造りには作り手の思いが宿っているようだよ、思いを形にすることはとても難しいのに、こうして目の前でキラキラ輝いていて、ここにいるよって笑っているように見えるよ。素敵な作品だね。きっと喜んでもらえるよ」
 真央は目を潤ませて、ありがとうと一言、そのイヤリングを私に渡してくれた。
「やっぱり、吉野さんには渡せないから。でも、みちるちゃんなら喜んでもらえる。その方が、この子には幸せ」

 帰宅途中、私は下りの電車を待ちながら、ホームのごみ箱に思いっきりイヤリングを投げ入れた。これでいいのだ。
 寄り道をして、久しぶりに画材屋へ行こうと思った。自分のためだけに描ける自由が、私の足取りを軽くしていた。


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