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ちりぬるをさん

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死亡フラグにご用心

17/11/06 コンテスト(テーマ):第148回 時空モノガタリ文学賞 【 ホラー 】 コメント:0件 ちりぬるを 閲覧数:77

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 いつも客なんてそんなにいないのに、と心の中で悪態をついた。仕事帰りに彼氏が観たいと言い出したDVDを借りに来たのだが、さすが話題作だけあって見事に全部貸し出し中の札がつけられていた。映画が公開中に私がいくら誘っても観に行かなかったくせにどうして今更心変わりをしたのだろうかと彼氏にさえ腹が立ち始めた。
 腹いせに全然違うのを借りていってやろうといたずら心が芽生え、私はホラー映画の棚の前に立つ。高校生の男女の体が入れ替わる恋愛映画の代わりに高校生の男女がゾンビに追いかけ回される映画を手に取った。

「なんでやねん!」という健のへたくそな関西弁を私は背中越しに聞いた。髪を束ね、彼の部屋の台所でパスタを茹でながら。
「仕方ないじゃない、なかったんだから」
 ないのなら代用品を使うしかない。冷蔵庫の中にひき肉がなかった代わりにツナ缶を使うように。
「それでもジャンルは考えようぜ。これ高校生しか共通点ないじゃんか」
「そんなに言うなら自分で借りてくれば良かったじゃないの。ほら早くセットして、予告が終わるまでにはご飯出来るから」
 返す言葉を失った彼がテレビをつける。私は茹で上がったパスタをフライパンに移し、ツナと醤油をからめた。皿に盛りつけると同時に彼がやってきてテーブルへ運ぶ。私は冷蔵庫から缶ビールを取り出し、二人で理由もなく乾杯をした。

 映画はなぜか閉鎖された高校に、なぜか謎のウイルスが散布され、なぜか取り残された一クラス分の生徒達がウイルスによってゾンビになった同級生に襲われるという内容だった。いわゆるB級映画だ。パスタを平らげ、お菓子をつまみに二本目のビールに口を付ける頃には物語は中盤に差し掛かっていた。
「ああ、こいつ死ぬな」
 散々文句を言っていたくせに私よりも楽しそうに映画を観ていた健が言った。その予言から数分後にその生徒は窓ガラスを割って侵入してきたゾンビに殺されてしまった。その悲鳴を聞きながら健がビールを飲む。古いソファーがギシっと音をたてた。
「なんで分かったの?」
「死亡フラグって言葉があってな……」
「あ、知ってる。この戦いが終わったら俺結婚するんだってやつでしょ?」
「そうそう。他にも仲間と対立して一人になるとか、それまで目立たなかったのに急に過去が語られるとか色んなパターンがある」
 へー、私が相づちを打っている間にまた一人女子生徒がゾンビの犠牲になった。
「今のは?」
「好きな男の所に行こうとしただろ? ホラー映画でそういう色恋沙汰に走ったやつも死ぬんだよ。好きな女の子をかばって死ぬのとかな」
 健が得意げに講釈をたれる。こんなに上機嫌になるならこれを借りてきて正解だったんじゃないかと思う。
「もし私がゾンビに襲われたらかばってくれる?」
「おっと、気をつけろ。そういう例え話も死亡フラグになるからな」
「真面目に言ってるんだけど。もう、今日がなんの日か覚えてないでしょ?」
「そんなわけないだろ?」
 健が荒っぽくビールの缶をテーブルに置いた。
「そのために呼んだんだから」
 そう言いながら健はソファーのクッションの裏をまさぐる。映画はクライマックスを迎えて高校生達の阿鼻叫喚が聞こえていたが、私の視線はすでに健の手元に注がれていて画面なんて一切観ていなかった。
「付き合って三年記念の今日に渡したかったんだ。だからゾンビ映画は嫌だったんだよ」
 映画やドラマでしか見たことのなかった紺色の指輪ケースを健が開くと、やはり現実では見たことのなかった大きなダイヤの指輪が現れた。私の薬指にそれをゆっくりと通す健の指が緊張のせいか震えている。私の薬指にぴったりと収まったダイヤが涙で滲む。
「この映画を観終わったら、一緒に婚姻届書こうな」
 私は答えの代わりに思い切り健に抱きついた。健も私の頭を乱暴に撫でる。もう映画どころではなかった。

 最初に違和感を覚えたのは私だった。指輪をつけたぐらいからずいぶん静かだなと気付いた。映画が終わっていたにせよエンドロールが流れた様子もない。気になって画面を見ると数人の生徒達が教室に横たわっていた。その中には主人公の女の子の姿もある。どんなシーンだったんだろう? と少し気になった私は巻き戻して観てみようとテーブルの上のリモコンに手を伸ばした。
「なあ、美穂。この映画って3Dだったっけ?」
 怪訝そうに言う健の視線の先には血だらけの制服を着たゾンビが立っていて、私がそれを認識した瞬間に健の頭に噛み付いた。私の顔に鮮血が飛び散る。
「ごめん……フラグ成立させちまったみたいだ……」
 体を痙攣させながら振り絞るように私の耳元で呟いた健の声。それが私がこの世で聞いた最後の言葉だった。


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