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要崎紫月さん

『精神攻撃系お耽美ホラー』と銘打ち、短編を書いています

性別 女性
将来の夢
座右の銘 一生懸命

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はらむ

17/11/14 コンテスト(テーマ):第148回 時空モノガタリ文学賞 【 ホラー 】 コメント:0件 要崎紫月 閲覧数:64

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 携帯電話が鳴る。時計を見ると、もうすぐ二一時。こんな時間に架けてくるのはアイツだろう、と一度無視する。どのみちもう一度鳴らしてくる。
 少しの無音。そして、再度の着信。
「もしもし」
「あ、ルミさん? 今、電話いい?」
 ハルカはそう確認して一気に喋り出した。少なくともこのまま一時間は喋り続ける。仕事の事、遊び仲間の事、付き合っている男の事。尽きない話題に私は適当に相槌を打つ。自分がいかに仕事が出来て、いかに男に愛されているかを語る。
 ハルカの話は一方的な所為か、私はいつも暇を持て余していた。そして、口を挟もうなら出てくる言葉は決まって「でも」「だって」ばかり。自意識過剰な態度は改めるべきだと思うし、男の貞操観念も聞く度疑問だった。
 ただ話を聞いて欲しいだけ。そうだと分かっていながらも口を出さずにはいられず、無駄に苛立っていた。
 ハルカは高校の同級生で進路は全く違ったものの、何の縁かお互い三回の転職で同じ会社に行き着いた。
 今日も仕事の話はそこそこに、件の男の話になった。手料理の上手さを自慢げに話す。和洋中何でも出来るだの、食材や調味料のこだわりがどうだの。聞き流しながらも、私の心中は穏やかではなかった。
 三十歳を越えた今も私に彼氏なんて存在は無かった。正確には一度たりともいた例は無い。しかも実家暮らしでロクに料理も出来無い。ハルカが発する言葉の一つ一つが、私のコンプレックスを刺激してくる。
「ルミさん? おーい、ルミさーん?」
 無言になった私の名前を呼ぶ。私は返事をしたいのだけども思うように声が出ず、携帯電話を放り出してベッドに横になった。
 息が吸えない。誰かに首を絞められている様な。物凄い力で呼吸を阻止してくる。
 これが初めてじゃなかった。けれど今までの中で一番キツイ。
『ままぁ、ままぁ』 
 ハルカの声が遠くから聞こえてくる。
「もしもし」
「大丈夫?」
「大丈夫じゃない」
 落ち着くのを待ち、私は吐き捨てる様に言った。
 この事態をハルカに伝えたら、それは水子の所為だ、と言った。アタシは守られている、と。水子は捨てた母親ではなく、その親を悪く言う私が憎いらしい。
 私に霊感なんてものは無い。しかし会社で再会をした時、ハルカの背後に黒い靄の様な塊が見えたのは事実だった。そして、二回の中絶の話を聞かされたのはその後だった。
 ハルカの生々しい体験談からすると本当の事なのだろうが、どこか優越感の様なものを感じる話し方が不快でたまらなかった。それ以外、何を話したのか覚えていない。
 そんな事を思い出しながらおざなりな相槌を打って電話を切った。

 翌朝、洗面所の鏡をじっと見詰めていた。首にくっきりとついた指先の痕。私はそれをそっと撫でた。
「ルミ、仕事遅れるわよ。お母さん、先に出るから」
 そう言いに来た母には見えていなかった。
 ハルカの水子が私の首を絞めた痕。水子の手にしては大きい。本当は分かっている。
 私はもう一度首筋を撫でた。

 ある日曜日、ハルカに誘われて小高い山の中腹にある喫茶店へと行った。秋にしては気温の高い日だった。時折吹いてくる風が気持ち良い。
 店舗の南側がガラス張りになっていて、見晴らしが良く、湖にあるヨットハーバーが一望出来た。小型の船が三艘ほど、湖の真ん中辺りをゆっくりと進んでいる。大きな橋をくぐればそのまま海へと出られる。
 私とハルカはガラスに沿って設えられたカウンター席に座り、コーヒーとケーキを注文した。この店で提供しているシフォンケーキが美味しいらしい。
 ハルカの視線はずっと湖に向けられていた。何も言わなかったが、あのヨットハーバーに彼氏でもいるのだろうか。お茶をするだけならこの店でなくても良い筈。微笑みを浮かべ、おもむろにお腹を撫でる仕草に思わず目を背ける。やはり、それとなく自慢したかったに違いない。
 私達は何も喋らなかった。ただ並んで湖を眺めていた。
 彼女の中にまた新しい生命が宿っているのだろうか?
 そして、またおろすのだろうか?
 運ばれてきたコーヒーを一口飲む。苦みが胃に沁みる様だった。
 手を付けようとしないハルカを横目で見て、また視線を湖に戻す。首筋に触れる。
 私の首を絞めたあの手は水子の手じゃない。あれは嫉妬に駆られた私の手だ。自分自身の心が私を苦しめている。
 ハルカと言葉を交わす度、私の中の黒いモノが大きくなってゆく。ハルカの言葉一つ一つが餌となった。
 いつか得体の知れない化物を私は産み落としてしまうのだろうか?
 それとも、内側から喰い殺されてしまうのだろうか?
 いや、きっと何食わぬ顔をして飼い慣らすのだろう。
 私のお腹は醜い化物のゆりかご。こうしてうまれてくる。

 帆に風を受け船は、湖面を滑ってゆく。穏やかな午後は何も知らない。


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