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文香さん

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迷い子

17/11/07 コンテスト(テーマ):第147回 時空モノガタリ文学賞 【 迷い 】 コメント:0件 文香 閲覧数:68

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 私には五つ上の兄と二つ上の姉がいる。
 兄のことは好きでも嫌いでもないが、私は姉のことが大嫌いだ。
 この家の娘として等しく生を受けたというのに、両親も兄も使用人も姉ばかりを大事にして、私のことなんてまるで眼中にないのだ。
 末の妹はどの家でも可愛がられる筈だというのに、そんな素振りはまるでない。
 その事実が家の中で姉の次に、いやでいやで仕方がない。

 体が弱い姉は学校へも行かず、家でごろごろしているばかり。両親は体が弱く家に篭もりがちの姉が可哀想なのかめっぽう甘い。
 生まれた時から体の弱かった姉を、両親はいつでも甲斐甲斐しく世話をしていた。両親が姉の世話をしなくとも使用人たちが全てをやってくれるのだというのに、両親はそれを自分たちの責務なのだと言ってやめようとはしない。
 姉とはなんとずるい生き物なのだろうか。
 いつの間にか、この家は姉を中心に全てが回るようになってしまっていた。
 私は常に姉の次。妹なのだから仕方がないことなのでは、と思われることと思う。だが、私には腹立たしい限りなのである。

 私とて幼少の頃は、体の弱い姉がいるので両親の負担にはなってはいけない、と自分で出来ることはなんでも自分でする様になったし、両親に甘えたり強請ったりすることなんてただの一度もなかった。
 しかし、姉と二人きりの時に思いがけない言葉をかけられた。
「貴女がお父様とお母様の気を引こうと何でも自分で出来る様になったところで、あのお二人は私のことしか見ていらっしゃらないのよ?無駄に足掻くのはおやめになったら?」
 姉は淑やかに笑っていたが、明らかに憐れむ者を見る目だった。
 その時の心境をなんと表現したら良いのか未だに分からない。嫉妬、侮蔑、恥辱、悲哀、全てが混ざり合った様ななんとも言えない心地。決して良いものではなかったのだが、その心地が消えることもなく今も心の中にわだかまっている。
 それ以来、姉の顔を見るだけで胸にあるこの思いが溢れ出ててしまう気がして、姉のことを考えるのも大嫌いになった。

 今日も女学校から帰れば縁側で日向ぼっこをしている姉がいた。
 飼い猫と楽しそうにじゃれている。ごろりと横になる姉に、はしたない、と注意する者はもはやこの家には誰もいない。
 ようやく私に気がついた姉は「あら、いたの?」と言った。
 私はひどく腹立たしい気持ちになって、姉に嫌みのひとつでも言いたくなった。
「お姉様、知っていまして?」
 姉は返事の代わりに欠伸をした。
「あまりにも寝てばかりいると、夢の中で迷い子になってしまうそうですよ」
「迷い子?初耳ねぇ」
「夢に囚われない様に精々お気をつけください」
 口早に言い終わると、私はすぐに姉に背を向けて自室へ向かう。私の背中に、姉の小馬鹿にする様な笑い声が聞こえてきた。いつもこうだ。私が何かを言う度に姉は私を笑う。腹立たしいことこの上ないというのに。

 そして、私との会話を最後に、姉は本当に夢の中で迷い子となってしまった。
 布団の中で寝てばかりいて起きる気配の全くないその様子はいつもの通りだというに、何度呼んでも、何度体を揺すってもぴくりとも動かない。
 姉のことだから、私が席を外した時だけ起きて私に意地悪をしているのかもしれない、と思った。しかし、一日中姉の前で座っているというのに、一向に動く様子はない。
 気が付けば、姉は美しく化粧を施され、白い着物に着替えていた。
 あぁ、なんだ、やはり姉は起きられるのではないか、と私はひどく安堵した。
 そう、姉に話したあれは私の作り話だったのだから当然だ。

 ねぇ、お姉様。
 意地悪はもうやめて、私の前でも起きていらしてよ。

 ねぇ、お姉様。


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