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蒼樹里緒さん

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扉の向こうは

17/11/07 コンテスト(テーマ):第148回 時空モノガタリ文学賞 【 ホラー 】 コメント:0件 蒼樹里緒 閲覧数:91

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 学校帰りに寄った、夕暮れの森。私の前にある大きな樹の根元に、小さな扉があった。私が幼稚園児だったら、立ったままでも楽に通れたかもしれない、木彫りの扉。四つん這いでくぐろうとしても、高校生になった今では頭も入りそうにない。取っ手もおもちゃみたいで、少しでも力を込めたら取れてしまいそうだ。
 扉がいつからこの森にあるのか、知っている人はほとんどいないだろう。私が物心ついてから来たときには、この樹ももうあった。
 そういえば、昔友達と遊んでいたときは、みんなこの扉が見えないと言っていた。母に連れられてきた日も、扉なんてどこにもないでしょ、と苦笑されたのだ。
 しゃがんで扉を見つめる。昔も、この扉を開けてみたいとは思っていた。けれど、なぜか手を伸ばせなかった。開けてはいけない、と言われているような気がして。ただの扉がしゃべるはずなんてないのに。
 今なら、開けられるだろうか。ノックをしたら、中から誰かが返事をくれるのだろうか。
 ゆっくりと片手を伸ばし、軽く叩いてみる。
 こんこん。
 ノックが返ってこないし、声も聞こえない。
 じゃあ、もう少し強めにしてみよう。
 今度は、バシバシとぶつようにした。それでも無反応。指が痛くなっただけだった。
 なら、体当たりだ。
 しゃがんだまま姿勢を横向きにして、肘を突き出す。
 どんっ。
 女子高生の体当たりなんて、大した威力はないだろうけれど。肘がじんじんと痛む。
 やっぱり、なにもいないのだろうか。
 ため息をこぼすと、どこからか声が聞こえてきた。

 ――綺麗ニナッタネ。

 男とも女とも、幼児とも若者とも老人ともつかない、不思議な声だった。
 ぞくり、と背筋をなにかが駆け抜ける。恐怖なのか興奮なのか、自分でもわからないけれど。
 この扉の向こうには、ちゃんと何かが住んでいるのだ。
 声をもっと聴きたくて、扉に向き直る。

 ――君ハ昔カラズット僕ヲ見テイタネ。本当ニ綺麗ニナッタ。

 待ってたの? 私を、ずっと。

 ――君ハ初メテ見タトキカラ美シカッタ。僕ヲ求メテクレルノヲ望ンデイタ。

 あなたは誰なの。
 そう訊きたいのに、なぜか声が出てこない。

 ――嗚呼、本当ニ嬉シイヨ。コレデ、ヤット、

 バンッ。

 扉が勢いよく開いて、樹の根のような太いものが何本も私に絡みついた。息ができない、苦しい。
 そうなってやっと、私は理解した。
 扉のかたちをしたものが、いや、この樹が、なにを欲しがっていたのかを。

 ――ヤット、君ヲ食ベラレル。

 さっきまでうるさく鳴いていたカラスたちが、一斉に飛び去っていく羽音だけが、聞こえた。

  ◆

 あの日、彼女はどこへ消えたんだろう。
 僕の幼なじみは、学校帰りに森へ行くと言ったきり、何日も帰ってこなくなってしまった。あの森は近所の遊び場としてはちょうどよかったけれど、日が落ちるとなにも見えなくなるから危ないのだ。
 おばさんに頼まれたのもあって、彼女を捜しに行こうと決めた。胸の奥がざわざわする。
 学ラン姿のまま、鞄だけを家に置いて出てきた。よくいるカラスの姿も、今は全然見かけない。たまに冷たい風が吹いて木々の葉が揺れるけれど、それ以外は静かだ。不気味なくらいに。小さい頃は、怖いだなんて一度も思わなかったのに。
 しばらく奥へ進むと、あるものを見つけた。彼女の着ていたセーラー服と靴だ。大きな木の根元に散らばっている。
 悲鳴を上げそうになるのを、どうにかこらえた。土まみれのそれを拾い上げる。
 彼女は、ここでどうなったんだろう。変質者にさらわれてしまったんだろうか。それとも――。
 ふと、思い出した。彼女がよく言っていた、扉の付いた樹の話。昔遊んだときは、そんなものは一度も見なかったし、ただのおとぎ話だと思っていた。
 でも、もしこの木がそうなんだとしたら――。
 こんこん。
 試しに幹をノックしてみたけれど、反応はない。やっぱり、おとぎ話だよな。
 とにかく、帰って警察に相談しよう。おばさんに彼女の持ち物を渡さないと。
 立ち上がった瞬間、どこかから名前を呼ばれた。
 ――間違いない、彼女の声だ。
 耳を澄ますと、近くから響いて来るのがわかる。僕もほっとして呼びかけた。
 よかった。みんな心配してるよ。一緒に帰ろう。
 ところが、彼女は一向に現れない。
 ざわり、と風が木々を揺さぶった。
 不意に、なにかが身体にいくつも巻きつく。木の根のようなものだとわかったとき、耳元で甘くささやかれた。

 ――ヤット見ツケタ。会イタカッタワ。

 逃げようとしても力が入らない。意識が闇に引きずり込まれる。
 おとぎ話は、暗い暗い現実だったらしい。


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