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浅月庵さん

笑えるでも泣けるでも考えさせられるでも何でもいいから、面白い小説を書きたい。

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侵食アイデンティティー

17/11/08 コンテスト(テーマ):第148回 時空モノガタリ文学賞 【 ホラー 】 コメント:0件 浅月庵 閲覧数:104

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 彼氏のユーイチが浮気して、お相手が同じサークルのユリカだとわかった時に、やっぱりと思う。

「見てー! アミちゃんとおそろのネイルにしたんだぁ」
 すべてはユリカが私のネイルを見て可愛いと言ってくれたので、行きつけのサロンを教えてあげたことがきっかけだった。
 それからユリカはことあるごとに私をマネてくるようになった。お気に入りのコートやバッグ、ピアスだったり、携帯カバー。挙げ句の果てにペンケースやノートまで同じものを揃えてくるので、私はわかりやすく嫌悪感を示した。

「ユリカ、なんでもかんでもマネしてくるのやめてくれない? さすがに筆記用具まではちょっと……」
 でもユリカは特に悪びれる様子もなく、純粋無垢な表情で、ビー玉みたいな瞳を潤ませたのだ。
「私ね、本当にアミちゃんのことリスペクトしてるんだぁ。綺麗な髪に私好みの顔立ちにセンスも良くて。ついつい参考にしたくなっちゃうんだよね」
 ユリカだって充分可愛いのに、彼女は自分の容姿をあまり気に入っていないようだった。

 ただ思いをはっきり伝えた甲斐もあってか、ユリカが私の持ち物をマネることが極端に減った。
 再び前みたいな、平穏な日々が訪れたと、この時までは思っていた。

「アミさ、裏では私たちの悪口ベラベラ喋ってるみたいじゃん。最低だね」
 ある日の朝、親友のミーナと、よく集まって遊ぶ数人の女子が、私に反論の余地も与えないテンションで捲し立ててきた。
「え、何の話?」
「とぼけないでよ。散々あんた陰でユリカちゃんの悪口言っててさ、その話を聞いてる段階で正直、あんまり良い気はしなかったけど。まさか友達のことまで馬鹿にするとはね」
「ごめん。何の話をしてるのか理解できない。でも、きっと誤解だと思う」

 そう言うとミーナは溜息を吐いて“もういい”と、私を噛み飽きたガム扱いする。
 背を向けてミーナたちが歩くその先には、ユリカが笑顔で手を振っていた。
 おそらくユリカがミーナたちに嘘の情報を流して、私を孤立させようと試みたのだろう。

 ーーこれは、一連の“マネ”を咎めたことに対する、私への復讐かと一瞬考えたけど。
 意外と冷静な私の頭には、別の考察が黒い靄のように浮き上がっていた。

 そして、ユーイチがユリカと付き合い始めてしばらくして、私が別の学部のケンジと付き合って、そのケンジすら彼女に奪われたことで、答え合わせは完了する。

 “ユリカは、私になろうとしているのだ。”

 気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。
 私がユリカ好みの人間だからという、単純な理由でターゲットにする、その短絡的思考が気持ち悪いし、私の人間性故に手に入れられたものたちを、簡単に横取りするその浅ましさが気持ち悪い。

 ……私はどうにかしてユリカに一泡吹かせようと思いつき、計画を実行することにした。
 そして、数日後に企みは成功する。ユリカから携帯に送られてきたメッセと写真を見て、私は笑いが止まらなかった。

 “アミの大事なもの、全部もらうからね。”

「きゃははははは! 私がそんな“キモオタ”どもとエッチするわけねーじゃん!! ばっかじゃねぇーの!!」
 一人きりの部屋で、数人の学生と一緒に写るユリカの写真を見て、私はお腹を抱えてベッドの上を転げ回った。

 友達も彼氏も失って自暴自棄になっていた私は、できる限り女性と縁のない男子学生を数人捕まえて「セフレ」の関係だと、自ら周囲に噂を流した。当然ながら彼らとの肉体関係は一切ない。ただ、口裏を合わせてくれさえすれば、タダで“可愛い女の子とエッチができる”とだけ、彼らに伝えていた。

 結果的に、私のものをすべて奪いたがるユリカは“私の大事なセフレ(嘘・爆笑)”たちのお相手をしてあげたというわけだ。はは、馬鹿で可哀想な奴。自分の失態に気がついて死ねばいいのに。気持ち悪い。

 一通り笑い終えて、疲れて、喉が枯れたまま私はベッドから立ち上がると、携帯も財布も持たずに家を出た。

 ......夜空を眺める。
 私はこのまま大学を辞める。別の町に引っ越そうとも思う。服も全部捨てる。顔は変えられなくとも、髪型や髪色くらいは変えるかもしれない。喋り方も、性格も、二十年間積み上げてできた人格を、鍛冶職人のように一から叩き直す。ユリカが憎いとはいえ、あんな卑怯なマネに走るほど、私は厭な人間だっただろうか。私は私のことが決して嫌いではなかったはずだ。それなのになぜ、私のマネをするユリカのことを心底気持ち悪いと思っているのだろう。それは私が私自身のことを気持ち悪く思うことと、同意義なのではないだろうか。わからない。

 ーーもしかして、本当に馬鹿で可哀想なのは、私の方だったりする?

 心のなかで問いかけたはずなのに、それに反応するように、誰かの笑い声が聞こえた。


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