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クナリさん

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将来の夢 絵本作家
座右の銘 明日の自分がきっとがんばる。

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鶏病 にわとりびょう)

17/11/06 コンテスト(テーマ):第148回 時空モノガタリ文学賞 【 ホラー 】 コメント:2件 クナリ 閲覧数:133

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 ようこそ。
 こんな田舎まで、私のような年寄りの話を聞きに来るとは、物好きですな。
 ええ、鶏病のことですね。

 あれを私が目にしたのは、まだ十二歳の頃です。
 ここは山の中の村ですが、それでもずいぶん見目のいい、タキさんという、当時十五六だったかな、そんな娘が近所におりました。他の女は赤ん坊が老婆ばっかりですわ。
 ある日のことです。
 戦後すぐで物もない状態だったものですから、母に頼まれて、タキさんのところへ味噌かなにか、借りに行ったのです。
 うちは鶏を飼っていたので、その卵と引き換えにね。時には、ヒナを産ませるためにつがわせたのが、あさましく重なったりしておりました。
 下賤なトリども、残らずひねってやりたい気持ちになったものです。

 私と入れ替わりに、近所に住む小父さんが一人、私の家にやって来ました。うちは戦争で父を失っていましたから、いろいろ相談に乗ってくださっていてね。
 難しい話もするからと、その小父さんがうちに来る時は、私は家から出るように言われていました。
 母にそうしろと言われれば仕方がない。私は女手ひとつで育ててくれる母を、心底敬愛しておりましたから。
 新しい夫を迎えるでもなく、気丈夫な母たらんとする姿は、神々しくさえありました。

 さて、タキさんは彼女の家の納屋の前ですぐに見つけたのですが、その顔が変なのです。
 目は丸く見開かれ、まるで感情がこもっておらず、まるで鳥の目のようです。
「タキさん」
と話しかけました。すると
「おぽんぽんぽ」
と異様な答。
「おぽんぽんぽ。おぽんぽんぽ」
 私を見ながら声を出してはいるのですが、そんな調子なのです。
 すると、タキさんの形相がおかしくなってきました。
 突き出した唇は嘴になり、広げた両手は羽になり、体には薄黄色い羽毛が生え、さしずめ、人の大きさの鶏になってしまったのです。
 私は、この化け物を殺さなくてはならないと思い、とっさに横にあったナタを手に取りました。
 そして、タキさんの変わり果てた怪物の首を、一太刀に切り落としたのです。
 吊るして首を切ってやった鶏そっくりに血をしぶかせて、怪物は倒れました。

 私は、震え上がりながら、家へ駆け込みました。
 すると、ちょうど例の小父さんがうちから出てくるところでした。
 私が玄関から上がると、居間の隅で、母がぐったりとしていました。
 母は首を持ち上げると、とがめるような顔つきで私を睨みます。
 ああ、きちんとお使いもしないで、こんなに早く帰ってきたことを叱られるのだ、と私は直感しました。
 しかし、母の口から出た言葉は、
「おぽんぽんぽ」
 私は、総毛立ちました。
 これはもしや、流行り病の類なのか。
 母もタキさんと同じ病気になってしまったのでしょうか。
 母の顔は尖り始め、口は嘴に、髪はとさかに、両腕は羽になります。足には鍵爪が生え、つるつるとして美しかった肌にはおぞましい羽毛が生え出しました。
 この時の私が、どんなに凄まじい恐怖に打ちのめされていたか、お伝えすることは難しい。
 私は身も世もなくなった心持ちで、台所に飛び込みました。
 包丁を持ち出し、変わり果てた母の元へ戻り、
「母さんを返せ」
と叫びました。しかし返答は、
「おぽんぽんぽ。おぽんぽんぽ」……
 私は泣き叫びながら、巨大な鶏に切りかかり、羽だの足だの散々に切りつけました。
 居間の中には、鶏の体の破片が飛び散り、阿鼻叫喚の様相です。
 息も絶え絶えになった奴に馬乗りになった私は、鶏の目を覗きこみました。
 するとそこには、わずかながら、母らしき気配があるではありませんか。
 鶏が口を開きました。
 私は、もしや母が治り、私の名を呼ぶのではないかとときめきました。しかし、
「おぽんぽんぽんぽんぽんぽ」
 私は激昂して包丁を降り下ろし、首を真一文字に切ってやったのでした。

 幸い、あの病が国中に広がったという話は聞きません。
 犠牲になったのが二人だけで、まだ良かったと言えるのかもしれませんな。私は、とてつもなく恐ろしい思いをしましたが……。
 ん、何です?
 私が今いるここですか?
 ここは我が家ですよ。母と暮らした生家だ。病院やら牢屋やら、そんな場所とは私は無縁ですが?
 ところで、あなたは記者さんでしたね。私のことなどより、ご自分のことをご心配なさった方がいい。
 なぜって、先刻からあなたの横に座っている、それ。
 あなたは部下の見習い女だとおっしゃいましたが、鶏になっておいでだ。鶏病にかかっている。移るかもしれませんよ。

 さあ、もうよろしいか。
 母だった鶏は、そこの庭に埋めたのです。
 後年掘り出すと、骨は人間の形をしていました。
 あの優しく気高い母は、死んでようやく、私の母に戻ってくれたのですよ。


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このストーリーに関するコメント

17/11/13 秋 ひのこ

こんにちは。
ホラーは苦手なのですが(だから今回のテーマは読むのも書くのも困っています)、最後まで読んでしまいました……。
こ、怖かったです……。人間の想像力に挑みかけてくる作品ですね!
「おぽんぽんぽ」はどこから思いつかれたのですか? 
フレーズが頭にこびりついて離れません(苦笑)。

17/11/18 クナリ

秋 ひのこさん>
ホラーはなかなか苦手な方には大変ですよね(^^;)。
おぽんぽんぽは、何かこう、「意味不明な言葉を突然目の前の人間が言い出したとして、どんな響きが一番怖いだろう」というヤな思索から生まれました…。
ちょっと間が抜けてる感じで、いかにも意味のない鳴き声ぽいのが気味悪くていい(?)かなあと…!

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