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マサフトさん

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盗賊の犬丸

17/11/15 コンテスト(テーマ):第148回 時空モノガタリ文学賞 【 ホラー 】 コメント:0件 マサフト 閲覧数:48

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「クソッ!やっちまった!焦って殺しちまった」
犬丸は焦っていた。彼は強盗を生業としている、いわゆる盗賊である。新月の夜半、反物屋に盗みに入ったものの偶然厠に行くため起きていた店の主人と出くわし、咄嗟に野太刀で切り掛かって殺してしまったのである。
「俺は盗みはしても殺しはしないのが信条だったと言うのに…。いや、見られた以上殺さなければならなかったのだ!俺は悪くない!あんな場にのこのこ顔を出した奴がいけないのだ」
犬丸は必死に自分に言い聞かせたが、盗みを働き殺しまでした自分がいちばん悪いのだと分かっているからこそ、大変に動揺していた。

ともかく戦利品は置いておけないと、上物の反物を幾つか抱えて慌てて近場の林の中に逃げ隠れた。そして手頃な木の根元に座り込み、がたがたと震えて懺悔した。
「許せ、許せ、俺も生活がかかっているのだ。明日のおまんまにありつくにはこれしかないのだ。許せ、許せ」
「許せるわけがないだろう」
死んだはずの男が、立っていた。犬丸から少し離れた茂みの陰に、先程確かに犬丸が殺したはずの反物屋の主人が居た。足元は茂みに隠れて見えない。
「生活がかかっているのだと言ったが、俺の生活はどうするのだ。俺の妻子の生活はどうするのだ。私はお前に殺された。ならば私がお前を殺すのは道理という訳だ。許せ、などとは言わない。お前が悪いのだ。せいぜい、苦しめ」
「待て、待ってくれ、許してくれぇ!」
言うが早いか、反物屋の主人は影も形も無く消えてしまった。
恐れおののく犬丸はもう目を瞑ってがたがたと震えることしかできなかった。

「はっ」
犬丸は眩しい朝日で目が覚めた。いつの間にか寝てしまっていたようだ。日が昇ればこっちのものだ。祟りなぞ怖いものか。検非違使が来る前に早く遠くに逃げなくては。
「貴様ここで何をしている」
思った矢先、検非違使が犬丸を発見した。
「なんだその返り血は!足元にある反物は!さては貴様昨晩の反物屋の主人を殺した盗人だな!」
犬丸が弁明をする間も無く中年の検非違使は太刀を抜いた。
「私の竹馬の友をよくも殺したな。引っ捕らえるなど生温い。今ここで叩き斬る!」
犬丸が野太刀を抜く間も無く、左肩から袈裟懸けに切り裂かれた。
刃が肉を裂き、骨を断ち、内臓まで達する感覚を激痛を伴って犬丸は感じていた。
「ぎいやぁぁぁああああ」

「はっ」
犬丸は月明かりで目が覚めた。いつの間にか寝てしまっていたようだ。はて今夜は新月だったはずだが。まぁいい、とにかく逃げなくては。
「鬼さんこちら、手の鳴る方へ」
子供の声がして犬丸は硬直した。こんな夜半に子供の声?
「鬼さんこちら、手の鳴る方へ」
犬丸はぞっとして後ろに一歩下がったが、何かに背中が当たってどん詰まった。振り向くと、女がいた。
「よくも、あの人を殺してくれたな。よくも、殺してくれたな。よくもぉぉおお」
女の顔がみるみる悪鬼の如き形相に変わって行き、その細い腕を突き出した。
「鬼さんこちら、手の鳴る方へ」
犬丸の腹には小刀が深々と突き刺さっていた。激痛が襲う。
「鬼さんこちら、手の鳴る方へ」
犬丸はたまらず叫び声をあげた。
「ぎいやぁぁぁああああ」

「はっ」
犬丸は眩しい夕日で目が覚めた。いつの間にか寝てしまっていたようだ。犬丸はもう何十回も夢の中で殺されている。今まで犬丸が犯した悪行の被害を被った人達が、代わる代わる犬丸を殺しにきた。その度に目が覚め、また殺される事を繰り返していた。
「もう、十分だろう。頼む…後生だ勘弁してくれ」
「駄目だ」
茂みの陰に反物屋の主人が居た。
「私は死んだが、お前はまだ死んではいないだろう」
「まだ、俺に死ねと言うのか。もう何度も何度も死んでいるというのに」
犬丸は耐えかねて咽び泣いた。顔はやつれてぼろぼろである。
「まだ、していない死に方があるだろう。それをさせてやるのが私の最後の慈悲だ」
そう言うと反物屋の主人は消えていなくなった。
「あぁ、そうか、こうすれば良かったのか…」
犬丸は腰の野太刀を抜き、自分の首に刃を当てて勢いよく引いた。

「報告致します」
「我々が件の野盗、犬丸を発見したときには半狂乱の状態でなにやらわめき散らし、暴れまわっておりましたのでしばらく様子を見ておりましたところ、木の枝を首に当てた後に倒れこんだので捕縛致しました」
「その後は半狂乱の状態が嘘のように大人しくなり、ご覧のように抜け殻のようになっております。いえ、寝ているわけではないようです。生きたまま死んでしまっているとしか言えぬ状態になっているようです」
「犬丸を発見した林の中で何か余程恐ろしいものでも見たのでしょうか。彼はもう元には戻れますまい」


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