1. トップページ
  2. オカルトハウス

W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

投稿済みの作品

1

オカルトハウス

17/11/14 コンテスト(テーマ):第148回 時空モノガタリ文学賞 【 ホラー 】 コメント:2件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:87

この作品を評価する

 夕方の五時ともなれば、この辺りには寒々とした黄昏がたれこめて、人通りもほとんどない。昼間でもこの界隈は、木々の繁みが分厚く層をなして重なり合い、いくら空が晴れ渡っていてさえ地上は黒ずんだ灰色の影がみちているようなところだった。    静寂のなかにきこえるものといえば、私がこぐ自転車の単調な回転音か、自分自身のせわしげな息遣いぐらいのものだった。  自転車の荷台には、ほとんど配りおえた新聞の、残り数枚がくくりつけられている。これからいく、その名も¨オカルトハウス¨と呼ばれる古屋敷が最後の一軒だった。  広大な敷地内に威圧するようにたちはだかる洋風づくりの建物は、みるものになにか根源的な恐怖をうえつけずにはおかなかった。  事実ここには、悪しき霊たちがすみついているとの噂がたっていた。好奇心旺盛な子供たちがこのお化け屋敷に足を踏み入れて、恐怖のあまり泣き叫びながら逃げ出してきたという話は毎年耳にするところだ。なかば壊れた門から侵入したホームレスがぶじ屋敷からでてきたかどうか、もとより身寄りのない連中ゆえさだかではないが、でてきた連中でもう一度屋敷に忍び込もうとしたものは一人もいなかった。  私にしても、仕事柄屋敷にちかづくことはあっても、屋敷からただよってくる異様ともいえる怪奇な空気にふれただけでなにやらぞくぞく寒気をおぼえて、いっときもはやくこんな場所から逃げだしたい心境にみまわれるのをどうすることもできなかった。  屋敷が無人でないことだけはたしかのようで、なにより私が届ける新聞をまっているものがあそこにはまちがいなくいるはずだった。  控え目にとめたプレーキが周囲にけたたましく響きわたるのを私は緊張のおももちでききながら、自転車からおりたった。  きょうはまた、なんという陰鬱な雰囲気が屋敷をつつみこんでいることだろう。毎日のようにここに配達におとずれる私でさえ、いままのあたりにする屋敷とそれをとりかこむ黒黒した茂みがおりなすおぞましさはたとえようのないものだった。おりから霧が、下草におおわれた地面をじわじわとはいだしてきて、屋敷全体が霧の海の上に浮かびあがり、じっさいに動いているのは霧のはずなのに、まるで屋敷のほうが幽霊船かなにかのように空中をあてもなくただよっているかのような印象をかもしだしていた。  なにかよからぬことがおこりそうな予感にかられて私は、いそいで荷台から新聞を抜き取り、門にある新聞受けにさしいれようとしたそのやさき、屋敷のほうでなにやら動くものがみえた。  人間にしては、動きが少し奇妙だった。霧のなかをゆっくりとこちらにむかって移動してくるその異様な影に私は、その場にこおりついたようにたちつくした。  意外にはやくそれは、なかばはずれた門を通り抜けて、私のいるところにちかづいてきた。  まるで死人があるいているかのような、みるからにたどたどしい足取り、その裂けたようにひらいた口にはこびりついた血が黒い染みを描いている。着ているものはボロボロにひきちぎれ、そこからのぞく肌はみな土気色に変色していた。すぐうしろから、それは女だろうか、輪をかけてすさまじい形相の人物が、よろよろとあゆみよってきた。それからもつぎつぎと屋敷から、何人もの生きるしかばねが姿をあらわすのを私は、それこそ生きた心地もなく恐々としたおももちでながめていた。 「新聞屋さん」  まるで深い穴の底から響いてくるような声に、私はとびあがってふりかえった。。最初にあらわれたあの男の、うつろなまなざしがこちらを見据えた。 「は、はい」 「新聞はきょうで、終わりにしてくれないか」  思いもよらない業務的な話に、私はちょっぴり落ち着きをとりもどした。 「どこかにいかれるのですか」 「引っ越しです」 「みなさんで」 「そうです」 「それはまた急なことで。たいへんですね」 「ええ、まあ」 「なにか、ご事情が……」  そのといかけにこたえるかわりに相手は、私がまだ手にしたままの新聞を、黙って指さした。   なんのことかと私は、新聞をひらいてみた。雲の割れ目からさしこんだ月明かりに、最近紙面をにぎわせている殺人事件の見出しが浮かびあがった。その十数人の男女がむごい殺され方をしたニュースに世間がどれだけ愕然としたことか。ほかにも、似たような残忍な事件はしょっちゅうおこっていて、朝新聞をひらくたびに、これでもかというぐらい陰惨な殺人事件の報道が、あたりまえのように紙面をにぎわせていた。 「とてもとても、もはや私どもの出る幕ではありません」  それだけいうと彼は、ふたたび前をむいて、さきをゆくみんなの後を追いかけだした。  背後で重々しい音をたてながら、半ばはずれた門扉がしまるのを、私はほとんど上の空できいていた。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

17/11/18 文月めぐ

『オカルトハウス』拝読いたしました。
鬱蒼とした雰囲気が伝わってきました。
ホラー小説は苦手なはずなのに、最後まで読まずにはいられませんでした。

17/11/18 W・アーム・スープレックス

いまや現実のほうがホラー以上の恐怖を帯びてきているので、このような内容になりました。私もあんまり陰惨なものは苦手ですが、ゴシックロマンと呼ばれる怪奇ファンタジーは、書いてみたいジャンルのひとつです。
ありがとうございました。

ログイン
アドセンス