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藤栄さん

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目晦し藤

17/11/15 コンテスト(テーマ):第118回 【 自由投稿スペース 】 コメント:0件 藤栄 閲覧数:18

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誰かから後ろ指を指された。何故なのか、検討もつかない。一つだけ分かる事は、僕はエリック・サティにとり憑かれている事だ。彼から離れられる事は僕には出来ない。卑屈で自意識過剰な僕には認める以外の選択肢がないのだ。どっかの馬の骨も言ってた、彼はジムノペディの奴隷だ。って。そいつ等に彼の知ったかぶりをされた時、啖呵を切った事が有る。だってもし好きな人の事を知ったかぶりされたら幾分かでも気に障るだろう。それに、僕は彼の渦で生きるしかないのだ。青白く光るその眼は僕を雁字搦めに捕らえる。でもそれが酷く心地よいのだ。存在していない主従関係を結ばれている気持ちになる。いや、僕が今に存在して居るのかも分からない。ずっと夢を見ているのだ。目まぐるしい日常が僕の眼を晦ます。……嘘付け。そう僕が叱咤した気がした。現実逃避しているだけなんだよ。人の生温い肌に触れる度、憎悪が湧く僕がそれを認知したくないのと一緒だ。自分の人生を客観している様だけれど、そんなの僕が自身を否定する一つのツールでしか無いのだ。自分の人間なんかが、人間の摂理に近い事を拒否するなんて無謀なんだ。それを少しでも普通だと思いたくて、くだらない仲を紡ぐのだ。今日も「飲みに行かない? 」なんて彼氏持ちの女からメールが来た。馬鹿馬鹿しいと思いながら返答を返してしまった。
交友関係は酷く難しい。僕は線を繋ぐとき、それらが不平等な関係でも傍に居たいと言うのだから、紳士になったつもりで言葉を飲んでさし上げた。相手と共にいて自身に利益がある思ったから一緒に歩いてるだけなのに。人の欲望とは朽ち果てない。面倒になって期限を告げると、彼らは青い線を引く。そして赤く染まった言葉で「自分は一体何のために居たんだ」なんて言う。大変に身勝手だ。ドアを閉めるときは静かに壊れない様に閉めろ。って親に教わらなかったのだろうか。あまりに乱暴な人が多過ぎて、いい加減大家さんに怒られてしまいそうだ。
仮面を被っている僕に興味を持つ人はそこそこ居る様だ。求愛された時、存在を受理してしまうから交友が面倒臭いのではと思った。それに加え寄ってくる彼らは自己承認欲が強いから尚良くない。幼子に言われた「ずっと笑って気持ち悪い。怖い」って。精一杯の厚塗りをしたが、幼子を惑わす事は出来なかったらしい。無垢な存在だからだろう。
口から入る鼠色が僕の肺を濁す。大学生の時に始まった相関関係で白昼夢に連れてってくれる相手は、一生僕を犯し続けるだろう。笑顔の仮面を被り続けるのっぺらぼうの主はもう消え去ってしまった。それを更新する為に自ら紫煙を被るのだ。行為を終えた僕はまた生活に戻り人混みに紛れ込んだ。丁度昼の二時だった。 
仕事終わりの夜十時。僕の丸眼鏡の欠片が道に飛び散る。頬が痛い。手を当ててみると少し熱を帯びている。鮮血色の服を着ていたことが幸いだ。「おれの女に手を出すなんていい度胸だな」体格のいい金髪の男は僕を殴った様だ。隣には青ざめた女が僕をジッと見た。あぁ、また僕は交遊関係に罅を入れたのか。今年で三回目か? いや五回目だ。僕は所謂間男という奴らしい。殴るんだったら関係を持った相手を殴るべきなんじゃ無いかと何度も思う。僕の責任じゃない。長い前髪から見える周りの人々の目は、また夜の街へと遷った。暢気な事を考えながら重い腰を上げると、携帯のバイブレーションが鳴った。それが着火点となって僕の体を蝕んだ。そいつを思いっきり靴で踏みつぶして見下したくなった。せめてもの報いをする様に、そいつの情報を全て消してやった。風の噂だが、後日そいつは大学を辞めたらしい。
 彼らは「愛してくれ」と僕に訴えかける。悪いけど僕は愛す事も出来ないし恋する事も出来ない。身勝手な人間だからね。だから人々は何故恋をしたがるのか理解が出来ない。人が死ぬ時はどうせ一人なのだから、孤独も何もないと思う。あ、恐れはあるけれど。博愛主義者の友人にそれを言うと怒られるし、僕の観念を真向に否定される。でも彼は筋金入りの偽善者だから、この都合の良い関係を止められないだろう。そういえば先日、彼と久しぶりにまともな会話をした。テーマは「僕」についてだ。煙草を吹いている時、彼は突然問いかけてきた。
「ねぇ、君は他人を『愛する』事は出来るの? 」
「いや、出来ないと思う」
「だよね、知ってる。でも僕は何故か君から離れられない」
「それは貴方が博愛主義者だからさ」
「それも一理あるけど」
「けど? 」
彼は少し黙り込んだ。返答が無いんだったらさっさと帰ってくれ。そう言おうと思った時、彼は少し憐れんだ顔で口を開いた。
「……君は罪だからさ」いつの間にか彼は玄関から出て行っていた。
彼らの様な目に逢わせたくて、哲学思考の女性に「愛とは承認欲求の仮象なのでは」と問うた事がある。彼女は、「如何に自分の人生に充実感を与えられるか。それを人々は安易に『愛』に繋げているだけなんじゃないかな。私たちはとっくに気づいているけど、現実逃避がしたいんだよ」と言ってたな。何時だったか、彼女はメールを送ってきた。ジムノペディ第三番が始まった時だった。
「夜遅くに迷惑御免葬ります。私が貝で穴を掘る前には見ていて欲しいわ。今日話したアイについて少しだけ、考えてみたの、夏目漱石の先生みたいね。これを読んでいる時には私はこの世にいないでしょう。って言っちゃおうかしら。可笑しいわね。夢見る少女ではいけないとは分かってるのだけれど……関係ない話を打つと貴方、読み終えて下さらないから雑談はここまでにして、本題に戻るけれど『愛』は惰性だと思うの。きっと。好きの反対は嫌いでなく無関心だ。って誰かが言ってたけれど、どうなのかしら。嫌いは感情だけど、無は何物でもないわ。でもそれは火薬庫で、計り知れない程の空想を生み出すの。何もないから自身から生み出すしかないでしょう。それを存在させる為に「孤独」を生み出した筈。人々は必然的に闇を抱えているの。ネガティヴに捉えるけど、闇は自分と対話できる唯一の時間だわ。それが出来ないから人々はとっても薄っぺらいのよ。つまりは個々のアイディンティティが消滅しかかってる。それを得るために私たちは足を動かしているの。そしてそれを持ってる貴方は消滅を疑似的にでも経験しようと、仮面を被っているんじゃないかしら。今まで言わなかったけど、私の目は騙されないわ。貴方は死ぬまで気づかないと思うけど、私が居なくなったのは大損害よ。一時的にニヤリとするだろうけど。そうそう、エリック・サティの作品集を送ったわ。三日後には届くはずよ。貴方は百年俟てるかしら」
ただ待ってるよ。そう送ったけれど返信は来なかった。心配になって彼女の家に自転車で向かった。彼女の家の鏡はひとつを残してばらばらに砕け散っていた。僕は彼女を目の前にして前髪を掻き揚げた。皮肉を込めて、「君が直ぐに出てくるなんて、今日は世界の終りなのかと疑ってしまうよ。それにしても、今日はやけに色っぽいな。僕はそういう気分じゃ無いんだけど」クスリと笑ってしまった。予想に反した態度を取られた僕は、ムッとして、彼女を赤らめさせたいと思った。悪戯心に逆らえず、首筋に赤痕を残した。
それからきっかり三日後、プレゼントが届いた。箱を開けて見るとCDの他にホトトギス、ナズナ、紫のアネモネが目に入った。彼女の香水の香がまだそれらに付着している。
箱を解体していると、紙が落ちた。「花言葉を調べてみて」美しい字でそう書かれていた。頬が上がったのが自分でも分かる。あまりにも面白くて大きな独り言を呟いた。「僕も馬鹿にされたもんだな、永遠に貴方の物。私は信じて待つ、だなんて」珍しく髪をクシャリと掴んで床に青い線を落としてしまった。
どうして、玄関の鏡だけは割らなかったのか。僕はち今になってやっと解かった気がした。
午前四時。鏡の前で膝を抱えながら泣き崩れていた。割れた鏡が自身の周りを囲む様に散らばっている。僕はまた、君を認められなかった。掴み過ぎた胸の皮膚は紫になっている。彼女はいつも通り僕の心に内出血を重ねていく。濡れた煙草を口に銜えた。火は上がらない。代わりに紫の空気が僕を包んだ。


                       


 




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