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宮下 倖さん

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「待った?」と言いたい

17/11/06 コンテスト(テーマ):第146回 時空モノガタリ文学賞 【 デート 】 コメント:0件 宮下 倖 閲覧数:100

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 人生において「初」と冠するものはさまざまあるが「初デート」は相当浮かれ、かつ緊張するものの上位にくるだろう。
 アリサは両手にそれぞれ持ったピンクと水色のカットソーを交互に胸にあてながら、姿見の前で大きく息を吐く。
 二十二歳にして初めてできたカレシ、ユウジとの初デートは明日だ。いや、さっき日付が変わったから正確にはもう今日になる。
 よし水色にしようと頷いてピンクのほうをクローゼットにしまうも、いや待てよと思い直して新たに若草色のブラウスを引っぱりだす。さっきから延々とそんなことの繰り返しだった。
 ユウジに可愛いと思われたい。カノジョに選んでよかったと思われたい。
 メイクはどうしよう? 髪型は? 靴は?
 なにが食べたい? って訊かれたらなんて答えよう。
「なんでもいい」はかえってよくないって誰かが言ってた。可愛く食べられるものがいいな。箸つかいに自信がないから和食はちょっと。パスタは食べ方が難しいから絶対だめだし……。
 ひとつの想像から果てしなく広がっていく明日への期待と不安。
 誰でも初デートはこんなふうにどきどきしたりするのだろうか。
 あ、デートと言えば……あれやりたいなあ。
 アリサはうっとりと目を閉じる。
「待った?」「ううん、いま来たとこ」
 ベタだし、人に話したら笑われるから言わないが、アリサには憧れのやりとりである。
「待った?」「ううん、いま来たとこ」「待った?」「ううん、いま来たとこ」
 ユウジの優しい笑顔を思いだし、アリサは持っていたブラウスをぎゅうっと抱きしめた。

 人生において「初」と冠するものはさまざまあるが「初デート」はひどく緊張し、かつおそろしく浮かれるものの上位にくるだろう。
 ユウジはベッドに寝転がりながら読んでいたタウン誌から目を上げた。雑誌に載っている情報は豊富だが、なかなか行先が決まらない。
 二十二歳にして初めてできたカノジョ、アリサとの初デートは明日だ。いや、もう日付は変わったはずだから正確には今日になってしまった。
 映画はありきたりだし、遊園地はユウジ自身が少々苦手だ。水族館はよさそうだがちょっと遠いのが難点か。
 ああそうだ。食事の場所も考えておかねば。アリサはなにが好きだろう? 
 女の子にはイタリアンあたりが人気だろうか。そういえば最近できたパスタ専門店の評判がいいと誰かが言っていたっけ。
 アリサには頼れる男と思われたい。カレシに選んでよかったと思われたい。
 しっかりプランを立てておかなくては。当日まごまごしていたらみっともない。
 考え出したら止まらない明日への期待と不安。
 好きな女の子とのデートというのはこんなにも心臓が痛くなるものなのか。
 あ、デートと言えば……あれやりたいなあ。
 ユウジはベッドに仰向けになり小さく笑んだ。
「待った?」「ううん、いま来たとこ」
 ベタだし、人に話したら笑われるから言わないが、ユウジには憧れのやりとりである。
「待った?」「ううん、いま来たとこ」「待った?」「ううん、いま来たとこ」
 アリサの愛らしい笑顔を思いだし、ユウジは持っていたタウン誌でぱたぱたと顔を扇いだ。

 翌日の待ち合わせ場所。ほぼ時間通りにふたりは着いた。
 すぐに互いに気づいて歩み寄る。
 あの憧れのやりとりを現実のものにするために「待った?」とまず言いたい。
(待った? ううん、いま来たとこ……待った? ううん、いま来たとこ)
 ふたりは向き合って見つめ合い、同時に声をあげた。
「ううん、いま来たとこ!」

 ―― * * * ――

 本当に何度思いだしても笑える。
 アリサは楽しそうにそう言い、ユウジも笑い含みで頷いた。
 クローゼットの整理をしていたら、あの日来ていた水色のカットソーが出てきた。まだサイズが合うことに気をよくしたアリサがそれを着てみせたのが思いだすきっかけだった。
「なんの話?」
「パパとママの初デートの話よ」
「えっ? 聞きたい聞きたい!」
「おいアリサ、子どもにする話じゃ……」
 ユウジは止めたが、アリサは高校生になった娘を伴って楽しげにキッチンへ入っていく。
 弾んだふたりの笑い声を聞きながら「そういやあの日はパスタを食べそこなったんだっけなあ」と記憶を浚う。
「パスタは苦手なの」と俯くアリサの本当の理由を知ったときの愛おしさまで甦り、ユウジはやわらかく微笑んだ。


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