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鬼風神GOさん

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ワンドロイド

17/11/05 コンテスト(テーマ):第147回 時空モノガタリ文学賞 【 迷い 】 コメント:0件 鬼風神GO 閲覧数:323

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たっち≠オていたクロ丸が尻餅をついてそのままの勢いで後ろ向きに転んだ。たっち≠ニは「しつけカテゴリ」の一つで、えさである電磁チップを目の前でかかげると立っておねだりするという動作のことである。
 もともとはそれだけの動作だったものが動作確認中に転んだ動きが胸が苦しくなるほどのかわいさだったので、立って転ぶまでの一連の動作をプログラミングしていた。
 クロ丸とは来年の春の公式発表を予定している、KAWARA社が開発中の犬型電脳ペットワンドロイド≠フ第三世代の試作品であるK−77D.1≠フ愛称だ。
 もちろんちゃんと吠える。数百種類の犬のそれを合成し、日本人の耳になじむものがインプットされている。
 ワンドロイド開発事業部の者としては最終調整の時期であるにも関わらず、作業は進んでいなかった。試作品であることを示す黒に塗装された特殊プラスチックのボディは伏せの態勢をとっており心なしかさみしそうな表情に見える。
 頬杖をついているとまたクロ丸がたっち≠オた。主任の宮野さんが電磁チップをいたずらっ子のような表情で手をぷらぷらと動かし、クロ丸の注意を引いている。
「なに一丁前にサボってんだよ」
視線をクロ丸から外さずに声をかけてくる。
「……」
 このまま無視をしようとしても宮野さんはおかまいなしだ。
「たっち≠ェ部長に却下されたからか」
「別にそんなことじゃありません」
「他のやつらに望月がどう映るか考えろ。つまらないことで評判落とすようなことするな。ほら仕事、仕事」
「はい。……あの」
「ん?」
「いや、やっぱいいです」
 だめだ。今言い出すことじゃない。
 少しいぶかりながら離れていく背中を見ながら心の中で謝る。と、宮野さんがこちらに振り向いた。
「忘れてた。ほら」
 何かを放り投げてきたのでわたしは慌てて、え、え、と言いながら受け取る。
「それでも食って気合い入れろ」
 大好物のオニオンチーズパンだった。宮野さんはくるりと振り返るとすたすたと去っていった。

 腕時計はちょうど午前二時を指している。セキュリティは事前に切っておいた。この段階になって自分が何をしようとしているのか、ヘドロのような感情が腹の底からせりあがってくる感覚に陥るが、どうせクビになってもいい身だ。
 目的のものが入っているロッカーに暗号キーを入力しようとしたそのときだった。
「なにやってんだ」
「ひゃっ」
 わたしは情けない声をあげて、硬直した。
 室内の明かりがついて、振り向くとそこには宮野さんがいた。
「何しようとしてたか当ててやろうか。試作品の活動期間のリミット解除キーだろ」
 試作品は、情報の流出防止、長期間の稼働を想定していないことから一年たつと自動的にAIチップが内部で焼かれ、その動きを止める仕様となっている。活動期間のリミットをなくす解除キーの利用は一部の者にしか許されていない。
 沈黙しているわたしの様子を肯定と受け取り、宮野さんは続ける。
「愛着湧くから試作品に名前なんて付けるなって言っただろ」
「わたしこの会社辞めます。試作品はまるで物を扱うみたいにすぐに廃棄して、完成すると次の開発に進んで……。クロ丸がずっと生きられるようにしたいんです。見逃してください」
「じゃあ試作品全部救えよ」
「それは−−」
「そんな薄っぺらい正義なんて捨てろ。気持ちは分かる。だけどな今までのワンドロイドが人々に愛されたのは何百体、何千体の試作品の廃棄の上に成り立ってるんだ。俺もお前みたいなときがあった。日数が限られているなか、テストを少し省略した」
 宮野さんはまるでその光景がそこに映されているかのように握った拳を見つめていた。
「子供達に試遊をしてもらっているときに誤動作を起こして、子供がびっくりして転んでけがをさせてしまった。大事には至らなかったが、俺は開発リーダーをやめた」
「無理なんです。こんな気持ちのままで仕事を続けることはできません」
「それでいい。そのままでいいんだ。葛藤して、何度も壁にぶつかって、それを経て生まれたものこそが人に感動を与えることができると俺は信じている。とりあえず今のワンドロイドが完成するまでは辞めるな。完成しても同じ気持ちだったら辞めていいから」

 いくつかの季節が過ぎてようやく試遊の日を迎えた。まだわだかまりもあるが以前と比べると気持ちは幾分すっきりとしていた。
 目の前で子供達がワンドロイドを手に遊んでいる。すると一体のワンドロイドがたっち≠オた。信じられなかった。もちろんAIが働いてその動きを再現したということなのだろうが、わたしとクロ丸との日々の意味がそこにあるかのように思えた。
 宮野さんを見るといつもの人懐っこい笑顔で小さく親指を立てている。
 そのワンドロイドがこちらを向いて、ワンと吠えた気がした。


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