1. トップページ
  2. 迷い道は、狐の道。

浅縹ろゐかさん

本格的に創作活動を始めて、2年目になります。

性別 女性
将来の夢 ゆっくりペースでも良いから、何かを作れる人になりたいです。
座右の銘

投稿済みの作品

0

迷い道は、狐の道。

17/11/14 コンテスト(テーマ):第147回 時空モノガタリ文学賞 【 迷い 】 コメント:0件  浅縹ろゐか 閲覧数:112

この作品を評価する

 「オヤァ、もしかしてお嬢さん道に迷ってる?」
 夕暮れの駅前。慌しく通り過ぎる人達は、家路を急いでいる。そんななか、駅前の寂れたロータリーで私は一人荷物を抱えて噴水の淵に腰掛けていた。ぼうっと人波を眺めていた私は、道に迷っているようには見えないと思うのだが……。声を掛けてきた男は、胡散臭く笑って隣へと座った。新手のナンパだろうか。面倒臭い。男の言葉を無視して、再び視線を人波へと戻す。冬の夕暮れはあっという間に過ぎてしまう。先程まで橙色だった空は、徐々に藍色へと変わっていく。
「みんなは行く場所が決まっていてイイネェ……」
 男はふわりと欠伸をすると、つまらなそうにそう言った。行く場所が決まっている、確かにその通りだ。目の前を通り過ぎて行く人々は、目的地へ向かって行く。行く場所が決まっていないのは、私とこの胡散臭い男だけかもしれない。
 私は家出をしてきた、しがない高校生である。当分の生活用品と、僅かな金銭しか持ち合わせていない。アルバイトで溜めていたお金で、一番遠くまでの片道切符を買ったのだ。その終着駅が、ここだった。見知らぬ土地の寂れたロータリーで、私は行き先を決められないまま何時間も過ごしている。迷っていると言えば、迷っているのだった。
「お嬢さん、帰る所は?」
「……今日は帰る所ないの」
 無視をしていても話しかけてくる男に、ついつい返事をしてしまっていた。調子に乗らせてしまうかと、様子を伺ったけれど特に男の様子が変わることはなかった。相変わらずつまらなそうにして、ぼんやりと人波を眺めている。帰る所がないとはいえ、いつまでもここにいる訳にはいかない。警察の巡回で補導されてしまえば、家出は未遂に終わる。それだけは避けたいところだった。私は元の家に戻ろうという気持ちは、これっぽっちもないのである。
「お嬢さんさえ良ければ、ちょっと良い所を紹介しようか?」
 実に胡散臭い誘い文句である。この言葉に乗ったとして、果たしてどこに連れて行かれるのやら。しかし、ここでこうして夜が更けるのを待つよりは良いかもしれない。いざとなったら、逃げれば良いのだ。私は半分ヤケクソで返事をする。
「お願いします」
「そうこなくっちゃ」
 男は膝を叩いて、立ち上がった。私が抱えていた荷物をさっさと持つと、こっちこっちと手を招く。手持ち無沙汰になった私は、ノロノロと立ち上がり男が手を招く方へと歩んでいく。男はちゃんとついて来てよと言うと鼻歌まじりに、歩き出した。
 駅が寂れている街は、どこもかしこも寂れてしまうのだろうか。男が歩いていくのは、寂れた商店街だった。店仕舞いをするにはまだ早い時間帯であることから、随分前に閉店したことが窺い知れる。シャッターが並ぶ商店街はなかなか寂しいものだけれど、まだ営業を続けている店はぽつりぽつりとあった。利益というよりも最早趣味ではなかろうか、と思うような佇まいの店が多い。駅から少し離れた場所に大きなショッピングセンターができてから、この商店街は一気に寂れてしまったらしい。前を歩く男が、ここも昔は人通りが多かったんだけどなァと憂うように呟いた。商店街から一本脇道に入り、暫く歩くと古びたアパートや昔ながらの一軒家が立ち並ぶ住宅街となった。随分と辺りは静かである。家の中に灯りが点いているのに、一つも笑い声や話し声が聞こえないのだ。
「さァ、着いたよ」
 そこは何でもない古びた神社だった。色褪せてはいるが鳥居があり、苔生しているが稲荷が祀られている。随分と前からこの地にあるようである。豪華絢爛ではないが、地域に根差した神社のようだ。しかし、ここに連れて来られた理由が分からない。てっきり、どこかに連れ込まれでもするのかと思っていたが、どうやらこの男にはそのつもりがないようだ。
「ええと……。ここは?」
 間の抜けた質問であるとは分かっていても、そう聞かずにはいられなかった。これ以外にどう聞けば良いのか分からなかったのだ。男は、こちらを振り向いて不思議そうな顔をする。
「神社だけど」
「あ、それは分かります」
 なんだ、このまどろっこしい会話は。男は不思議そうな顔をしていたが、合点がいったようで嬉しそうにこう言ってのけた。
「私、ここに祀られてる狐でさァ」
「ええ?」
 突拍子もないことを言い出すと男は笑った。そして、私に選択を迫る。辺りはすっかり闇に飲まれて暗い。その中で男の目だけが、光っていた。
「さァ、お嬢さん。ここで相談だ。私の手伝いをしないかい? 勿論、タダでとは言わないよ」
 今ここでこの相談を断っても、この男は私をどうこうするつもりはないだろう。それはこれまでの話しぶりからして、明らかであった。私は暫くの間迷っていた。男はその間、私を急かす訳でもなく待っていた。決心がついて顔を上げると、男は胡散臭そうに笑っていた。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン
アドセンス