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そらの珊瑚さん

🌼初めての詩集【うず】を上梓しました。  (土曜美術出版販売・現代詩の新鋭シリーズ30) 🌼小説や詩、短歌などを創作しております。 🌼作品を置いています。よろしかったらお立ち寄りくださいませ。 「珊瑚の櫂」http://sanngo.exblog.jp/14233561/ 🌼ツイッター@sangosorano 時々つぶやきます。 🌼詩の季刊誌(年4回発行)「きらる」(太陽書房)に参加しています。私を含めて10人の詩人によるアンソロジー集です。アマゾンでお買い上げいただけます。      ✿御礼✿「馬」のオーナーコンテストにご参加いただきました皆様、ありがとうございました。

性別 女性
将来の夢 星座になること
座右の銘 珊瑚の夢は夜ひらく

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秋の日に降りそそぐ優しい雨

17/11/06 コンテスト(テーマ):第146回 時空モノガタリ文学賞 【 デート 】 コメント:4件 そらの珊瑚 閲覧数:216

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 イチョウの樹々が落とした葉で、公園はまるで黄色いじゅうたんをしきつめたよう。
 晴れ渡った青い空に千切れた雲が流れてゆく。日曜日の公園。夫も一緒に来るはずだったが急な仕事が入り、娘と二人で歩く。
 すれ違うカップルたちが皆幸せそうに見えた。
「いいわね、私もたまにはデートしたいわっ」
 心でつぶやいたつもりなのに、うっかりそれが口から飛び出してしまう。あわてて口を手で押さえたものの、もう遅い。
「なあに? ママ。デートって」
 五歳になる娘のちひろは母親の小さなつぶやきも見逃さない。
「デートって、そうだなあ、男の子と女の子が仲良く遊ぶ事よ」
「ふうん。そんならちひろ、幼稚園でいつもやってるよ」
「幼稚園で男の子と遊ぶのはちょっと違うかなあ。幼稚園の外、例えば今日みたいな日曜日に待ち合わせして遊ぶ事なの」
「ママしたことあるの? デート」
「結婚する前にパパとよくデートしたよ。でも結婚してからは、してないかな」
 結婚して一年で娘が生まれ、それからデートなんて無縁。結婚は生活だ。そう割り切ってみたものの、まだ三十半ばの身にとって一抹の寂しさも感じてしまう。
「ママ、デートしたい?」
 ちひろの澄んだ黒い瞳が私を見上げる。
「ちひろが遊んでくれるから、いい」
「だけどそれじゃデートじゃないよ。女と女はデートじゃないんでしょ」
「まあいいじゃん、細かいとこは」
「ちひろはしてみたいなあ、デート。誰がいいかなあ、タカ君にしようかな、それともジュン君かな……デート!デート!」
 ちひろは黄色いじゅうたんをけ散らすように駆け出した。
「ちひろ、待って」
「きゃはは、ママ、おそー」

 弾丸のように走る娘にやっと追いつく。ちひろはベンチに座っている老人のカップルと何やら話してたみたい。
「ママ―、このおじいちゃんとおばあちゃん、デートしてるんだって」
「そう、いいわねえ」
「活発な娘さんですね」
 私はベンチの二人連れに頭を下げた。
 おじいさんは茶色のツイードのスーツにグレーの帽子。おばあさんの方はモスグリーンのコートに黒いファーの襟巻、薄化粧し銀髪が綺麗にセットされてる。昔の映画に出てきそうな上品なカップルだった。夫婦だろうか。年をとってもこんな風にお洒落して公園でデートするって、なんて素敵なんだろう。たまの休みの日パジャマ代わりのスウェット上下で一日過ごす夫とすっぴんの私とは大違いだ。
「活発過ぎて、追いかける私はいつも息切れしてます」
「今が一番幸せな時ね」
 おばあさんがそう云いにっこり笑う。世間でよく聞く、今が一番幸せな時。不幸ではないとは思うけど、幸せという実感はいまいち薄い。
「デートは何回目ですか?」
 ちひろが訊く。
「こら、変な事きくんじゃありません」
「いいんですよ。デートはね、二回目なんだ、僕ら」
「そうなの。一回目はね、もう何十年も昔の話。おじょうちゃんのママも生まれてない頃の事よ」
「そうなんですか」
「あら、こんな昔の話、興味ないわよね」
「いいえ、そんな事ありません。是非聞きたいです。ねえ、ちひろ」
 ちひろの方を見ると、イチョウの落ち葉を拾って集めている。子どもは移り気だ。
「私は二十歳。若かったわ」
「おばあちゃん、若かったの? ママよりも?」
「ええ、ピチピチだったわよ。ほほほ」
「僕は大学生でね、図書館の受付をしてたこの人にある日デートを申し込んだんです。僕に召集令状が来て、戦争に行く前に一度だけデートして下さいって」
「私びっくりしたけど、顔見知りの人だったし、そういう事情ならって承諾したの」
「で、写真館へ行って二人で記念写真を撮って、生きて帰ってくるから待っていて欲しいって言いました」
「それからどうなったんですか?」
「幸い僕は生き残った。が、終戦から一年ほどシベリアに抑留されてね、日本に帰ってきて、この人が結婚したと人づてに聞いたんです」
「だって死んだと思うじゃない」
「アメリカ女性も日本女性も薄情なもんです」
 おじいさんは戦後研究者となりアメリカへ渡りアメリカ女性と結婚したものの離婚したそうだ。結婚したおばあさんは今は娘、孫と暮らしていて、夫とは数年前死別したとか。二人を再び結び付けたのはフェイスブック。
「もしや生きてるかもって思ってね、娘に捜してもらったのよ。そして今日二回目のデートっていうわけ」
 驚いた事におじいさんは最初のデートで撮ったという写真を持参していた。セピア色のその中に初々しいカップルがいて私を真っ直ぐに見る。――今が一番幸せな時。二人はその頃思いもしなかっただろう。

 ちひろが集めた葉を空へ放つ。
 陽光にきらめきながら舞うそれらは、誰も濡らすことのない優しい雨のようだった。
 幸せな時間とはなんと儚げなんだろう。なんと美しいのだろう。

 


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このストーリーに関するコメント

17/11/07 泡沫恋歌

そらの珊瑚 様、拝読しました。

とっても素敵なお話ですね。
最近は熟年同士の恋愛も活発だと聞きます。
いくつになってもデートできる相手がいるなんて幸せなことです。

17/11/08 霜月秋介

そらの珊瑚さま、拝読しました。

二人それぞれ結婚した時は、お互いまさかこうして二度目のデートができることなど、予想もしてなかったでしょうね。自分も銀杏の葉が敷き詰められた公園を歩きたくなりました。素敵なお話を有難うございます。

17/11/21 そらの珊瑚

泡沫恋歌さん、ありがうござます。

SNSがある時代、人探しも昔に比べたら簡単になりましたよね。
それがいいことばかりではないにしろ、こんな再会があったら素敵だろうなあと思い、書いてみました。

17/11/21 そらの珊瑚

霜月秋介さん、ありがとうございます。

そうでしょうね。
昔は別れてしまえば、互いの消息もしれずに人生を終わっていったのでしょう。
そういう意味ではインターネットがある今の時代というのは、いい時代といえるのかもしれませんね♪

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