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マサフトさん

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黒いコートの男

17/11/15 コンテスト(テーマ):第148回 時空モノガタリ文学賞 【 ホラー 】 コメント:0件 マサフト 閲覧数:36

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3日ほど前から妙なものを見るようになった。
その日は雨だった。よく行く喫茶店の窓際の席に座り、外の通りを眺めていたら、その妙なものが目に付いた。黒い傘を差し黒いトレンチコートを羽織り、黒いハットを深めに被った、恐らく男性。ズボンもブーツも手袋さえも全て黒尽くめの出で立ちである。物凄く目立つというのに、道行く人々の目には映っていないように見える。喫茶店の、同じく窓際にいる人達も同様に気付いていない。
僕にしか見えていないのだろうか。霊感は無いと思っていたが不気味な、見てはならないものを見てしまった気がした。だが、喫茶店を出る頃には忽然と消えてしまっていたので、その後は特に気に留めることもなく忘れてしまった。

ところが翌日、翌々日、そして今日、毎日「彼」を見かけるようになった。出現する時刻や場所は毎日まばらで、10分ほど遠巻きに佇んでいたかと思うと目を離した隙に居なくなっている。初日は雨だったがその後は晴れ続きだというのにずっと傘を差している。
今日はとうとう職場に現れたので驚いた。異様な出で立ちだが相変わらず僕以外の人には見えておらず、存在も感じていない。「彼」が立っているところに人が通りかかると、無意識のうちに「彼」を避けて通っているのだ。決して誰とも、何にも接触しない。意を決して僕が近づくと、近づいた分「彼」は遠ざかってしまう。明らかに僕だけが「彼」を認識し、「彼」も僕だけを認識している。
さすがに恐ろしくなって同僚や友人に相談しようとするが、この事を話す直前になぜかどうでもよくなってしまい、相談しなくなってしまうのだ。怖くてたまらないのに人に話そうとすると途端に無気力になってしまう。精神を病んでしまった故の幻覚かもしれないと医者に行こうとするが、やはり病院の前で突然無気力になって辞めてしまう。

そんな日々が1週間も続いた。もう、友人に相談や医者に診てもらうどころか、何をするのも無気力になってしまっていた。体が怠くて重く、布団から起き上がれない。昨日は体調不良を理由に会社を休ませてもらったが、今日は無断欠勤してしまっている。電話を掛ける気力もない。ただ口を開け、何の感動も無く「彼」を見つめたまま何時間も経っている。
「彼」はもう布団の目の前に居る。部屋の中でも黒いブーツを履き、黒い傘を差している。「彼」もまた、何の感動も無く僕を見つめている。深めに被ったハットのせいで視線は分からないが。
壁の時計が零時を差したとき、意識が途絶えた。

気がつくと僕は交差点の一角に佇んでいた。黒い傘を差し黒いトレンチコートを羽織り、黒いハットを深めに被り、ズボンもブーツも手袋さえも全て黒尽くめの姿で佇んでいた。物凄く目立つというのに、道行く人々の目には映っていないようだ。人が通りかかると、まるで壁か柱でもあるかの様に、無意識のうちに僕を避けて通っていく。
直前まで何をしていたのか全く思い出せないのだが、焦りも苛立ちも無く、心地よい虚無感に包まれているのを感じた。この先どうしようかと考え歩き回ってみたところ、喫茶店を見つけた。とても懐かしい感じがするのだが、いつ来たのか思い出せないし、入ってみようという気も起きなかった。ただその喫茶店が気になるので歩道から眺めてみることにした。
そこに佇んだまま何ヶ月かが過ぎた気がした。その間の事は何も覚えていないが、月日が移り変わった事は感じていた。そして初めて、僕の存在に気が付いた人が現れた。喫茶店の窓際の席から、こちらをみている男性がいる。
その瞬間、僕がこれから何をすべきかを理解した。10日後、彼の部屋を訪ねる事になるだろう。その時が少し楽しみだと感じた。


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